moon child

那月

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神威アーシル

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 というか、この時のアーシルはまだ何も伝えることができなかったのだ。見て、聞いて、感じても、表情と動きでしか反応できない。

 
「っ!これくらいなら、体の細い君なら通れるだろう。ほら、おいで。もう大丈夫だ、何も怖くない」


 神楽の手が真っ赤に染まった頃。腕がようやく通るくらいの穴が、数倍広がって中からアーシルが両手を伸ばす。


 引っ張ってと言わんばかりに神楽の腕をつかみ、彼がゆっくり引っ張るのに合わせて体をひねり頭を出す。


 そのまま肩が出ればあとは簡単だった。引っかかるほどの胸もない彼女はものの見事にスポンッ!と、まさにそんな感じで引き抜かれた。


 神楽が力一杯引っ張った上に彼女が跳んだものだから、彼女は神楽の胸にダイブという名の頭突きを食らわせた。数秒、神楽は息が詰まった。


 物理的に。それと、飛び出してきた彼女が素っ裸だから。大人になりたてくらいの体は白く、スベスベ。さらに白っぽい卵の液を体中に浴びているのでヌルヌルと、エロい。


 抱き着こうとする彼女を何とか引きはがし、理性を全力で応援してカバンの中に入っていた白衣を着せた。これでやっと目を向けられる。


「はぁ、はぁ……やっと、出られたな。君は人間ではないのだろう。宇宙人か、はたまた人間に化けた妖怪か何かか……」


「んーうー?大丈夫大丈夫、怖くない。あぁー……人間ではないのだろう?宇宙人、妖怪?」


「君…………もしかして、言葉がわからないのか。私が言った言葉は言えるようだが、他は赤ん坊と同じレベルだな」


 アーシルは最初、言葉がしゃべれなかった。見た目が大人なだけで、中身は生まれたばかりの赤ん坊のよう。まず、言葉を覚えることから始まった。


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