あの人と。

Haru.

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After Story

ある意味問題生徒

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 ほのぼのとお茶を飲んでから早めに魔法実践の集合場所である訓練場へ来た。まだ休憩時間は少しあるからか人は少ないものの、ちらほらと魔法の練習をしている人もいる。

「なぁ、ユーキ、簡単なのでいいからちょっと見せてくれよ」

「うーん……」

 簡単なのかぁ……多分簡単なのって教師がいないところだと危ないことをしちゃダメだから威力の弱いものって意味だと思うのです。なら威力は少なくてかつサダン君を驚かせられるようなもの……そうだ! 全属性それぞれで作った球を一気に出すなんてどうかな? ちょっと大道芸くさいけど、複数属性操るって難しいって言われてるみたいだし良さそうな感じです。

 というわけで、火、水、風、土、光、闇、の基本6大属性とそこから派生する雷、氷の応用2属性の合計8属性の球を出現させて周りに浮かせてみた。簡単なようで結構難しいんだよ、これ。

「は!? 全属性!?」

「えへへー、こんなこともできるよー」

 グルグルと回らせてみたり集めては広げてみたり……そんな風に遊んでたら何かのショーみたいになっていたのかだんだんと授業のために集まってきた人たちの視線が僕に……なんだか恥ずかしいです。でも集中力は切らせると危ないから……グルグル動かして全属性を一気に強めてから相殺する属性同士をぶつけて一気に消す!

「「「おおおおお!!」」」

 パチパチと拍手が起こったからなんだか照れくさくなりながらもぺこりと一礼。僕も楽しくなって遊んじゃったからね。

「すげぇ!! 全属性一気に操るとか出来ねぇわ! しかも最後のあれ! あれってぶつける魔法同士が同じ威力じゃないと綺麗に消えないだろ!」

「えっと、うん、そうだね」

 実はそうなのです。例えば火と水の場合、火が強すぎると火は少ない水じゃ消えない。まぁそれくらいで済むならいいんだけど……光と闇に限ってはそんな単純じゃなかったりするのです。威力が同じじゃない光魔法と闇魔法は馬鹿みたいに反発しようとして下手したら爆発を起こしたりするのです。だからあれをやるなら完全に同じ威力でやらないとダメなわけですよ。

「そこまで完璧に制御できるのか……すげぇな!!」

「ありがと!」

 褒められると素直に嬉しいのです。魔法は僕なりにも頑張ってきたものだからね。照れちゃうけどやっぱり嬉しさが前に来ます。

 そんなこんなしているうちにチャイムが鳴って午後の授業が開始。先生はマザーク先生。指示を出した後に呼ばれたから近づけば、実際にどれくらいの魔法が使えるか見せて欲しいとのこと。

「えっと……ちょっとここじゃ狭いです」

 周りの生徒とは少し距離はあるものの、マザーク先生は今使える最大の魔法をご所望なのでスペースが足りません。怪我させるのは本意じゃないのです。

「……ちなみに何をやろうとしている?」

豪炎の氷華フロム・グラシアです」

「んなもんやろうとするな!!! けが人が出るどころじゃねぇ!!」

「だって最大って……」

 今できる最大って言われたからその通りにしようとしたのになんで怒られたの僕……

「まさか神級魔法の複合魔法を使えるとは誰も想像しないだろう……」

 先生が言った通り豪炎の氷華フロム・グラシアは神級魔法と言われる、“神”と魔法名に入る魔法の複合魔法で、もちろん神級魔法よりも難易度は上がる。複数属性を合わせること自体が難しいからね。

 豪炎の氷華フロム・グラシアは火と氷の2属性を使うんだけど、氷自体が水と風の2属性の複合魔法だから……まぁ言ってしまえば3属性を操らないとダメな魔法でして。僕も習得までにかなり時間がかかった魔法だったりします。

 ちなみにどんな魔法かというと、燃えさかる炎のように、氷が火花を散らすかのようにバチバチと弾けながら一気に広がるんだけど……これが実はありえないくらいの高熱でして。見た目は氷なのに触れたら火傷で済んだら運がいいねって感じの代物。僕も好んで使いたくはない魔法です。

「可愛い顔してなんつーえげつないもんを……まぁいい、とりあえず水神の檻プリズン・アープを今できる大きさで作ってくれ」

「はい」

 言われた通りに水神の檻プリズン・アープを今できる最大の大きさで作る。アルバスさんと初めて演習した時よりも随分と大きなものが作れるようになってたりします。万が一にも周りの子を巻き込まないようにと頭上高くで作り上げたら先生は呆然とそれを見上げて。

「……お前は一体どこの組織を壊滅させようとしてるんだ?」

「僕そんな物騒なこと考えてないです」

「……もうお前はこれからの課題全部クリアできるだろうから自由にしてていい」

「僕実は魔法を使いながら動けないのですが……」

「じゃあそれを練習してたらいい。間違ってもアホみたいな神級魔法は使うんじゃねぇぞ」

「はぁい」

 流石に僕も怖くてそんなことはできないかなぁ。だって例の火弾フィアブレットみたいになったら……怖いよねぇ。ましてやこんなに人がいるところでなんてね。

「……魔法師が動きながら魔法を使う必要なんざないんだがな」

「単騎でも強く! がモットーです!」

「……一体何と戦うつもりなのかと聞きたいがまぁいい。自由にしてろ」

「はぁい」

 呆れたように他の生徒の様子を見に行った先生を見送ってから僕もサダン君の元へ。

 実は先生が言った通り魔法師が動く必要って本来はあんまりないんだよね。防御結界張れるし、それに魔法師が戦う時って前衛に剣士とかがいるのが普通だからね。前衛が敵を近づけさせないようにして後方から一気に、っていうのが普通の流れなのです。だから魔法師は立ち止まってていいんだけど……動けたらきっともっといいと思うのです。運動神経皆無な僕はまだまだだけど頑張りますよ!!

「サダンくーん」

「お、ユーキ。なぁ、氷山の針グラスニードル教えてくれ」

「ん、いいよ」

「まず見本見せてくれ」

「はーい。──氷山の針グラスニードル

 アルバスさんと戦った時には先に水をまいてからやったこの魔法、乾いた土の上にいきなり出現させることも可能なのですよ。まぁ水があったほうが魔力消費量も少ないし楽なんだけどね。

「うお、流石だな。俺がやるとこうなるんだよ」

 そう言って見せてくれたサダン君の氷山の針グラスニードルは氷が針状に伸びるまでちょっと時間がかかっていた。これでは実戦では使えなさそうだ。

「んー、とりあえず水があるところからやってみるといいんじゃないかな」

「水があるところから?」

「多分、空気中の水を寄せ集めてさらに凍らせるっていうのがまだ一気にできないんだと思う。だから、水を一気に凍らせるっていうのところから始めたほうがいいかも」

「なるほどな……」

 とりあえず水を出してあげようと、僕が出した氷山の針グラスニードルを火属性魔法で一気に溶かす。もちろん目の前は水浸しになりました。

「ほらもう一度!」

「お、おう」

 サダン君を促すと狼狽えながらももう一度魔法を構築した。すると今度はしっかりと一瞬で剣山を形成出来ました。

「おお、たしかにやりやすい」

「これになれたら水の量を減らしていって、でも剣山の大きさは変えないようにって挑戦していくといいと思うよ」

「なるほどな! ありがとな、ユーキ」

「うん!」

 お役に立てて何よりです!

 どうやら2限ぶっつけだったこの授業を、その後もサダン君に請われるままに教えつつ過ごした僕は放課後遮音結界の張られた学園長室にて────


「学園長、神子様は異常ですよ。豪炎の氷華フロム・グラシアを使えるなど……教えることが何もありません」

「国王陛下の話は本当だったのかい……? 流石にそこまで使えるはずはないと思っていのだがね……私はなんだか一波乱起きそうな気がしてきたよ」

「……縁起でもないことを言わんでください」

「私は胃が痛いよ……」

「いい薬ありますよ」

「ありがとう……」


────なーんて学園長さんとマザーク先生が話しながら2人して胃薬を飲んでいたなんて知る由もなく、ただただのほほんともらった教科書をめくっていたのでした。
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