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彼と彼女の痴話喧嘩
③もう逃げられません
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「え?本当に別れちゃったの?あんなに好きだったのに?」
昼休み。おにぎり一つで昼食を終えた私を心配していた親しい友人…加納美優は、驚きの声を上げた。しかし、落ち込んだ様子の私を見て何かを察したのか、励ますように頭をぽんぽんしてくる。
「……だって 先輩、私のこと好きじゃなくなったんだもん」
「えっ何言ってんの、大大大好きじゃん」
呆れたように「あれはどう見てもガチだよ」と言われたけれど、違う。これまでと…違うのだ。
「最近、既読スルー増えてたし、きっと飽きられちゃったんだなって。もしあの顔で『飽きたからもう別れて!』って言われたら引き篭もっちゃう。だったら自分から言う」
「絶対言うわけないと思うけどね。実際に言われたわけでもないのに、綾音が勝手にモヤモヤしてるように見えるなぁ。ちゃんと話したの?」
「…う、うーん」
正直、図星だ。
そしてそれをちゃんと言ってくれる友人の存在をありがたくも思う。ただ、素直になるには、ちょっと自分に自信がなさ過ぎた。
黙って机に突っ伏した私の髪をくるくると指に巻き付けながら、美優は苦笑する。
「綾音と立花先輩はさぁ、なんていうか…そもそもラブラブ過ぎたんじゃない?世の中のカップルが、みんな毎日欠かさずLINEして、ハートのスタンプ送り合って、時間合わせて一緒に下校するわけじゃないんだよ」
「…それはお兄ちゃんにも言われた」
「それに、そうやって綾音が思ってること、ちゃんと話したの?先輩だってびっくりしてるんじゃない?」
「…それも言われた」
兄に昨日、急に「立花と何があったのか」と尋ねられて小さく頷くと、ちゃんと話をするべきだと言われた。
『あんなに落ち込んでいる…いや違うな、イラついている?うーん…腑抜けている、とも違うか…。とにかく妙な状態になっている立花を見るのは初めてなんだ。綾音もなんだか沈んでいるようだから、お互いに落ち着いて話した方がいい』
一つしか年が違わないのに私にずっと甘々だった兄からの真剣なアドバイスは、ちょっぴり堪えた。
周りの人達まで巻き込んで、一体何をしているのだろうという気持ちになってくる。それに、別れを切り出したのは自分なのに落ち込むなんて勝手な話だ。
まるでまだ好きで仕方ないような。でもそうであることを認めてはいけないような。
「ちなみに、なんだけど、綾音…今落ち込んでるよね?」
「…そりゃ落ち込むよ」
妙な聞き方をするなあと思いながらも頷くと、美優はスマホを弄りながら、「だよね。私の買ってきたパン半分食べる?」と努めて明るく接してくれるから、むくりと起き上がって、それを受け取る。
さっき自販機で買ったばかりの紙パックのいちごミルクを一口飲むと、思っていたよりもすごく甘くて。甘い物が好きな先輩のことを思い出してまたちょっぴり胸が痛む。
「…実はさ、私、綾音がこの件で落ち込んでるようなら連絡がほしいってある人に頼まれててね」
「…そんな変な頼み事する人いる?」
人が落ち込んでいたら連絡をなんて、元気にでもしてくれるのだろうか。
その時だった。
突然横から伸びてきた手にぱしっと手首を掴まれた。
「…やっとつかまえた」
上がった息と聞き慣れた声に、ぎくりとする。
この声を一番近くで聞いていたくて、必死で話しかけた日のことを思い出す。
「うわ、早すぎません?今連絡したばっかりなのに」
美優が驚愕したように「送信したの1分前じゃん…」とスマホの画面を確認するのを見て、ようやく何が起きたのか理解する。
「最優先事項だからさ」
そのままぐいっと手を引かれて立ち上がる。「加納さんありがとう。ちょっと綾音借りるね」と美優に声を掛ける。
「次は?抜けても平気な授業?」
「大丈夫だと思いますよ。綾音、もう課題終わってたし」
「そっか」
先輩は私をずるずると引きずるように廊下に引っ張り出した。
「ちゃんと話しておいでー」と美優にひらひら手を振られて、私は逃げ場をなくしたのだった。
昼休み。おにぎり一つで昼食を終えた私を心配していた親しい友人…加納美優は、驚きの声を上げた。しかし、落ち込んだ様子の私を見て何かを察したのか、励ますように頭をぽんぽんしてくる。
「……だって 先輩、私のこと好きじゃなくなったんだもん」
「えっ何言ってんの、大大大好きじゃん」
呆れたように「あれはどう見てもガチだよ」と言われたけれど、違う。これまでと…違うのだ。
「最近、既読スルー増えてたし、きっと飽きられちゃったんだなって。もしあの顔で『飽きたからもう別れて!』って言われたら引き篭もっちゃう。だったら自分から言う」
「絶対言うわけないと思うけどね。実際に言われたわけでもないのに、綾音が勝手にモヤモヤしてるように見えるなぁ。ちゃんと話したの?」
「…う、うーん」
正直、図星だ。
そしてそれをちゃんと言ってくれる友人の存在をありがたくも思う。ただ、素直になるには、ちょっと自分に自信がなさ過ぎた。
黙って机に突っ伏した私の髪をくるくると指に巻き付けながら、美優は苦笑する。
「綾音と立花先輩はさぁ、なんていうか…そもそもラブラブ過ぎたんじゃない?世の中のカップルが、みんな毎日欠かさずLINEして、ハートのスタンプ送り合って、時間合わせて一緒に下校するわけじゃないんだよ」
「…それはお兄ちゃんにも言われた」
「それに、そうやって綾音が思ってること、ちゃんと話したの?先輩だってびっくりしてるんじゃない?」
「…それも言われた」
兄に昨日、急に「立花と何があったのか」と尋ねられて小さく頷くと、ちゃんと話をするべきだと言われた。
『あんなに落ち込んでいる…いや違うな、イラついている?うーん…腑抜けている、とも違うか…。とにかく妙な状態になっている立花を見るのは初めてなんだ。綾音もなんだか沈んでいるようだから、お互いに落ち着いて話した方がいい』
一つしか年が違わないのに私にずっと甘々だった兄からの真剣なアドバイスは、ちょっぴり堪えた。
周りの人達まで巻き込んで、一体何をしているのだろうという気持ちになってくる。それに、別れを切り出したのは自分なのに落ち込むなんて勝手な話だ。
まるでまだ好きで仕方ないような。でもそうであることを認めてはいけないような。
「ちなみに、なんだけど、綾音…今落ち込んでるよね?」
「…そりゃ落ち込むよ」
妙な聞き方をするなあと思いながらも頷くと、美優はスマホを弄りながら、「だよね。私の買ってきたパン半分食べる?」と努めて明るく接してくれるから、むくりと起き上がって、それを受け取る。
さっき自販機で買ったばかりの紙パックのいちごミルクを一口飲むと、思っていたよりもすごく甘くて。甘い物が好きな先輩のことを思い出してまたちょっぴり胸が痛む。
「…実はさ、私、綾音がこの件で落ち込んでるようなら連絡がほしいってある人に頼まれててね」
「…そんな変な頼み事する人いる?」
人が落ち込んでいたら連絡をなんて、元気にでもしてくれるのだろうか。
その時だった。
突然横から伸びてきた手にぱしっと手首を掴まれた。
「…やっとつかまえた」
上がった息と聞き慣れた声に、ぎくりとする。
この声を一番近くで聞いていたくて、必死で話しかけた日のことを思い出す。
「うわ、早すぎません?今連絡したばっかりなのに」
美優が驚愕したように「送信したの1分前じゃん…」とスマホの画面を確認するのを見て、ようやく何が起きたのか理解する。
「最優先事項だからさ」
そのままぐいっと手を引かれて立ち上がる。「加納さんありがとう。ちょっと綾音借りるね」と美優に声を掛ける。
「次は?抜けても平気な授業?」
「大丈夫だと思いますよ。綾音、もう課題終わってたし」
「そっか」
先輩は私をずるずると引きずるように廊下に引っ張り出した。
「ちゃんと話しておいでー」と美優にひらひら手を振られて、私は逃げ場をなくしたのだった。
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