moon child

玖号

８P

「ユラ、いる？抹茶チョコあげるから付き合ってもらいたいんだけど」


　コンコンッと音が鳴り、ドアの奥から声が聞こえた。ユラが返事をする間もなく「入るよ」とドアが開き、遠慮なくルカが侵入。


「……何してんの。そんなことをしても、右目は生えてこないわよ？」


　ルカは特に驚いた様子もなく近づくとユラの、指先が赤く染まった右手をつかんで下ろさせた。赤い涙は、下ろされた長い前髪に隠れる。


「あ、髪に血がついちゃったら厄介ね。待ってて、今、落としてあげるから」


　そう言ってルカは、救急箱を探し出して前髪や頬、指先についた血を丁寧に拭き取っていった。慣れた手つきで、最後には右まぶたを消毒して眼帯をつけさせる。


　ユラがこうやって自分を責めるのはそうあることではない。ましてやルカがその最中に遭遇するなど、今回が初めてだったはずだ。


　それでもルカは、いつものことのように取り乱すことなく対処した。しかも――


「さ、屋上へ行って手合わせしよ？他の子達は来ないはずだから。あたしの新技、やっと完成したから試させてね」


　と、淡々と言ってのけた。しかも無表情で。ユラのように寡黙というわけではないが、おしゃべりな方ではないルカは、ユラほどではないがあまり感情が顔に出ない。


　どこか似ている２人はよく、お互いの技を磨くために屋上で手合わせをする。


　だが、だからといって今のようなシリアスシーンでそんなセリフがそう簡単に出るとは思えない。いくらルカが、ユラに負けず劣らずの天然だとしても。


　月子達は心がつながっているから、ユラの負の感情や痛みを感じ取ってここまで来たのかもしれない。もしくは、ただの偶然。