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玖号
12P
しおりを挟むタッと地を蹴り、立ち尽くすユラの顔面めがけ紅蓮の拳を振り下ろす。ルカは、悲しそうに、悔しそうに顔をゆがめていた。
その何とも言えない表情で、さすがのユラも彼女が言わんとしていることを悟ったようだ。
身をひねってかわしながら横からルカの腕を叩いて流し、もう片方の手は上に上げる。そして何かをつかむように握れば手を開いて振り下ろす。
すると突然、何もないはずの2人の真上から大量の水が、ザァーーッ!まさに滝。
2人は頭から滝を被り、髪の毛の先や服の裾からポタポタとしずくが落ちる。ルカがまとっていた両腕の炎はすっかり鎮火してしまった。
顔に張り付いたユラの長い前髪の隙間から、赤い涙が流れた。被った水でちょっと薄い。
「手が滑った。風邪をひいてしまうから早く、着替えた方がいい。我もこの眼帯を取り換える」
「ふぅん、ずいぶんと手荒な言い訳ね。でも、それが今のユラが出した答えなら仕方ないわ。もー、昨日洗濯から戻ってきたばっかの服なのに……」
ルカはそう文句を言いながらも服の裾を絞り、ユラの手に何かを握らせてからビルの中へと消えていった。
ユラはそう、遠巻きに「手合わせはまた今度だ」と言いたかったようだ。何とも伝わりづらい。ユラなのだから、スパッと正直に言えばいいのに。
というか、時間があるから手合わせに付き合うと言ったばかりだというのに。
なぜ急にやめさせたのか?その答えはすぐにわかる。手の中の、包み紙がビショビショの抹茶チョコを口に含んだユラは空を見上げた。
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