警察の犬は雨天がお好き

ハッピーバースデー

４P

　柚樹さんの命を狙ってプロの殺し屋が家に侵入してきた日。今でも不思議に思う。飼い主だから、それ以上に、大好きな人を守るために僕だけで捕まえないといけなかったのに。


　どうしてあの時、僕は彼に電話をかけちゃったんだろう？一目見てすぐにわかった。僕じゃあ殺し屋には勝てない。なんとか上手くいって、刺し違えだって。


　あぁ、だからかな。どうせ死ぬなら、最後に柚樹さんの声を聞きたいって思ったのかもしれない。


　ボロいアパート、それもワンルーム。柚樹さんを待ち伏せしようとしている殺し屋が、実は同居人の僕がいるのに気づくのは時間の問題。


　だってワンルーム。トイレのドアの裏に隠れていた僕は、懸命に気配を殺しながら考えていた。どうやって戦おう？


　でも僕は彼に電話をかけてしまった。彼は絶対に戻ってくる。それまでに片付けなきゃ。なら、気付かれる前に殺し屋を、殺す。


　完全に油断していた殺し屋に飛びかかった。相棒の黒い傘はコンパクトに振るって、殺し屋の攻撃を避けるのに徹する。


　でも、さすがは殺し屋。素早さは僕の方が速くても、決定的な攻撃が決まらない。殺し屋のナイフが僕の体を斬りつける、突き刺さる。真っ赤な血が飛び散る。


　柚樹さんとの暮らしが赤く染まる。それでも、やられるわけにはいかない。柚樹さんは僕が守る。指１本触れさせない、傷つけさせない。


　強い想いがあっても、僕の負けは目の前。タックルで押し倒され、一気にナイフが迫りくる。


　とっさに素手でナイフを握って止めたけれど、力で押し込まれる。あぁだめだ。だめなのに、僕は殺される。ここまでなんだ。


　負けを、死を悟った時だった。一瞬で視界が拓けた。殺し屋の大きな体が吹っ飛んで、それが、飛び込んできた柚樹さんのおかげなんだと気付いたら力が抜けた。