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彼と彼女の痴話喧嘩
⑤未来を語らせて
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スマホをすいすい操作して起動させたのはメモアプリ。「ちょっといろいろ計画立ててみたんだけどさ」となんだかいろいろ入力されている画面をこちらに向けてくる。
「高校卒業して、大学入って、お互いにいろいろ落ち着いたら、一緒に住もうよ」
指を絡めるように手を繋がれて、壁に寄りかかって並んで座る。
座り込んだ床は、窓から差し込んでいた日差しに温められてぽかぽかしていた。
「俺の方が先に卒業することになっちゃうけど、綾音の志望校、どこも俺の進学予定のとこからそんな離れてないんだよ。だからこのまま行けばお互い無理なく過ごせる」
確かに先輩の進学先は推薦でもう決まっている。そこも結構上位校だと思うけれど、成績がいいからもっと上を狙えるなんて言われていたらしい。だけど、専攻したい学部への推薦枠だから丁度よかったと言っていたのを思い出す。
でも、これって私が大学受験に失敗したら計画変更を余儀なくされるということでは…頑張って勉強しなくてはと気持ちを引き締める。
「で、具体的な話をすると、ワンルームは狭いじゃん?2DK以上だと結婚した後もしばらく住み続けられるからいいって聞いたんだけど、家賃がちょっと高いから、今から金貯めといた方がいいかなと思ってバイトちょっと増やしてみたんだよね。そしたら…」
「ま、待って!」
「ん?」
なんだかすらすら話を進めているけれど、聞き間違いじゃないなら、今すっごく大事なことを言っていた。
「あの…今のもう一回言って?」
「ワンルームは狭いから、2DK以上?」
「違います、その後…!」
「その後…?」
私の様子にぴんときたのか、先輩はちょっと照れたように咳払いをする。
「結婚した後も?」
なんてことを言うのだこの人は。
思わず顔がにやけてしまうような、胸がぎゅっとするような、複雑な気持ちになって、膝を抱えて顔を埋める。
「…俺はそこまで考えてるから」
頭を撫でながら「重くてごめんね」と言うその言葉にぶんぶんと首を振る。ちゃんと、嬉しい。
「それなのに誰かさんは別れるとか言って逃げ回るしさ」
「…もう言わないです」
「言わせないよ」
その時、午後の授業の開始を告げるチャイムが鳴る。
私のことは美優がなんとなく上手いこと言っておいてくれるだろう。先輩も「元々次は自習だったから大丈夫」らしい。
「授業さぼるの、初めて」
「綾音、優等生だもんね。まあ…卒業までの間に一回くらいはしといてもいいか」
「うん…しかも先輩と一緒に出来るのは今だけだし」
「あーもう、そういう可愛いこと言っちゃダメ。俺がもたない」
こんな甘ったるい空気のまま、教室に戻るのは不安だった…とは言わないけれど。
「あの…今日ってバイトですか?」
「ううん、今日はない。一緒に帰ろっか」
頷くと、先輩はにっこり笑って私の頬にそっと触れる。
「…キスしていい?」
素直に目を閉じると、頭をゆっくり引き寄せられて、唇が重なる。それは何度か角度を変えて優しく触れてから、離れていく。
「…好きだよ」
「私も好きです」
私の言葉を聞いて、先輩は「なんか安心したら眠くなってきた」と言いながら笑った。
「高校卒業して、大学入って、お互いにいろいろ落ち着いたら、一緒に住もうよ」
指を絡めるように手を繋がれて、壁に寄りかかって並んで座る。
座り込んだ床は、窓から差し込んでいた日差しに温められてぽかぽかしていた。
「俺の方が先に卒業することになっちゃうけど、綾音の志望校、どこも俺の進学予定のとこからそんな離れてないんだよ。だからこのまま行けばお互い無理なく過ごせる」
確かに先輩の進学先は推薦でもう決まっている。そこも結構上位校だと思うけれど、成績がいいからもっと上を狙えるなんて言われていたらしい。だけど、専攻したい学部への推薦枠だから丁度よかったと言っていたのを思い出す。
でも、これって私が大学受験に失敗したら計画変更を余儀なくされるということでは…頑張って勉強しなくてはと気持ちを引き締める。
「で、具体的な話をすると、ワンルームは狭いじゃん?2DK以上だと結婚した後もしばらく住み続けられるからいいって聞いたんだけど、家賃がちょっと高いから、今から金貯めといた方がいいかなと思ってバイトちょっと増やしてみたんだよね。そしたら…」
「ま、待って!」
「ん?」
なんだかすらすら話を進めているけれど、聞き間違いじゃないなら、今すっごく大事なことを言っていた。
「あの…今のもう一回言って?」
「ワンルームは狭いから、2DK以上?」
「違います、その後…!」
「その後…?」
私の様子にぴんときたのか、先輩はちょっと照れたように咳払いをする。
「結婚した後も?」
なんてことを言うのだこの人は。
思わず顔がにやけてしまうような、胸がぎゅっとするような、複雑な気持ちになって、膝を抱えて顔を埋める。
「…俺はそこまで考えてるから」
頭を撫でながら「重くてごめんね」と言うその言葉にぶんぶんと首を振る。ちゃんと、嬉しい。
「それなのに誰かさんは別れるとか言って逃げ回るしさ」
「…もう言わないです」
「言わせないよ」
その時、午後の授業の開始を告げるチャイムが鳴る。
私のことは美優がなんとなく上手いこと言っておいてくれるだろう。先輩も「元々次は自習だったから大丈夫」らしい。
「授業さぼるの、初めて」
「綾音、優等生だもんね。まあ…卒業までの間に一回くらいはしといてもいいか」
「うん…しかも先輩と一緒に出来るのは今だけだし」
「あーもう、そういう可愛いこと言っちゃダメ。俺がもたない」
こんな甘ったるい空気のまま、教室に戻るのは不安だった…とは言わないけれど。
「あの…今日ってバイトですか?」
「ううん、今日はない。一緒に帰ろっか」
頷くと、先輩はにっこり笑って私の頬にそっと触れる。
「…キスしていい?」
素直に目を閉じると、頭をゆっくり引き寄せられて、唇が重なる。それは何度か角度を変えて優しく触れてから、離れていく。
「…好きだよ」
「私も好きです」
私の言葉を聞いて、先輩は「なんか安心したら眠くなってきた」と言いながら笑った。
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