moon child

那月

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玖号

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「手加減して、全力でかかってきて」


「…………」


 ユラが一言もしゃべらないのをいいことに、ルカは彼の手を引いてさっさと屋上まで来てしまった。


 屋上にはルカが言った通り、誰もいない。いつもならレンマがド真ん中に寝そべって昼寝をしているんだろうが、カラスが小カラスと戯れているんだろうが、今はいない。


 依然として、ユラはうつむいたまま微動だにしない。優しい風が彼の頬を撫で、前髪をもてあそぶ。チラリと見える眼帯がうっすら、赤く染まっていた。


「…………もう待てない。直撃して黒焦げになっても知らないから」


 ゴォッ!真っ赤な火の玉がユラの顔のすぐ横を飛び、髪がほんのわずかチリッと焦げた。ユラはようやく顔を上げ、若干不満げにルカを睨む。


 目が合うと、ルカは少し笑って足を開き腰を落とす。集中力を高めていく。どんな新技を開発したのか、ユラは身構えた。


「いくよ、あたしの新技………………ジャグリングッ」


 ルカが両手を広げると、ソフトボールくらいに圧縮された火の玉が3つ出現。お手玉の要領でヒョイヒョイと火の玉を回していく。


「1つ増やして4つ。次は2つ増やして6つ。おっと……思い切って、10個っ」


「…………」


 ユラの、思考が止まった。これだけ?まさか、ただ圧縮した火の玉でジャグリングをするだけなのか?攻撃でも防御でもない、ただのパフォーマンスではないか。


 それでも真剣な顔で火の玉をつかんでは放り投げるルカは、でもやっぱりちょっと楽しんでいた。


 何だろうこの空気。ルカとユラの温度差が、火の玉が空気を焼くゴォッゴォッという音しか聞こえないのが、痛い。


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