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After Story
卵との日々
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卵を持って部屋に戻ると、リディアが赤ちゃんを入れる用の大きなカゴを用意してくれた。中はふかふかになっていて、まるでベッドのようだ。そこにそっと卵を下ろし、ダグとともに優しく撫でる。
「魔力、込めた方が良いのかな」
「軽く手に纏わせて撫でたらどうだ?」
「そうだね」
軽く手に魔力を纏わせることを意識して、軽く魔力を解放しつつ撫でてみると、ほわりと卵が光って温かくなった。どうやら間違ってなかったみたい。
「まだ卵なのになんだかすごく可愛い」
「そうだな。大事にしよう」
「うん」
この子はどんな姿をしているのかな。神獣は何か動物のような姿だと言うことは言い伝えられているから、この子も何かの動物に似た姿なのだろう。神獣は本当にいろんな姿をしているらしくて、鳳凰のような鳥だったり、ライオンやトラのような肉食獣のようだったり、かと言えばユニコーンみたいだったり……共通して言えることはその身体は白くてかなり強い魔力と神気を持っていると言うこと。
だからまだまだどんな姿で生まれて来るかわからないのです。でもまぁ、例えどんな姿でも元気であればそれで嬉しいかな。この子のペースで、ゆっくりでもいいから元気に生まれてきてほしいです。
「名前はつけるのか?」
「この子が生まれてから、この子の意思に任せる。つけて欲しいって思ってくれたならこの子の姿を見て考えたいな」
「そうだな。せっかくならその姿に合う名前をつけてやりたいしな」
「うん。それに、この子が名前をつけられることを望まない可能性だってあるしね」
名前をつけると言うことは、僕達の子になることとほとんど同じこと。僕達を親として認めることになるんだ。この子はもしかしたら親という存在に縛られることを望まないかもしれない。だから、あくまでも僕はこの子の自由を尊重します。
でも……僕たちと一緒にいることを望んでくれたのなら、それは本当に幸せなことだと思うな。だって既にこの子は僕達にとって家族なんだって言う意識が芽生えているから。たとえこの子が自由に世界を駆け回ることを望んだとしても、たまにでいいから会いにきてほしいなぁ……
しみじみと考えていると、そっと神様が現れた。卵を見に来たのかな?
「神様、お久しぶりです。僕がこの子が孵るのを手伝ってもいいのです?」
「もちろん。あの木の精の言葉通り、幸仁の魔力は神獣の子を強くする。毎日一度は手に魔力を込めた状態で撫でてやるといい」
「わかりました。この子って、もしかして神様の子なのです……?」
もう僕達の子供のつもりだったけれど、もしかして神様の子でお返ししないとダメなのかもしれない。もしそうなら仕方ないことだけど、悲しいなぁ……
「いいや、神獣はたしかに私の力に近いものを持つけれど、厳密に言えば私の子ではない。眷属、と言った方が正しいかな。だから気にせず幸仁が育てておくれ。そも、産まれたばかりの子に私の気は毒となる。持つ神気に差がありすぎるからね」
「なるほど……僕、この子のために頑張りますね」
「かと言って枯渇するほど魔力を込めることはしてはならないよ。無理のない程度に留めておきなさい。幸仁の魔力はたとえ少しだとしても十分効果があるからね」
「はい」
枯渇するほどあげたら、回復するまで魔力をあげられなくなってしまう。それを避けるためにも無理のない程度で毎日あげよう。
「ダグラスも、魔力をあげてもいいからね。2人の魔力は相性がいいからこの子にとっても良い筈だ」
「ではユキと一緒に魔力を与えることにします。俺の子でもありますから」
「ふふ、もう2人とも親の顔だね。万年新婚夫婦でいる筈じゃなかったのかい?」
ニヤリと僕達を見る神様に、ダグと目を合わせてからそっと卵を見つめる。
「……そのつもりだったんですけど、今はこの子が愛しいです。ダグが優しい目でその卵を見ているのも嬉しいですし、この卵が僕達のそばにあることが幸せだって、思ってしまってるんです。今日会ったばかりなのに、おかしいですかね」
ポツリとそう言うと、ダグも同意するようにそっと抱き寄せてくれた。そうだよね。もうすでに、この子が大事で、愛しくなってるんだ。
「いや、いいんじゃないかな。ほら、好きだと思うのに時間は関係ない、だろう? 大事にしておやり」
「はい」
神様はそのまま卵をひと撫ですると僕達に微笑んでからすっと消えた。
神様も僕達がこの子が孵るためのお手伝いをすることに賛成してくれたから、遠慮なく2人でこの子を見守ろう。絶対誰にも渡しません!
その日は僕とダグの間に卵を置いて、潰さないように気をつけながら2人で抱きしめて眠った。喜ぶようにほわりと温かくなった卵に僕達もあたたかい気持ちになったのでした。
次の日から、僕とダグは朝起きた時と夜寝る前に、おはようとおやすみっていう意味を込めて魔力をあげて、昼間も時折あげることに決めた。どれくらいあげたらいいのかとか、あげることで僕はまだしもダグの魔力量のうちどれくらいが消費されるのかとかまだまだ感覚が掴めないから探り探りなのです。
僕は枯渇することってほとんどないからあまり量は気にしなくてもいいんだけど……もし万が一何かあった時、自分の身や周りのみんなを守るための魔力を置いておかないとダメだから、あげすぎるわけにはいかないのです。
大量の魔力が必要なほどの事件が頻繁に起きているわけじゃないけど、やっぱりもしものことを考えると、ね。今は身を守る術が何かしらある僕達自身だけじゃなく、この卵も守らなくちゃだめだから。この子はまだ卵だから自分じゃ動けないから、僕達が守らなくちゃだめなのです。この子のためにも、魔力は余裕があるくらい残しておく方がいいと思うのです。
ちなみに、昼間の間はリディアが抱っこ紐を用意してくれたから、それを肩からかけてそこにおさめることに。温めた方がいいのかな、と思うからふわふわのブランケットに包みながらね。
……まぁ疲れてしまったらちょっと籠へ下ろして休憩したりもしてるんだけども……ずっと抱きしめててあげたい気持ちはあるんだけど、この卵すごく大きいから重さも結構あって……ダグからしたらなんともない重さなんだろうけど、非力な僕にはずっと抱えているのは結構厳しいのです。断じて愛情がないわけじゃないです!
そうやって卵と暮らし始めてから、僕達はあまり昼間はお城に出入りする貴族に会う可能性のある場所へは行かないようになった。まだ発表していない現段階で卵を見られたらまずいからです。かといって卵を放って外を歩き回るのも……となって、今は夜にお散歩してます。静かな夜に星を見上げながらゆったりダグと歩くのは幸せです。
「月が綺麗だな」
「……そうだね」
月が綺麗、かぁ……ふふ、ダグは絶対知らないはずだから本当に月が綺麗だと言っただけなのに、喜んじゃう自分がいます。
そうやってニマニマと上機嫌になった僕にダグは不思議そうな様子で。
「……どうした?」
「ふふ、なーいしょ。本当に月、綺麗だね」
僕もダグが大好きだよ。
「ああ、綺麗だ」
芝生の上にシートを敷いて、しばらく座ってのんびりと綺麗な月や星を眺めた僕達は少し冷たい風が出てきたところで部屋へ戻って温かいものを飲んでから眠った。
卵と出会ってしばらく経ち、ダグもちょくちょく休みながらお仕事に復帰して少し経った頃、ダグがお仕事なことで暇を持て余した僕が卵を抱えつつ本を読んでいると、腕の中の卵が微かに動いたことを感じ取った。気のせいかと思って本を置いてしばらくじっと抱きしめてみるとやっぱり卵、というか卵の中の神獣の子が動いている。しかもその動きは少しずつ大きくなっている気が。
「ううう動いてる! どうしたら……!?」
「ユキ、落ち着け。ゆっくり籠へ下ろすんだ」
「ううううん」
そうだよね、抱えてたら危ないもんね。そっと籠は下ろすとやはり卵はグラグラと動いていて、さらにパキパキと少しずつヒビが入ってきている。
ついに、孵るんだ────
「魔力、込めた方が良いのかな」
「軽く手に纏わせて撫でたらどうだ?」
「そうだね」
軽く手に魔力を纏わせることを意識して、軽く魔力を解放しつつ撫でてみると、ほわりと卵が光って温かくなった。どうやら間違ってなかったみたい。
「まだ卵なのになんだかすごく可愛い」
「そうだな。大事にしよう」
「うん」
この子はどんな姿をしているのかな。神獣は何か動物のような姿だと言うことは言い伝えられているから、この子も何かの動物に似た姿なのだろう。神獣は本当にいろんな姿をしているらしくて、鳳凰のような鳥だったり、ライオンやトラのような肉食獣のようだったり、かと言えばユニコーンみたいだったり……共通して言えることはその身体は白くてかなり強い魔力と神気を持っていると言うこと。
だからまだまだどんな姿で生まれて来るかわからないのです。でもまぁ、例えどんな姿でも元気であればそれで嬉しいかな。この子のペースで、ゆっくりでもいいから元気に生まれてきてほしいです。
「名前はつけるのか?」
「この子が生まれてから、この子の意思に任せる。つけて欲しいって思ってくれたならこの子の姿を見て考えたいな」
「そうだな。せっかくならその姿に合う名前をつけてやりたいしな」
「うん。それに、この子が名前をつけられることを望まない可能性だってあるしね」
名前をつけると言うことは、僕達の子になることとほとんど同じこと。僕達を親として認めることになるんだ。この子はもしかしたら親という存在に縛られることを望まないかもしれない。だから、あくまでも僕はこの子の自由を尊重します。
でも……僕たちと一緒にいることを望んでくれたのなら、それは本当に幸せなことだと思うな。だって既にこの子は僕達にとって家族なんだって言う意識が芽生えているから。たとえこの子が自由に世界を駆け回ることを望んだとしても、たまにでいいから会いにきてほしいなぁ……
しみじみと考えていると、そっと神様が現れた。卵を見に来たのかな?
「神様、お久しぶりです。僕がこの子が孵るのを手伝ってもいいのです?」
「もちろん。あの木の精の言葉通り、幸仁の魔力は神獣の子を強くする。毎日一度は手に魔力を込めた状態で撫でてやるといい」
「わかりました。この子って、もしかして神様の子なのです……?」
もう僕達の子供のつもりだったけれど、もしかして神様の子でお返ししないとダメなのかもしれない。もしそうなら仕方ないことだけど、悲しいなぁ……
「いいや、神獣はたしかに私の力に近いものを持つけれど、厳密に言えば私の子ではない。眷属、と言った方が正しいかな。だから気にせず幸仁が育てておくれ。そも、産まれたばかりの子に私の気は毒となる。持つ神気に差がありすぎるからね」
「なるほど……僕、この子のために頑張りますね」
「かと言って枯渇するほど魔力を込めることはしてはならないよ。無理のない程度に留めておきなさい。幸仁の魔力はたとえ少しだとしても十分効果があるからね」
「はい」
枯渇するほどあげたら、回復するまで魔力をあげられなくなってしまう。それを避けるためにも無理のない程度で毎日あげよう。
「ダグラスも、魔力をあげてもいいからね。2人の魔力は相性がいいからこの子にとっても良い筈だ」
「ではユキと一緒に魔力を与えることにします。俺の子でもありますから」
「ふふ、もう2人とも親の顔だね。万年新婚夫婦でいる筈じゃなかったのかい?」
ニヤリと僕達を見る神様に、ダグと目を合わせてからそっと卵を見つめる。
「……そのつもりだったんですけど、今はこの子が愛しいです。ダグが優しい目でその卵を見ているのも嬉しいですし、この卵が僕達のそばにあることが幸せだって、思ってしまってるんです。今日会ったばかりなのに、おかしいですかね」
ポツリとそう言うと、ダグも同意するようにそっと抱き寄せてくれた。そうだよね。もうすでに、この子が大事で、愛しくなってるんだ。
「いや、いいんじゃないかな。ほら、好きだと思うのに時間は関係ない、だろう? 大事にしておやり」
「はい」
神様はそのまま卵をひと撫ですると僕達に微笑んでからすっと消えた。
神様も僕達がこの子が孵るためのお手伝いをすることに賛成してくれたから、遠慮なく2人でこの子を見守ろう。絶対誰にも渡しません!
その日は僕とダグの間に卵を置いて、潰さないように気をつけながら2人で抱きしめて眠った。喜ぶようにほわりと温かくなった卵に僕達もあたたかい気持ちになったのでした。
次の日から、僕とダグは朝起きた時と夜寝る前に、おはようとおやすみっていう意味を込めて魔力をあげて、昼間も時折あげることに決めた。どれくらいあげたらいいのかとか、あげることで僕はまだしもダグの魔力量のうちどれくらいが消費されるのかとかまだまだ感覚が掴めないから探り探りなのです。
僕は枯渇することってほとんどないからあまり量は気にしなくてもいいんだけど……もし万が一何かあった時、自分の身や周りのみんなを守るための魔力を置いておかないとダメだから、あげすぎるわけにはいかないのです。
大量の魔力が必要なほどの事件が頻繁に起きているわけじゃないけど、やっぱりもしものことを考えると、ね。今は身を守る術が何かしらある僕達自身だけじゃなく、この卵も守らなくちゃだめだから。この子はまだ卵だから自分じゃ動けないから、僕達が守らなくちゃだめなのです。この子のためにも、魔力は余裕があるくらい残しておく方がいいと思うのです。
ちなみに、昼間の間はリディアが抱っこ紐を用意してくれたから、それを肩からかけてそこにおさめることに。温めた方がいいのかな、と思うからふわふわのブランケットに包みながらね。
……まぁ疲れてしまったらちょっと籠へ下ろして休憩したりもしてるんだけども……ずっと抱きしめててあげたい気持ちはあるんだけど、この卵すごく大きいから重さも結構あって……ダグからしたらなんともない重さなんだろうけど、非力な僕にはずっと抱えているのは結構厳しいのです。断じて愛情がないわけじゃないです!
そうやって卵と暮らし始めてから、僕達はあまり昼間はお城に出入りする貴族に会う可能性のある場所へは行かないようになった。まだ発表していない現段階で卵を見られたらまずいからです。かといって卵を放って外を歩き回るのも……となって、今は夜にお散歩してます。静かな夜に星を見上げながらゆったりダグと歩くのは幸せです。
「月が綺麗だな」
「……そうだね」
月が綺麗、かぁ……ふふ、ダグは絶対知らないはずだから本当に月が綺麗だと言っただけなのに、喜んじゃう自分がいます。
そうやってニマニマと上機嫌になった僕にダグは不思議そうな様子で。
「……どうした?」
「ふふ、なーいしょ。本当に月、綺麗だね」
僕もダグが大好きだよ。
「ああ、綺麗だ」
芝生の上にシートを敷いて、しばらく座ってのんびりと綺麗な月や星を眺めた僕達は少し冷たい風が出てきたところで部屋へ戻って温かいものを飲んでから眠った。
卵と出会ってしばらく経ち、ダグもちょくちょく休みながらお仕事に復帰して少し経った頃、ダグがお仕事なことで暇を持て余した僕が卵を抱えつつ本を読んでいると、腕の中の卵が微かに動いたことを感じ取った。気のせいかと思って本を置いてしばらくじっと抱きしめてみるとやっぱり卵、というか卵の中の神獣の子が動いている。しかもその動きは少しずつ大きくなっている気が。
「ううう動いてる! どうしたら……!?」
「ユキ、落ち着け。ゆっくり籠へ下ろすんだ」
「ううううん」
そうだよね、抱えてたら危ないもんね。そっと籠は下ろすとやはり卵はグラグラと動いていて、さらにパキパキと少しずつヒビが入ってきている。
ついに、孵るんだ────
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