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After Story
僕の気持ち
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それからもサダン君には護衛がつくこと、サダン君とは両国の王家を通じて文通ができること、僕の言葉も発表することなどなどを教えてもらった。サダン君と文通できるのは嬉しいけども……僕の言葉、かぁ……
「僕の言葉……なんでもいいのです?」
「もちろんです。神子様の思いを綴ってください。出来上がり次第、受け取りに向かいます」
「わかりました」
マスルール様が出て行って、ポスリとダグの胸に頭を預けて何を書こうかと思案する。どんな紙でもいいから、とにかく考えて書き出したらそれを新聞みたいにして発行するらしい。
「素直なユキの気持ちでいいと思うぞ」
「僕の素直な気持ち……ん、わかった。とりあえず書いてみる」
「ああ、無理はするなよ」
「ん」
リディアが出してくれたペンを手に取り、同じように出してくれた紙 とペンを走らせる。
そうして出来上がった文章は、すぐさま印刷され、次の日にはコルンガどころか世界各国へと発信された。
─*─*─*─*─*─*─*─*─*─
今回の件で多くの方々へと混乱を与えてしまったことを深くお詫びします。
先日発行された新聞の通り、僕はユーキ・タネルとしてコルンガ共和国リンドール学園へと留学していました。身分を偽ったのは神子としてではなく、ただの学生としての生活を送りたかったからです。ヴィルヘルムとコルンガ両国の国王陛下はそんな僕の願いを叶えてくれたに過ぎません。
僕はこの世界に来るまで、ただの学生でした。それが1年と少し前、僕は突然神子として生きることになりました。神子として必要とされることが嫌なわけではありません。この世界が嫌いなわけでもありません。でも僕は、僕を僕として扱われることも望んでいます。神子としてではなく、ただの人間であるユキヒトも見てほしい。そう常々感じています。
僕に親しくしてくれる方々はそんな僕の気持ちを理解し、ありのままの状態で接してくれます。だからこそ僕も、ありのままの僕でいられる。それが幸せでなりません。
神子として振舞っていると、本当の僕を見てくれる人は少ないのだと、感じさせられます。この世界にとって神子という存在が大きすぎることがそうさせているのでしょう。ですが……
僕はこの世界で神子として生きることしか許されませんか? ただのユキヒトとして生きることは許されませんか?
学園でただの学生として、友人と何気ないことで馬鹿みたいに笑っていた僕は紛れもなくただのユキヒトでした。神子ではなく、ただのユキヒトがあの学園には存在していました。短い期間になってしまったけれど、学園での日々はかけがえのない思い出です。
起きてしまった事件も、仕方のないことです。今は無事に最愛の方の元へ帰り、その腕の中で安らぎを感じられているのでもう構いません。たしかに恐怖は味わいましたが、今が幸せなのでそれでいいのです。
ですが……やはり疲れてしまったのも事実なのでしょう。今は最愛の伴侶に甘やかされてゆっくりと過ごしたいですね。しばらくは静かに休むことにします。
最後になりますが、今回のことで迷惑をかけてしまった皆様へ深くお詫びいたします。それと同時に、僕の願いを叶えようと協力してくださった皆様へ深く感謝します。
神子 ユキヒト・アズマ・リゼンブル
─*─*─*─*─*─*─*─*─*─
素直な気持ちを、と言われたからつい本当に素直に書いちゃったけど……これでよかったのかな? と思うところもある。ただの人間として扱われたいって……神子を必要としてる世界中の人からしたらどう感じるのかなぁ。
……まぁ、いっか。止められなかったということはそれでもよかったんだろうし、僕にはダグがいるからそれだけで十分だ。たとえ今までで1番嫌われる神子になってしまったとしても構わないよ。
……なーんて思っていたら意外なことに僕の言葉はよく受け止められたらしく。
「この世界が神子という存在にすがりついていたことは否定できない。世界中の思いをその一身へと寄せられる重責はどれほどのものであろうか。我々は今一度考え直さなければならない。神子という存在を。そして我々の世界を……だそうです」
リディアが読み上げてくれたのは僕の言葉が発行された次の日に発行された新聞です。ほかにもいろんな新聞社のものを見せてくれたけど、どれも同じようなことが書いてあって、どうやら僕のことを案じてくれているみたいです。
「現在各地ではユキ様への好感度が急上昇しているようですよ。人間らしい一面に親近感が湧いたようですね」
「……意外な展開になった」
僕嫌われる覚悟してたのに。まさか好かれるとは……よかった、のかな……?
「加えてゆっくりお休みいただけるようにと各地の神殿へと寄付が寄せられ、そちらがヴィルヘルムへと集まっております。かなりの額になりますので本当にゆっくりできますよ」
「ひえ……」
そんなこと想像してなかったよ……? わぁ、どうしよう……これは、お礼の言葉も発信したほうがいいよう、な……? ヴィルヘルムに帰ってからにしよう、かな? おかげさまで元気になりました、みたいな……うん、そうしよう。ロイに頼もう。
「流石俺のユキだな。世界中の心を掴むとは。だが1番想っているのは俺だからな」
「……ヤキモチ? ふふ、僕も1番にダグが好き」
自然に顔が近づいて唇が触れる、という瞬間にパン、と1つ音がした。
「私がいることもお忘れなく。お2人が想い合っていることは重々承知していますから」
あう、そうだった……つい雰囲気に飲まれちゃったよ。ダグったら僕をその気にさせるのうまいよね。ついつい流されちゃいます。嫌じゃないけど。
「イチャイチャされるのはよろしいですが、明日にはヴィルヘルムへ帰るのですから程々になさってくださいね。いいですか、程々に、ですよ」
「は、はぁい……」
そうなのです。明日、飛龍に乗ってヴィルヘルムへ帰ることになったのです。ドタバタしてるけど、僕の熱も下がったし安心する場所の方がいいだろうってことでヴィルヘルムのお城で療養です。トラウマのこともあるから知らない人の多いここで暫くいるのはちょっと辛いのです。ヴィルヘルムなら治癒師さんも知り合いだから多分大丈夫なはず。
体調的には結構回復したしダグと思う存分イチャイチャしたいところだけど……その、夜とか、ね……? でもリディアに太い釘を刺されてしまったので我慢します。ヴィルヘルムに帰ったらダグも暫くお休み取るみたいだし……それからにします。1日中一緒に居られるんだからね。
なーんて考えていたらダグの口がそっと耳元へ寄せられまして。
「帰ったら沢山しような」
「~~っっ、な、なに、を……?」
そんなことわかりきっているのに聞いてみれば。
「聞きたいか?」
まさにニヤリ、といった様子で笑ったダグに思わず赤面しました。うぅ……ダグも、その……したいん、だ……ぼ、僕だってその……だ、だって体調崩してたから最後までは暫くしてないんだもん! 僕だって男だからせ、性欲くらいあるもん……
「真っ赤になって可愛いな、ユキ。帰るのが楽しみだ」
「うー……ダグのえっち」
「嫌か?」
「……やじゃない」
そんなことわかってるくせに。くつくつと笑うダグをべしべしと叩けばそれすらも楽しいといった様子でさらに笑ったダグにぎゅうっと抱きしめられました。
「ユキが可愛すぎてどうにかなりそうだ」
「……ばか」
そんなこと思うのはダグだけだよ、なんて思いつつそうやってダグに思われることが嬉しかったり……照れ隠しに頭をグリグリとダグに擦り付ければ嬉しそうな様子でさらにきつく抱きしめられたのでした。
「僕の言葉……なんでもいいのです?」
「もちろんです。神子様の思いを綴ってください。出来上がり次第、受け取りに向かいます」
「わかりました」
マスルール様が出て行って、ポスリとダグの胸に頭を預けて何を書こうかと思案する。どんな紙でもいいから、とにかく考えて書き出したらそれを新聞みたいにして発行するらしい。
「素直なユキの気持ちでいいと思うぞ」
「僕の素直な気持ち……ん、わかった。とりあえず書いてみる」
「ああ、無理はするなよ」
「ん」
リディアが出してくれたペンを手に取り、同じように出してくれた紙 とペンを走らせる。
そうして出来上がった文章は、すぐさま印刷され、次の日にはコルンガどころか世界各国へと発信された。
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今回の件で多くの方々へと混乱を与えてしまったことを深くお詫びします。
先日発行された新聞の通り、僕はユーキ・タネルとしてコルンガ共和国リンドール学園へと留学していました。身分を偽ったのは神子としてではなく、ただの学生としての生活を送りたかったからです。ヴィルヘルムとコルンガ両国の国王陛下はそんな僕の願いを叶えてくれたに過ぎません。
僕はこの世界に来るまで、ただの学生でした。それが1年と少し前、僕は突然神子として生きることになりました。神子として必要とされることが嫌なわけではありません。この世界が嫌いなわけでもありません。でも僕は、僕を僕として扱われることも望んでいます。神子としてではなく、ただの人間であるユキヒトも見てほしい。そう常々感じています。
僕に親しくしてくれる方々はそんな僕の気持ちを理解し、ありのままの状態で接してくれます。だからこそ僕も、ありのままの僕でいられる。それが幸せでなりません。
神子として振舞っていると、本当の僕を見てくれる人は少ないのだと、感じさせられます。この世界にとって神子という存在が大きすぎることがそうさせているのでしょう。ですが……
僕はこの世界で神子として生きることしか許されませんか? ただのユキヒトとして生きることは許されませんか?
学園でただの学生として、友人と何気ないことで馬鹿みたいに笑っていた僕は紛れもなくただのユキヒトでした。神子ではなく、ただのユキヒトがあの学園には存在していました。短い期間になってしまったけれど、学園での日々はかけがえのない思い出です。
起きてしまった事件も、仕方のないことです。今は無事に最愛の方の元へ帰り、その腕の中で安らぎを感じられているのでもう構いません。たしかに恐怖は味わいましたが、今が幸せなのでそれでいいのです。
ですが……やはり疲れてしまったのも事実なのでしょう。今は最愛の伴侶に甘やかされてゆっくりと過ごしたいですね。しばらくは静かに休むことにします。
最後になりますが、今回のことで迷惑をかけてしまった皆様へ深くお詫びいたします。それと同時に、僕の願いを叶えようと協力してくださった皆様へ深く感謝します。
神子 ユキヒト・アズマ・リゼンブル
─*─*─*─*─*─*─*─*─*─
素直な気持ちを、と言われたからつい本当に素直に書いちゃったけど……これでよかったのかな? と思うところもある。ただの人間として扱われたいって……神子を必要としてる世界中の人からしたらどう感じるのかなぁ。
……まぁ、いっか。止められなかったということはそれでもよかったんだろうし、僕にはダグがいるからそれだけで十分だ。たとえ今までで1番嫌われる神子になってしまったとしても構わないよ。
……なーんて思っていたら意外なことに僕の言葉はよく受け止められたらしく。
「この世界が神子という存在にすがりついていたことは否定できない。世界中の思いをその一身へと寄せられる重責はどれほどのものであろうか。我々は今一度考え直さなければならない。神子という存在を。そして我々の世界を……だそうです」
リディアが読み上げてくれたのは僕の言葉が発行された次の日に発行された新聞です。ほかにもいろんな新聞社のものを見せてくれたけど、どれも同じようなことが書いてあって、どうやら僕のことを案じてくれているみたいです。
「現在各地ではユキ様への好感度が急上昇しているようですよ。人間らしい一面に親近感が湧いたようですね」
「……意外な展開になった」
僕嫌われる覚悟してたのに。まさか好かれるとは……よかった、のかな……?
「加えてゆっくりお休みいただけるようにと各地の神殿へと寄付が寄せられ、そちらがヴィルヘルムへと集まっております。かなりの額になりますので本当にゆっくりできますよ」
「ひえ……」
そんなこと想像してなかったよ……? わぁ、どうしよう……これは、お礼の言葉も発信したほうがいいよう、な……? ヴィルヘルムに帰ってからにしよう、かな? おかげさまで元気になりました、みたいな……うん、そうしよう。ロイに頼もう。
「流石俺のユキだな。世界中の心を掴むとは。だが1番想っているのは俺だからな」
「……ヤキモチ? ふふ、僕も1番にダグが好き」
自然に顔が近づいて唇が触れる、という瞬間にパン、と1つ音がした。
「私がいることもお忘れなく。お2人が想い合っていることは重々承知していますから」
あう、そうだった……つい雰囲気に飲まれちゃったよ。ダグったら僕をその気にさせるのうまいよね。ついつい流されちゃいます。嫌じゃないけど。
「イチャイチャされるのはよろしいですが、明日にはヴィルヘルムへ帰るのですから程々になさってくださいね。いいですか、程々に、ですよ」
「は、はぁい……」
そうなのです。明日、飛龍に乗ってヴィルヘルムへ帰ることになったのです。ドタバタしてるけど、僕の熱も下がったし安心する場所の方がいいだろうってことでヴィルヘルムのお城で療養です。トラウマのこともあるから知らない人の多いここで暫くいるのはちょっと辛いのです。ヴィルヘルムなら治癒師さんも知り合いだから多分大丈夫なはず。
体調的には結構回復したしダグと思う存分イチャイチャしたいところだけど……その、夜とか、ね……? でもリディアに太い釘を刺されてしまったので我慢します。ヴィルヘルムに帰ったらダグも暫くお休み取るみたいだし……それからにします。1日中一緒に居られるんだからね。
なーんて考えていたらダグの口がそっと耳元へ寄せられまして。
「帰ったら沢山しような」
「~~っっ、な、なに、を……?」
そんなことわかりきっているのに聞いてみれば。
「聞きたいか?」
まさにニヤリ、といった様子で笑ったダグに思わず赤面しました。うぅ……ダグも、その……したいん、だ……ぼ、僕だってその……だ、だって体調崩してたから最後までは暫くしてないんだもん! 僕だって男だからせ、性欲くらいあるもん……
「真っ赤になって可愛いな、ユキ。帰るのが楽しみだ」
「うー……ダグのえっち」
「嫌か?」
「……やじゃない」
そんなことわかってるくせに。くつくつと笑うダグをべしべしと叩けばそれすらも楽しいといった様子でさらに笑ったダグにぎゅうっと抱きしめられました。
「ユキが可愛すぎてどうにかなりそうだ」
「……ばか」
そんなこと思うのはダグだけだよ、なんて思いつつそうやってダグに思われることが嬉しかったり……照れ隠しに頭をグリグリとダグに擦り付ければ嬉しそうな様子でさらにきつく抱きしめられたのでした。
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