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彼と彼女の痴話喧嘩
①お別れします!
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昼休み。
よく一緒に昼食を食べている中庭のベンチに、いつものように座ったところで、同じく隣に座る彼をじっと見ると、「どした?」と短く尋ねられた。
どうやって伝えようか、考えに考え抜いて今日を迎えた。結局、しっくりくるような文言は浮かばなかったけれど、絶対に恨みがましくならないようにということ、あとはとにかく端的に話すことを意識しようと決めた。
「えっと…わ、別れてください」
「…は?」
「今まで、ありがとうございました」
「え、どういうこと?」
「梓先輩といると楽しくて…いつもドキドキしてました。私みたいなのと付き合ってくれて、優しくしてくれて。やっぱり梓先輩は素敵な人でした。…だからもう、別れてください」
「いやいや、質問に答えてよ」
「これからはお友達として仲良くしてください…と言いたいところなんですけど、多分それは私の気持ち的に難しいので、もう私のことは忘れてもらうしか…」
「…冗談にしてはタチ悪過ぎない?」
やや怒気を含んだ声と共に両肩を掴まれて、じっと見つめられる。
初めて見る。眉間に皺を寄せた、怒った顔。いや、ちょっと困っているようにも見える?
…それにしてもカッコいい。やっぱり好き。
皮肉なもので、いざ別れを告げる時に自分の気持ちを再確認してしまう。
立花梓先輩と初めて出会ったのは、柔道部に所属している兄に、忘れ物を届けに行った時だった。
「え、聡の妹?まじ?」
柔道部の顧問の先生に用があったらしい梓先輩は、「優しい熊みたいなやつの妹がこんな小動物みたいな…」とぶつぶつ呟いてから、中に入れなくてもじもじしていた私のために兄を呼んでくれた。
こちらを見下ろしながら、何気なく「可愛いね」と言われたのを覚えている。
大して知りもしないのに湧き上がる気持ち。多分、一目惚れの類のものだったと思う。
この人のことがもっと知りたい。
この人ともっと仲良くなりたい。
兄ルートで連絡先を聞いて、妹であることを利用してぐいぐい近付いて。そんな熱量で誰かのことを想うのは人生で初めてのことだった。
切れ長の目も、すっと通った鼻筋も、薄い唇も。私よりも頭2つ分くらい高い背も、長い手足も、意外と力が強いところも。制服のネクタイを緩めに結んでいるところも、少し長めの前髪も。気付けば気付くほど好きになっていく。
昼休みに呼び出して、昼食を2回一緒に食べたところで、我慢できなくなって告白した。
「付き合ってもいいけど…聡になんて言おうかな」と苦笑しながらも、OKしてもらえたときは、天にも登るような気持ちだった。
それからは、もうとにかく嬉しくて、毎日きゅんきゅんしていた。きゅんきゅんしかしていなかったと言っても過言ではない。
…でも、二週間くらい前から先輩の様子がおかしいのだ。
連絡をしてもなかなか返事が来ないし、既読スルーもしょっちゅう。おやすみとかおはようのスタンプは時々送られてきたけれど、そんなこと今までなかったから、はじめは事故にでもあったのかと思ってしまったくらい。
何かあったかと聞いても、特に何もないと言うだけ。でも、特に何もないわけがない。先輩は私にどれだけ観察されているか気付いていない。
一度「絶対に何か隠してますよね」と言ったら、「いやー、別に何も…」と返され、それ以上は聞かなかったけれど。
これ、もしかして倦怠期…的なやつ?
慣れてきたから、飽きちゃったみたいなパターン?
自分の気持ちが大き過ぎる自覚がある分、先輩の気持ちが離れている気がするのが、思っていたより、かなりキツかった。
このままだとそのうちに、私の愛の重みで気持ちの天秤が壊れてしまう。
「冗談じゃないならいいってことですか…?」
「何言って…」
「と、とりあえず、私、倦怠期とか無理なんです。梓先輩とは、いつまでもラブラブでいたいっていうか、だからそれが無理ならもう一緒にいる方が辛いです…!あ、やば、いっぱい喋り過ぎちゃった…あの、そんなわけで、今まで、ありがとうございました!」
「ちょ…待てって!」
背後で何かを言っているような声が聞こえたけれど、振り切って猛ダッシュする。
正直、足には自信があるから、逃げ切れると思う。
案の定、途中までは追いかけてくる足音が聞こえていたけれど、うまく撒けたようだ。
さっきからスマホが鳴り続けていたけれど、電源を切ったからもう鳴らない。
昼休みも終わってしまったし、丁度よかった。
これでいい。
こうして、私の恋は終わった。
よく一緒に昼食を食べている中庭のベンチに、いつものように座ったところで、同じく隣に座る彼をじっと見ると、「どした?」と短く尋ねられた。
どうやって伝えようか、考えに考え抜いて今日を迎えた。結局、しっくりくるような文言は浮かばなかったけれど、絶対に恨みがましくならないようにということ、あとはとにかく端的に話すことを意識しようと決めた。
「えっと…わ、別れてください」
「…は?」
「今まで、ありがとうございました」
「え、どういうこと?」
「梓先輩といると楽しくて…いつもドキドキしてました。私みたいなのと付き合ってくれて、優しくしてくれて。やっぱり梓先輩は素敵な人でした。…だからもう、別れてください」
「いやいや、質問に答えてよ」
「これからはお友達として仲良くしてください…と言いたいところなんですけど、多分それは私の気持ち的に難しいので、もう私のことは忘れてもらうしか…」
「…冗談にしてはタチ悪過ぎない?」
やや怒気を含んだ声と共に両肩を掴まれて、じっと見つめられる。
初めて見る。眉間に皺を寄せた、怒った顔。いや、ちょっと困っているようにも見える?
…それにしてもカッコいい。やっぱり好き。
皮肉なもので、いざ別れを告げる時に自分の気持ちを再確認してしまう。
立花梓先輩と初めて出会ったのは、柔道部に所属している兄に、忘れ物を届けに行った時だった。
「え、聡の妹?まじ?」
柔道部の顧問の先生に用があったらしい梓先輩は、「優しい熊みたいなやつの妹がこんな小動物みたいな…」とぶつぶつ呟いてから、中に入れなくてもじもじしていた私のために兄を呼んでくれた。
こちらを見下ろしながら、何気なく「可愛いね」と言われたのを覚えている。
大して知りもしないのに湧き上がる気持ち。多分、一目惚れの類のものだったと思う。
この人のことがもっと知りたい。
この人ともっと仲良くなりたい。
兄ルートで連絡先を聞いて、妹であることを利用してぐいぐい近付いて。そんな熱量で誰かのことを想うのは人生で初めてのことだった。
切れ長の目も、すっと通った鼻筋も、薄い唇も。私よりも頭2つ分くらい高い背も、長い手足も、意外と力が強いところも。制服のネクタイを緩めに結んでいるところも、少し長めの前髪も。気付けば気付くほど好きになっていく。
昼休みに呼び出して、昼食を2回一緒に食べたところで、我慢できなくなって告白した。
「付き合ってもいいけど…聡になんて言おうかな」と苦笑しながらも、OKしてもらえたときは、天にも登るような気持ちだった。
それからは、もうとにかく嬉しくて、毎日きゅんきゅんしていた。きゅんきゅんしかしていなかったと言っても過言ではない。
…でも、二週間くらい前から先輩の様子がおかしいのだ。
連絡をしてもなかなか返事が来ないし、既読スルーもしょっちゅう。おやすみとかおはようのスタンプは時々送られてきたけれど、そんなこと今までなかったから、はじめは事故にでもあったのかと思ってしまったくらい。
何かあったかと聞いても、特に何もないと言うだけ。でも、特に何もないわけがない。先輩は私にどれだけ観察されているか気付いていない。
一度「絶対に何か隠してますよね」と言ったら、「いやー、別に何も…」と返され、それ以上は聞かなかったけれど。
これ、もしかして倦怠期…的なやつ?
慣れてきたから、飽きちゃったみたいなパターン?
自分の気持ちが大き過ぎる自覚がある分、先輩の気持ちが離れている気がするのが、思っていたより、かなりキツかった。
このままだとそのうちに、私の愛の重みで気持ちの天秤が壊れてしまう。
「冗談じゃないならいいってことですか…?」
「何言って…」
「と、とりあえず、私、倦怠期とか無理なんです。梓先輩とは、いつまでもラブラブでいたいっていうか、だからそれが無理ならもう一緒にいる方が辛いです…!あ、やば、いっぱい喋り過ぎちゃった…あの、そんなわけで、今まで、ありがとうございました!」
「ちょ…待てって!」
背後で何かを言っているような声が聞こえたけれど、振り切って猛ダッシュする。
正直、足には自信があるから、逃げ切れると思う。
案の定、途中までは追いかけてくる足音が聞こえていたけれど、うまく撒けたようだ。
さっきからスマホが鳴り続けていたけれど、電源を切ったからもう鳴らない。
昼休みも終わってしまったし、丁度よかった。
これでいい。
こうして、私の恋は終わった。
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