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 家の入り口ドア付近にはしごを立てかけて、作業をしていた。

 ストッパーをつけて、あとは上にこの看板を立てかけてと。

「よし完成だ!」

 できた、うちの店の看板!

 シンプルに『なんでも屋』っていう屋号にした、変に気取るよりその方がわかりやすいだろ?

 「すごーい! これなら目立つし、お客様も来てくれるようになりますね!」

 目新しい看板にラピスは目をキラキラと輝かせはしゃぎ出した。

「そうだといいんだけど……」

 ちょっと商売をなめていた……ここで店を構えて数日経ったが第一号の依頼以降誰も訪ねてすらこない。
 よく考えたら看板も立ててなければ、宣伝もしてない何をやってるのかもわからない店に人がくる訳がないんだよな……

 俺は有名人だから自然に依頼が来るものだと思ってしまっていたがこれが現実だ……

 悩みある人は多いと思うんだけどなぁ……

 街に出れば気軽に声をかけてくる人はそれなりにいるけど、そんな人でも店に来て何か依頼してくるなんてことほとんどないだろうしちょっとずつ、商売っ気を出していかないとな。

 最初の依頼を反省して依頼に応じて料金を設定することにした。

 ・ 悩み相談 銀貨1枚
 ・ 調査、探し物、手助け 銀貨2~5枚
 ・ モンスター討伐 金貨1枚

 今の俺に来そうな話ってこんなところだと思うけど、依頼料こんな感じにしようと思う。
 ちなみに、銀貨1枚で、外食一回分くらいの価値で金貨は銀貨10枚分の換算だ、それと銅貨10枚で銀貨に換算することもできる。

 大まかに見積もってこんな感じでやってくつもりだけど、内容次第で料金は要相談ってところだ、なんでも全部一律ってわけにもいかないだろうしな。

 家の片付けは全然まだだ、なんでも屋の事務所として使う事務室の荷物は移動させたけど、それ以外はまだごちゃごちゃだ……生活基盤も徐々に安定させていかないとな、仕事も安定させていかなきゃいけないのは間違いないけど。

「サレムさん! これでもうバッチリですね! お客様早くこないかなぁ」

 ラピスがさっきからはしゃぎっぱなしだ、看板のことをよっぽど気に入ってくれたみたいだ。

「これだけでそんな変わらないよ、きっと……ちょっと外行ってくる」

「えっ、どこいくんですか? 私も行きます!」

「街の人達に話でもしてこようかな、せっかく顔は知れてるんだし宣伝にな」

 お客さんをゲットするためにはまずは足を使うことだ、どうせ事務所で待ってたって誰も気やしないんだ。





 街を出歩くと元白騎士だった俺はそれなりに有名人だ、不名誉な『無能のスマイル』ってあだ名もこんな時ばかりは少しは役に立つ。

「おっスマイル君じゃないか! なんだか大変ことになったみたいじゃないかウワサは聞いてるぞ」

 こんな感じで声をかけられることは本当に多い、これは営業チャンス!

「ハハハ、そうなんです……騎士団追放されちゃって……それで今はなんでも屋をやってるんですよ、今何か悩みとかないですか?」

「うーん、特別困ってることはないなぁ、あっても騎士団がなんとかしてくれるしなぁ、大変だろうけどがんばってくれよ!」

 そうなんだよな……俺がやろうとしてることって騎士団の隙間産業みたいなものだ、騎士がやらないようなちっちゃなことを引き受けて解決する事しかできない。
 そもそも騎士に頼めば無料で引き受けてくれるのに有料で俺に頼む物好きなんているはずがないんだ……
 あれ……この商売成立しなくないか……

 これが現実だ、話しかけられたっていざ商売の話になればみんなスッと避けていく……




「難しいんですね……みんな悩みってないのかなぁ」

「あってもいきなり話しかけられてペラペラ話すようなもんじゃないだろうしな、わかってはいるんだけどね、でもこれがいつか店に来てくれるきっかけになるかもってくらいに思ってたほうがいいんだ」

「すごいなぁ、サレムさんってマメなんですね」

「ここでちょっと苦労しておけば後になってもっと苦労することがなくなるだろうからね」

 俺はめんどくさがりやだと自分で思っている、ただやるべきことを放っといて後でもっと面倒になるのが嫌だからそうなる前にやってるだけだ。
 これも騎士団にいる時に学んだことなんだけどな……

「あっ、騎士団の人ですよ」

 ラピスが行った方向には白騎士団の鎧を着たものが歩いていた、街の見回りに出てるみたいだ。
 あいつはちょっと前に白騎士団に入ったリナップってやつだったな確か。

「サレムさんじゃないですか!」

 俺のことに気付くとリナップは嬉しそうに近寄ってきた。

「いいのか、俺なんか話してたら他の騎士達に怒られないか?」

 リナップはブンブンと首を振って否定した。

「特にそんな命令は出てませんし、大丈夫です! それよりサレムさんがいなくなってから白騎士だけじゃなく騎士団全体が大変なんですよ」

 ハハハ、そんなバカな……たかだか一般騎士だった俺ひとりいなくなったくらいでそんなことないだろ。
 リナップは先輩受けのいい可愛い後輩タイプのやつだったからな、気を使ってそんなこと言ってくれてるんだろう。

「大袈裟だな、でもありがとなウソでもそんなこと言ってくれたのはリナップだけだよ」

「本当です! みんな口にはしてませんけどサレムさんに戻ってきて欲しいって思ってますよ!」

「俺だって戻りたくない訳じゃないけどな、プレートに名前もないくらいだしもう戻れないだろ……」

 まずい、まだ心の傷も言えてないんだ……こんな話をされたら泣きそうになってしまう。
 リナップは俺に近寄りヒソヒソと話をしてきた。

「この前赤騎士が討伐したっていうレッサーサイクロプス、あれ実はサレムさんなんじゃないかってウワサがあるんですけど本当ですか?」

 おいおい、どこからそんなの出回ったんだ……

「いや、俺じゃないよ話は知ってるけどね」

 ここは赤騎士団の顔に泥を塗るのは賢明じゃないだろうな。
 倒したことが伝わったってそんな得するものでもない……いやなんでも屋的には得か……? まあいいか。

 あまり深く話し込むことと周りの目を気にしてリナップはさっと俺から離れた。

「やっぱりあれはサレムさんだと思うんですけどね……ちなみにあそこらへんにダンジョンがあるんじゃないかって言われてるらしいですよ、これもウワサですけどね」

 そう言い残しリナップは見回りに戻って行った。

「騎士団でもみんながサレムさんのこと悪く言ってる訳ではないんですね」

 話を聞いていてラピスはご満悦の表情だ。

「流石にね、一部はしたってくれるやつもいたけど、大概はバカにしてるやつばかりだよ……」

 今更気にもしてないけどな。

 それよりも最後に言っていたダンジョンの話、気になるな……
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