moon child

柒号

１８P

「――眠れないのだな」


「そりゃあねぇ。敵をやっと見つけたのに逃げて、殺すチャンスを逃しちゃったんだし？力も暴走させちゃったしね」


「レンマが言っていた。ハウンド１０体とリンクス１０体をいっぺんに相手にするよりも厄介な、強敵だと。我は見ることもできなかったが」


　夜。他の月子達はもう寝ている時間。ヒロキはまぁ、眠ることができずにベランダで月を眺めていた。


　一向に寝る気配のない彼を心配したのだろう。同室のユラは一旦は布団に潜り目を閉じたものの、数分後には起きて隣に並ぶ。


　ユラは本当にかなり遠くまで見回りに行っていたのか、現場に駆け付けた時にはすでに黒い男は消えレンマ達も帰ろうとしていたところだった。


「我、捌号のことは知らぬ。わからぬが、ここを通じて彼女がどんな人物だったのかは感じる。おぬしのことも、わからんでもない」


　自分の胸に手を当ててヒロキを見つめるユラは、ハルヒに会うことができなかった。黒い男にも。実感がわかずもどかしいだろう。


「ハルは皆のお姉さんだったさ。世話好きで真面目で、でもたまに馬鹿したりして、明るくて優しい。笑った顔がすっげー可愛いんだ」


「…………そうか。それは、会ってみたかったな」


「あ、今、すごいノロケだって思ったでしょ？わざとだって。ホント、すごく可愛いやつだったよ」


　ニヤリと笑ったヒロキの顔を見たユラは「その様子ならば、大丈夫そうだな」と呟いた。月を見上げ、自分の左手の甲を見る。


　つられてヒロキも自分の左手の甲に視線を落とす。三日月の中にユラは玖、ヒロキは柒の文字が黒い痣のように浮かんでいる。