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彼と彼女の痴話喧嘩
⑧ずっと一緒にいたいから
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甘い気怠さに包まれながら ぐったりしている私の体をウェットティッシュで拭いてから、自分もいろいろな処理をして、先輩はいつものように「おいで」と腕枕をしてくれる。
…別れるなんて、どの口が言っていたのだろうと思うくらい、好き好きと繰り返してしまった。なんだか情けないような、でも同時に開き直ったような気持ちだ。
髪を梳かすように頭を撫でられているだけで気持ちいいのに、ぴったりとくっつけている先輩の肌は、すべすべしていて、あったかくて。
「眠そうだね。ちょっと寝る?」
「…ううん、起きてます…今何時?」
「夕方5時過ぎくらいかな」
「んん…だめ、今寝たら絶対何時間も寝ちゃう」
「30分くらいで起こしてあげるよ?」
腕枕をされたままもぞもぞと体の向きを変えて、目を閉じたまま先輩の耳の下に鼻を擦り付けた。
「…先輩がさっき言ってた、一緒に住むって話なんですけど」
寝ないようにと意識しつつもうとうとしてしまうので、とにかく何か会話をしなくてはと口を開く。
「…なんかすっごく楽しそうです」
「でしょ?想像するだけで楽しいよね」
「お揃いのマグカップとか…買うかなぁ…」
「お、ベタでいいね」
「ちゃんと、勉強もして、家族に心配かけないようにしなきゃ…」
「そこで『周りに文句言われないように』とかじゃないところが綾音らしいよ」
「だって…先輩は、もう、ちゃんと…してる人だし…」
はなから 文句など言わせないように。
そのためには自分がちゃんとした人間でいなくては。
「全然ちゃんとしてないよ。綾音とずっと一緒にいるために、まだまだしなくちゃいけないことがたくさんあるから」
「私も、頑張らなくちゃ…先輩と、ずっと一緒にいたいし……」
「…もう一緒にいる以外考えられないんだけどね。まあこればっかりは、当人たちだけの話じゃないから」
「んー…私もそう思うけど…難しい、です…ね…」
「……おやすみ」
いろいろ頑張って考えながら一生懸命話していたけれど、結局睡魔には勝てなかった。
その後、15分くらいしてから、弟さんが5分後に帰ってくるからと声を掛けてもらって飛び起きることになっり、もうちょっと余裕をもって起こして欲しかったと言おうとしたのだけど、「目が覚めたとき、隣に大好きな人がいるのって幸せだよね」などと言われて、力が抜けてしまった。
そんなわけで、先輩と私の日々は再び甘く穏やかなものに戻った。
美優に言わせると「別れ話っていうより、ただの痴話喧嘩だったよね」らしい。
兄は「仲直りできてよかったな」といつものように大きな手で頭を撫でてくれた。
先輩が卒業するまで、きっとあっという間だろう。
それまでに、恋人同士の他愛もないやりとりをたくさん積み重ねていきたい。
「ねえ、先輩?」
「ん?」
「好きです」
「…俺も、好きだよ」
隣を歩く先輩の手をぎゅっと握ると、同じように握り返してくれた。
…別れるなんて、どの口が言っていたのだろうと思うくらい、好き好きと繰り返してしまった。なんだか情けないような、でも同時に開き直ったような気持ちだ。
髪を梳かすように頭を撫でられているだけで気持ちいいのに、ぴったりとくっつけている先輩の肌は、すべすべしていて、あったかくて。
「眠そうだね。ちょっと寝る?」
「…ううん、起きてます…今何時?」
「夕方5時過ぎくらいかな」
「んん…だめ、今寝たら絶対何時間も寝ちゃう」
「30分くらいで起こしてあげるよ?」
腕枕をされたままもぞもぞと体の向きを変えて、目を閉じたまま先輩の耳の下に鼻を擦り付けた。
「…先輩がさっき言ってた、一緒に住むって話なんですけど」
寝ないようにと意識しつつもうとうとしてしまうので、とにかく何か会話をしなくてはと口を開く。
「…なんかすっごく楽しそうです」
「でしょ?想像するだけで楽しいよね」
「お揃いのマグカップとか…買うかなぁ…」
「お、ベタでいいね」
「ちゃんと、勉強もして、家族に心配かけないようにしなきゃ…」
「そこで『周りに文句言われないように』とかじゃないところが綾音らしいよ」
「だって…先輩は、もう、ちゃんと…してる人だし…」
はなから 文句など言わせないように。
そのためには自分がちゃんとした人間でいなくては。
「全然ちゃんとしてないよ。綾音とずっと一緒にいるために、まだまだしなくちゃいけないことがたくさんあるから」
「私も、頑張らなくちゃ…先輩と、ずっと一緒にいたいし……」
「…もう一緒にいる以外考えられないんだけどね。まあこればっかりは、当人たちだけの話じゃないから」
「んー…私もそう思うけど…難しい、です…ね…」
「……おやすみ」
いろいろ頑張って考えながら一生懸命話していたけれど、結局睡魔には勝てなかった。
その後、15分くらいしてから、弟さんが5分後に帰ってくるからと声を掛けてもらって飛び起きることになっり、もうちょっと余裕をもって起こして欲しかったと言おうとしたのだけど、「目が覚めたとき、隣に大好きな人がいるのって幸せだよね」などと言われて、力が抜けてしまった。
そんなわけで、先輩と私の日々は再び甘く穏やかなものに戻った。
美優に言わせると「別れ話っていうより、ただの痴話喧嘩だったよね」らしい。
兄は「仲直りできてよかったな」といつものように大きな手で頭を撫でてくれた。
先輩が卒業するまで、きっとあっという間だろう。
それまでに、恋人同士の他愛もないやりとりをたくさん積み重ねていきたい。
「ねえ、先輩?」
「ん?」
「好きです」
「…俺も、好きだよ」
隣を歩く先輩の手をぎゅっと握ると、同じように握り返してくれた。
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