moon child

本物の偽物

２０P

　本当はライトは本物の月子ではないのだから他の月子達とは心が繋がっていない。代わりに、本物の月子壱号であるアーシルは繋がっている。


　しかし、そのことを神楽は知らない。知っていれば利用していたはずだ。アーシルに他の月子達を探らせ、もっと酷い方法でチユニを殺そうとしていたに違いない。


　アーシルは弐号であるシャノンが生まれてからずっと、彼らの暮らしぶり――幸せを、心の中で感じていた。


　自分の存在を悟られないよう、たまにチラッと覗くくらいで自分の心に気付かれないよう気を付けながら。遠くから見ていた。


　だからこそ、チユニと他の月子達との関係をよくわかっている。うるさいくらいにはしゃいで、喧嘩をして、泣いて、楽しそうにしているのを見ていることしかできない。


　寂しい、羨ましいと思うこともあっただろう。でもアーシルには神楽がいる。人工でも子供がいる。


　自分には自分の居場所がある、家族がいる。だから今の自分は十分幸せなんだ。そう、割り切っている。


「私はね、アーシル。君が神楽君を心底慕ってくれているのが嬉しいんだよ。でもね、今の彼は神楽君じゃない。悪い悪い邪神。このままじゃ、神楽君は本当に邪神に殺されてしまうんだよ」


　チユニは手を伸ばし、アーシルの手を両手で包み込むように握った。彼女の顔を見上げ、震える手でギュッと握り締める。


「そうだね、僕もそう思うよ。うん。はぁ。ふぅーん……」


　アーシルはゆっくり目を開いた。薄いグレーと深い夜空色の瞳がチユニを見つめ返し、スッと無表情になる。


　そのまま顔を真上に向け、また目を閉じた。何か、考え込んでいるのか？ゆったり、深い呼吸を数回繰り返すと、肩を震わせて笑った。