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本物の偽物
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しおりを挟むそれほど、神楽の中にある闇は深く濃くなっている。彼自身ではもうどうもできないくらいに。彼本来の心は、もうなくなってしまったのだろうか。
ライトのように壊れてしまったのか、邪神に食われてしまったのか。はたまた、全てを諦めて現実逃避。両目を閉じ、両手で耳を塞いで、背中を向けているのか。
「ライト、そこにいるんだろう?そんなので隠れたつもりかい?私には、皆にはわかるよ。怒っていないから早く戻っておいで」
とても優しい、耳に心地よい声でアーシルを振り向かせたのは、両手を広げて微笑むチユニ。
アーシルの――アーシルの中にいる彼に向けられた優しい声は、この場にいる12人の目を奪ってしまった。
終わりを待っている神楽も、アーシルの言葉でその場を動けないでいる月影と双子も、圧倒的な力の差でアーシルに倒されてしまった月子達も。
皆、顔を上げてチユニの茶色い瞳を見つめている。彼女が言った言葉が信じられなくて、信じたくなくて、信じたくて。
「ねぇ、チユニにとってライトって何?moon childって何?」
すぐ近くでまだ、戦闘部が残っているハウンド達と戦っているというのにシンと静まり返る。静寂があたりを支配している中で、アーシルは柔らかく微笑んだ。目を閉じた。
「くだらない話をする暇があればさっさと殺せ!お前を拾い、ここまで育ててやったこの私の言うことが聞けない――」
「うるさい、黙ってろ。僕は今、チユニと話をしているんだ。邪魔をしないでよ」
アーシルの口から放たれた言葉は殺気をまとい、ずっと後ろにいる神楽の首を締め上げる。神楽の口が開かなくなり、彼は首を押さえてもがく。
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