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彼と彼女の痴話喧嘩
②終わってません
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いや、何終わってんの。
あんな適当な別れ話で「はいそうですか」となるような生半可な気持ちじゃないんだ こっちは。
しかも「いつまでもラブラブでいたいんで」って。それ別れ話じゃなくない?
* * *
突然、彼女から別れを告げられた。
理由も特に教えてもらえないまま、あまりにも一方的に言われて、納得出来るわけがない。
話をしようにも、徹底的に避けられていて会うことができないし、メッセージを送っても既読スルーされている。時々校内で見かけて、捕まえようとするも見事にまかれてしまう。なんでこんなとこで妙にすばしっこいんだよ。まあ…そんなところも可愛いと思ってしまうあたり、もうどうしようもないのだけど。
彼女…直井綾音と出会ったのは、柔道部顧問の山田に用があって練習場を訪れた時だった。
入口で中をちらちらと伺いながら、誰かを探している様子の女子がいたから声を掛けた。それが彼女だ。
「誰か呼ぶ?」
柔道部には知り合いが多いし、仲のいい聡もいる。
急に話し掛けられて驚いたのか、若干戸惑った様子の彼女がこちらを見上げた。
大きな瞳が印象的だったことを未だによく覚えている。長い睫毛に小さな鼻。柔らかそうな髪が肩でふわりと揺れていた。自分の考える「可愛らしい」の要素を詰め込んだような姿に一瞬見惚れてしまう。めちゃくちゃタイプだなぁとまじまじ見つめてから、いかんいかんと頭を振った。
一方彼女の方は見ず知らずの上級生に頼んでいいものか悩んでいるのだろうか。少ししてから、小さな声で返事が返ってきた。
「あの…兄に渡す物があって…」
見ると、弁当だろうか。手には巾着袋を下げている。
「呼んであげるよ。名前は?」
「えっと…直井です。直井聡」
「え?君、聡の妹なの!?」
聡に妹がいることは知っている。でもまさかこんな感じだとは思ってもみなかった。
なぜなら聡は、めちゃくちゃガタイがよくて、なかなか凶暴な見た目をしているから。(それと同じくらい超優しくていいやつなんだけど)
それにしても…まじか。
こんな可愛い妹がいるなんて知らされてないんですけど…。
「可愛いね」
「え、あ、ありがとうございます…?」
そんな立ち話もそこそこに「おーい、聡!妹ー!」と呼ぶと、聡は妹の存在に気付くなり、どたどたと駆け寄り、溶けそうな表情で微笑むではないか。
「綾音!すまなかった。わざわざ届けてくれてありがとう!!これで放課後の練習にも集中できる」
「うん、今日のお弁当は自信作だから食べてほしくて。頑張ってね」
高校生にもなって兄が妹の頭を撫でながらにこにこしている。まるで、熊のような大男が小動物を愛でるような。
友人の溺愛っぷりに少々面食らいながら、「じゃあね」と、山田のところに向かう。
それにしても手作り弁当とか最高じゃん。あの子が作ったってことでしょ。うわー…いいなあ。
だからまさか、その日の夜に「うちの妹がお前の連絡先を知りたがっているんだが」なんてメッセージが送られてくるとは思っていなかった。
「妹が自分から誰かと友達になりたいと言い出すのは小学一年生以来だ。相手が立花なら、俺もいいと判断した」らしい。
それから付き合い出すまでに時間はかからなかった。
始めは大人しくて流されやすいタイプかと思っていたけれど、話してみると意外としっかりしていた。慣れてくれば表情豊かでよく笑うし。そしてやっぱり、彼女はどんぴしゃで自分のタイプだった。
正直、もう全部可愛い。膝に乗せて、頬を撫でて、こめかみにキスをして、くすぐったがらせたい。後ろから抱き締めて、髪の匂いを体いっぱいに吸い込んで、指を絡めて、二度寝したい。手を繋いで、いつまででも…。
そんなことを毎日考えているうちに、ふと気付いた。
これはもう、生涯を共にする覚悟をもつ必要がある。
向こうから告白してきてくれたから、次は俺の番だろう。
その為には、それなりの準備をしないと。
ということで、とりあえず、二人で末永くやっていくために必要な諸々の資金について調べた。大学入学と同時に同棲をしたいところだが、彼女は一つ下の学年だから、そうもいかないだろう。ただ、ゆくゆくはお互いに実家を出る、となったらやっぱりどうにかして貯蓄を…と考えて、バイトのシフトを少し増やした。短期バイトと掛け持ちすることもあった。
さすがにちょっと疲れてしまって、彼女からの連絡に応えそびれたこともあったけれど、次の日に「おはよう」のスタンプは欠かさずに送るようにした。
そして漸く、いろいろなことが見えてきたところで言い渡された別れ。
納得なんて…出来るわけないだろ。
あんな適当な別れ話で「はいそうですか」となるような生半可な気持ちじゃないんだ こっちは。
しかも「いつまでもラブラブでいたいんで」って。それ別れ話じゃなくない?
* * *
突然、彼女から別れを告げられた。
理由も特に教えてもらえないまま、あまりにも一方的に言われて、納得出来るわけがない。
話をしようにも、徹底的に避けられていて会うことができないし、メッセージを送っても既読スルーされている。時々校内で見かけて、捕まえようとするも見事にまかれてしまう。なんでこんなとこで妙にすばしっこいんだよ。まあ…そんなところも可愛いと思ってしまうあたり、もうどうしようもないのだけど。
彼女…直井綾音と出会ったのは、柔道部顧問の山田に用があって練習場を訪れた時だった。
入口で中をちらちらと伺いながら、誰かを探している様子の女子がいたから声を掛けた。それが彼女だ。
「誰か呼ぶ?」
柔道部には知り合いが多いし、仲のいい聡もいる。
急に話し掛けられて驚いたのか、若干戸惑った様子の彼女がこちらを見上げた。
大きな瞳が印象的だったことを未だによく覚えている。長い睫毛に小さな鼻。柔らかそうな髪が肩でふわりと揺れていた。自分の考える「可愛らしい」の要素を詰め込んだような姿に一瞬見惚れてしまう。めちゃくちゃタイプだなぁとまじまじ見つめてから、いかんいかんと頭を振った。
一方彼女の方は見ず知らずの上級生に頼んでいいものか悩んでいるのだろうか。少ししてから、小さな声で返事が返ってきた。
「あの…兄に渡す物があって…」
見ると、弁当だろうか。手には巾着袋を下げている。
「呼んであげるよ。名前は?」
「えっと…直井です。直井聡」
「え?君、聡の妹なの!?」
聡に妹がいることは知っている。でもまさかこんな感じだとは思ってもみなかった。
なぜなら聡は、めちゃくちゃガタイがよくて、なかなか凶暴な見た目をしているから。(それと同じくらい超優しくていいやつなんだけど)
それにしても…まじか。
こんな可愛い妹がいるなんて知らされてないんですけど…。
「可愛いね」
「え、あ、ありがとうございます…?」
そんな立ち話もそこそこに「おーい、聡!妹ー!」と呼ぶと、聡は妹の存在に気付くなり、どたどたと駆け寄り、溶けそうな表情で微笑むではないか。
「綾音!すまなかった。わざわざ届けてくれてありがとう!!これで放課後の練習にも集中できる」
「うん、今日のお弁当は自信作だから食べてほしくて。頑張ってね」
高校生にもなって兄が妹の頭を撫でながらにこにこしている。まるで、熊のような大男が小動物を愛でるような。
友人の溺愛っぷりに少々面食らいながら、「じゃあね」と、山田のところに向かう。
それにしても手作り弁当とか最高じゃん。あの子が作ったってことでしょ。うわー…いいなあ。
だからまさか、その日の夜に「うちの妹がお前の連絡先を知りたがっているんだが」なんてメッセージが送られてくるとは思っていなかった。
「妹が自分から誰かと友達になりたいと言い出すのは小学一年生以来だ。相手が立花なら、俺もいいと判断した」らしい。
それから付き合い出すまでに時間はかからなかった。
始めは大人しくて流されやすいタイプかと思っていたけれど、話してみると意外としっかりしていた。慣れてくれば表情豊かでよく笑うし。そしてやっぱり、彼女はどんぴしゃで自分のタイプだった。
正直、もう全部可愛い。膝に乗せて、頬を撫でて、こめかみにキスをして、くすぐったがらせたい。後ろから抱き締めて、髪の匂いを体いっぱいに吸い込んで、指を絡めて、二度寝したい。手を繋いで、いつまででも…。
そんなことを毎日考えているうちに、ふと気付いた。
これはもう、生涯を共にする覚悟をもつ必要がある。
向こうから告白してきてくれたから、次は俺の番だろう。
その為には、それなりの準備をしないと。
ということで、とりあえず、二人で末永くやっていくために必要な諸々の資金について調べた。大学入学と同時に同棲をしたいところだが、彼女は一つ下の学年だから、そうもいかないだろう。ただ、ゆくゆくはお互いに実家を出る、となったらやっぱりどうにかして貯蓄を…と考えて、バイトのシフトを少し増やした。短期バイトと掛け持ちすることもあった。
さすがにちょっと疲れてしまって、彼女からの連絡に応えそびれたこともあったけれど、次の日に「おはよう」のスタンプは欠かさずに送るようにした。
そして漸く、いろいろなことが見えてきたところで言い渡された別れ。
納得なんて…出来るわけないだろ。
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