警察の犬は雨天がお好き

ハッピーバースデー

７P

　戸籍なんてなくていい。この世界に存在しなくても、僕のことを知ってくれている人がいる。見てくれる、話しかけてくれる、触れてくれる。


　皆、僕を認めてくれる。柚樹さんと心がつながった時、世界が一気に明るく眩しくなった。


　快晴。天気も、僕の心も。ずっと雨が降っていた。仕事の時も、出かける時も雨の日が多かったのに。いつも黒い傘を持ってたからかなぁ？


　黒い傘は、今でも持ってるよ。殺し屋と戦ったせいでボロボロになったけどなんとか直したから。


　柚樹さんの仕事の手伝いも、継続。手伝いも、黒い傘を持つのもやめたら、僕が僕じゃなくなるような気がして。それに、続けたいんだ。


　僕は僕なりにこの世界を幸せに生きる。生きたい理由が、ある。


「ミナギ、手が止まってるぞ。考え事か？」


　今日と明日はなんとか無理矢理、柚樹さんが休みを取った。昼食後、僕と柚樹さんは２人でキッチンに並んでとある作業中。


　笑えるくらい、柚樹さんはエプロンが似合わない。お腹を抱えて笑ったら半分に折って腰巻にして、あら不思議。オシャレなエプロン姿に見入っちゃった。


　そう、料理を作ってる。でも晩御飯の仕込みじゃない。


　料理なんてほとんどしたことのない柚樹さんが急に言い出したんだ。どうしても今日、僕と一緒に作りたいって。だから、作り方を教えて欲しいって。


「え？あー、柚樹さんに出会ってからの走馬灯がね。大丈夫、戻ってきたから。ただいま。そっちはどんな感じ？んー、もうちょっと頑張って」


「走馬灯ってなぁ。まだかよ。いい加減、腕が痛くなってきたぜ。普通は電動ミキサーを使う――」


「電動は簡単だしすぐにできるよ。でも、それだと一生懸命作ってる感じがないじゃん。だから……僕のために、愛情を込めて作ってね？」