ユキ・シオン

先生に拾われました

５Ｐ

「せん、せ……の、変態。死ね」


「くっ……お前、声が出るようになったからってそれか。まずは“ありがとう”でしょ。素直じゃないんだから」


　やっと言えた。スッキリ。


　自分で言うのもなんだが、命の恩人に向かって言う言葉じゃねぇな。けど先生、俺が「助けてくれてありがとうございます」って言うと思って待ってたんだぜ？


「あー、だめだめ。今日はもう声を出さないで、悪化するかもしれないから黙ってなさい。ね？」


　ニヤッと笑って、さらに続けようとしたら大きな手の平で口を塞がれた。大きな溜め息を吐いて、俺の肩を押して座らせる。


　先生も隣に腰を下ろして、ふとなおも睨みつける俺を見つめるとスッと離れた。俺の肩から手を離す。


　慌てて手を床に突いて、そんなに辛くない。恐る恐る、床から手を離して。そして背筋を伸ばしてみる。


　あ。自力で座っていられる。ゆっくり休んで、水分も栄養も摂って回復したから？精神的にも安心して、余裕が出てきたのかもしれねぇな。


　先生とはいえ、オッサンと一緒にいて安心するとか。先生の気が変わって、いつ俺を警察に突き出すなんて言い出すかもしれないのに。


　座っている感じからして、なんか平気な感じ。これはもしかして。


　俺は床に両手をついて、グッと力を入れる。腹と足に力を入れて上半身を伸ばす。しゃがんだ状態から少し伸びたところで体がグラッと、バランスを崩した。


「おっと！危ない危ない。慌てるな、立ったり歩いたりはまだ無理だ。もうちょっとだけ我慢しなさい」