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第三話 仲の良い友人が言うことには
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「いやいや、その空気感で‘付き合ってません’はちょっと信じられない」
同期で、今年から別の課に異動した中野沙織に「久しぶりに一緒にご飯食べよ♪」と可愛く言われた昼休み。その美しい顔に、あんまり可愛くない呆れたような表情を浮かべて、彼女は言った。
「私は元々男女の友情なんて成立しないと思ってるタイプだけど、共通の趣味の聖地巡りして、次の約束もしてるんでしょ」
フォークにパスタをくるくると巻きつけながら、「何もない方がおかしい」と首を捻りながら言われて、詳細を話すとややこしいことになりそうだと思い、自分も黙ってオムライスを口に運ぶ。
確かにあの日、随分距離感が近いなと思う瞬間はあった。でもまあ仲のいい後輩だしこんなものなのかと思っていたけれど、やっぱり違うのか。
うーん…と考え込んでしまった私を見ながら、沙織はちょっと意味ありげに微笑んでから、パスタを口に放り込んだ。
「ま、いい感じの人がいるっていうのは日々に潤いを与えてくれるよ。推し的な?あ、そういえば理央先輩、お見合いうまくいったらしいよ」
「え!そうなんだ」
「うん。なんかもう、運命みたいな感じだったって。だから、すぐ婚約して、多分その流れで入籍もしちゃうって。そういうのもあるんだよね」
「どっかに運命の出会いないかなー」と、溜め息をつく沙織は美人なのに、恋愛となると‘なんか違ったんだよね’が口癖になっているくらい長続きしない。その‘なんか’が何なのかは、私にはわからない。でもきっと、大事なことなんだろうと思う。
理央先輩というのは、かつて私と沙織の指導係としていろいろ面倒を見てくれた先輩だ。沙織と同じ課に配属されていることもあり、今でも時々話を聞く。
「あ、でもね、そのお相手の方が『西園寺さん』って言うんだって。理央先輩、今の苗字が‘田中’じゃない?だから、急に珍しくてカッコいい苗字になっちゃうから慣れないかもって言ってた」
「確かに!それわかる…」
「美緒も‘田中’だもんね」
あははと楽しそうに笑って、沙織は言った。
「ま、恋愛なんかどっからどうなるかわからないってことだよね。あっという間に進んでっちゃうかもしれないし」
―あっという間に。
なんだかあんまり想像がつかない。
水を口に含んだところで、スマホが通知を知らせた。画面に表示されたのは、矢野くんの名前。ちらっと画面が見えたのか、沙織がはっとする。
「えー?何何?例の後輩くん?なんて?」
「今日、ご飯行きませんかって」
「ほらー!やっぱり、絶対美緒に気があるよ!」
きゃあきゃあ言っている沙織を横目に、ちょっと不安になる。
いつもだったら、彼のお気に入りのスタンプが一緒に送られてくるのに、今日はスタンプどころか絵文字もない一言だったから。体調でも悪いのだろうか。
「でもさ、美緒はどうなの?正直、その後輩くんと付き合うとかなったら」
「んー…よくわかんない」
ちょっとぶっきらぼうなところはあるけれど、仲良くなると意外と可愛くて、礼儀正しい後輩。最近は‘デキる社員’感が強くなったけれど、話す度に、指導係として関わっていた時と何も変わらないと感じる。話をするのも楽しい。結構モテるらしいという噂も聞くけれど、それを自分の恋愛と結びつけようとすると、なんだかイメージが沸かない。
「美緒って、今まで誰かと付き合ったことないんだっけ」
「…ない。だから、うーん…」
私の煮え切らない様子を見た沙織は、ずいっと体を私の方に乗り出した。
「じゃあさ、チューできると思う?その後輩くんと」
「え」
「ほら、生理的に無理だったら付き合うとかないじゃん?だから、チューできるかって」
「そ、そんなの考えたこともないよ!」
「できないわけではないのね。なるほどなるほど」
スマホで昼休みの終わり時刻を確認しながら、沙織は「試してみたらいいんじゃない」と笑った。
同期で、今年から別の課に異動した中野沙織に「久しぶりに一緒にご飯食べよ♪」と可愛く言われた昼休み。その美しい顔に、あんまり可愛くない呆れたような表情を浮かべて、彼女は言った。
「私は元々男女の友情なんて成立しないと思ってるタイプだけど、共通の趣味の聖地巡りして、次の約束もしてるんでしょ」
フォークにパスタをくるくると巻きつけながら、「何もない方がおかしい」と首を捻りながら言われて、詳細を話すとややこしいことになりそうだと思い、自分も黙ってオムライスを口に運ぶ。
確かにあの日、随分距離感が近いなと思う瞬間はあった。でもまあ仲のいい後輩だしこんなものなのかと思っていたけれど、やっぱり違うのか。
うーん…と考え込んでしまった私を見ながら、沙織はちょっと意味ありげに微笑んでから、パスタを口に放り込んだ。
「ま、いい感じの人がいるっていうのは日々に潤いを与えてくれるよ。推し的な?あ、そういえば理央先輩、お見合いうまくいったらしいよ」
「え!そうなんだ」
「うん。なんかもう、運命みたいな感じだったって。だから、すぐ婚約して、多分その流れで入籍もしちゃうって。そういうのもあるんだよね」
「どっかに運命の出会いないかなー」と、溜め息をつく沙織は美人なのに、恋愛となると‘なんか違ったんだよね’が口癖になっているくらい長続きしない。その‘なんか’が何なのかは、私にはわからない。でもきっと、大事なことなんだろうと思う。
理央先輩というのは、かつて私と沙織の指導係としていろいろ面倒を見てくれた先輩だ。沙織と同じ課に配属されていることもあり、今でも時々話を聞く。
「あ、でもね、そのお相手の方が『西園寺さん』って言うんだって。理央先輩、今の苗字が‘田中’じゃない?だから、急に珍しくてカッコいい苗字になっちゃうから慣れないかもって言ってた」
「確かに!それわかる…」
「美緒も‘田中’だもんね」
あははと楽しそうに笑って、沙織は言った。
「ま、恋愛なんかどっからどうなるかわからないってことだよね。あっという間に進んでっちゃうかもしれないし」
―あっという間に。
なんだかあんまり想像がつかない。
水を口に含んだところで、スマホが通知を知らせた。画面に表示されたのは、矢野くんの名前。ちらっと画面が見えたのか、沙織がはっとする。
「えー?何何?例の後輩くん?なんて?」
「今日、ご飯行きませんかって」
「ほらー!やっぱり、絶対美緒に気があるよ!」
きゃあきゃあ言っている沙織を横目に、ちょっと不安になる。
いつもだったら、彼のお気に入りのスタンプが一緒に送られてくるのに、今日はスタンプどころか絵文字もない一言だったから。体調でも悪いのだろうか。
「でもさ、美緒はどうなの?正直、その後輩くんと付き合うとかなったら」
「んー…よくわかんない」
ちょっとぶっきらぼうなところはあるけれど、仲良くなると意外と可愛くて、礼儀正しい後輩。最近は‘デキる社員’感が強くなったけれど、話す度に、指導係として関わっていた時と何も変わらないと感じる。話をするのも楽しい。結構モテるらしいという噂も聞くけれど、それを自分の恋愛と結びつけようとすると、なんだかイメージが沸かない。
「美緒って、今まで誰かと付き合ったことないんだっけ」
「…ない。だから、うーん…」
私の煮え切らない様子を見た沙織は、ずいっと体を私の方に乗り出した。
「じゃあさ、チューできると思う?その後輩くんと」
「え」
「ほら、生理的に無理だったら付き合うとかないじゃん?だから、チューできるかって」
「そ、そんなの考えたこともないよ!」
「できないわけではないのね。なるほどなるほど」
スマホで昼休みの終わり時刻を確認しながら、沙織は「試してみたらいいんじゃない」と笑った。
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