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16 傭兵の涙

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 メイスの先端に魔法の炎を纏わせたハイオークがいつでも待ち構える。


 傭兵がやられたら俺にもう攻撃手段は残ってない。

 このまま逃げれるかもしれないけど、あの炎を飛ばされたらどの道やられてしまうだろうし……


 どうやっても俺はこの魔法の炎を喰らう運命じゃないか……


 どうする……
 どうするどうするどうするどうする…………


 考えてる合間にも傭兵は攻めていってしまう。
 俺が待てと言ったところで絶対に止まるような奴らじゃないし。



「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 もう決めたんだった、俺は傭兵と心中する……


 こうなったら!



 手持ちの薬草をありったけの口に頬張った。
 見てろよ傭兵達、向こう見ずなのはお前らだけじゃない!

 お前らの主人はお前らなんかよりもっと命知らずだってところを最後に見せてやる!

「ウオッ!?」


 俺の行動に傭兵がいつもと違う声をだす、多分驚いてるな。


「「「「ウオオオオオォォォォォォォ!!!!!」」」」


 一瞬ビックリしてた傭兵達も俺の行動を見てすぐに攻め気が戻ってきた。

 いくぞお前ら、一緒にハイオークにぶつかる!!

 玉砕覚悟で戦ってみせる!


パキィィィィ

 赤い宝石も解放だ。
 これでもう俺に残ってるものは何もない。


 傭兵の体がモリモリと盛り上がっていく。

 パワーだけならこれ以上はないほど強くなったはず。


「「「「ウおぉぉぉォォォォォォ!!」」」」


 傭兵と一緒に声を合わせてハイオークに突撃だ!



 待ち構えるハイオークはこの勢いに多少動揺した様子を見せたけど、すぐに待ち構える強気の態度を取り直す。


「フゴォォォォォォーー!!」

ブオォッ!


 来た、またあの炎……
 これを傭兵達が食らったら終わり……


 灼熱の火の粉が近寄ってくる。


 ここを傭兵に守らせてこの後に死ぬか……

 ここで俺が前に出て先に死ぬか……


 もうどうにでもなれぇ!!




 傭兵達よりも前に進み炎の標的になる。


 盾騎士を焼き尽くすほどの炎が俺に降りかかる……


 魔力を持つ炎が蛇のように俺に絡みついてくる。


 息ができない……


 手も、足も、体も、頭も。

 すべて炎の渦に飲まれてるせいで前も見えない。

 ただ熱い気持ちの悪い物体が巻きついてくる。



 魔法の炎で殺されるっていうのはこんな感覚なのか……



 気持ち悪さよりも徐々に熱さが優ってきた。


「熱ぃぃぃぃぃぃーーーー!!!」

 熱すぎて思わず声に出さずにはいられないほどのとんでもない熱さ……

 死ぬほどの熱さと痛みってこれほど……

「うわぁぁぁぁ…………熱ぃぃよぉぉぉぉ! 死にたくねぇぇよぉぉぉ!!」



 なんで俺最後の最後にカッコつけて傭兵の壁なんてやってしまったんだ……
 死にたくねぇ……1秒でも生きてたい……


「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「助けてくれぇぇぇぇぇ!!」


「誰でもいいから……」


 あれ…………?

 俺……死んでなくないか……?



 焼けただれると思い目を閉じていた……



 うっすらと目を開いてみる。




 ゴツゴツして岩だ……

 薄暗くてジメジメしてて、どう見ても天国ではないことだけはわかる……



 目の前には驚いた顔をしたハイオークが立っていた。


 ハッ……
 そうだよ、ここはダンジョンに決まってるじゃないか!


 魔力で作った炎を喰らって俺は……

 いかん……なんか頭が混乱してる。


モゴ……

 んぐ……っ。口の中に何か……

 そうだ、ありったけの薬草を口に含んで突っ込んだんだった。
 たったそれだけだ。

 俺がここで生きている理由なんてたったそれだけなのに……
 あの薬草がよっぽどすごい物だったってことか。
 他のアイテムの有効な物ばかりだし、絶対にそんなことないとは言えないけど、それで盾騎士が消滅するほどの炎を耐えれるほどの耐久力を一瞬でも手に入れられたのか。



「オオオ…………」

 傭兵が俺の無事を確認して目を潤ませてる。俺が死んだらお前らも死んじゃうようなもんだもんな。

 俺の魔力で作った兵士とは言え、そこまで思ってもらえるってのは悪い気はしない。

「見たろ? 俺の根性を。次はお前らがバシッとあいつを倒す番だぞ!」

 死にそうになってる時に叫んでたことが聞こえてたかどうかはもう関係ない。とにかくカッコつけてやった。



「「「ウウ…………」」」

 傭兵達の目からブワッと涙が溢れ出した。
 そんなに俺の言葉が刺さったのかよ。

「行くぞ! また攻撃が来る前に一斉攻撃だ!」

 もう薬草も無いんだ、次こそ炎を喰らったら終わり……


「「「「ウウウウ…………オオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」

 少し迷った後、吹っ切れように傭兵達が気合の入った声を上げる。


 俺達ならやれる!
 ハイオークを倒すんだ!


 ハイオークは焦ってメイスに炎を溜めているがまだ準備が間に合わない。

 そこを待ってやるような俺じゃないぞ。


ドドドドドドドドドド


 最強軍団。

 このスキルの恐ろしさ存分に味わいやがれ!



「フ……フゴォォォォォ!」

 ハイオークが慌てて魔法をやめ、メイスを振り回し始めるがもう遅い。


スバババババババァァァァァァァン!!!!


 勝った……


 ブーストの掛かった兵士レベル5の傭兵はさすがに強かった。
 全身切り刻まれたハイオークはその場に崩れ落ち、息絶えた。


ースキルレベルが上がりましたー


 よし! 自力でスキルレベルが上がるのなんて久しぶりな気がするぞ。

 でもそんなことより、今は……



ズズズズ……


 ハイオークが守ってた、この異空間への入口。


 長かったような短かったような。
 これで元の場所へ戻ることができる。


 ためらいは何もなかった。
 体はすぐにその異空間の入口へ飛び込んでた。



 空間が歪み、真っ暗の空間の中で光の粒が高速で俺の体を通過して行く。

 このダンジョンに入った時もこんな感じだった。


 強くなった俺を見てギルドの奴らどう思うんだろうな……



シュイン……


 異空間の入口から外に吐き出された。

「あれ……?」


 金色に輝く室内だ。外じゃない……
 空気もジメジメしてるし、さっきよりも妙な気持ち悪い雰囲気もある……

 まさか……

 外に出れたんじゃなくて……ダンジョンの第二階層……?
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