あの人と。

Haru.

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After Story

信じてほしい

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「俺、は……」

「……」

「まだ人間のことなんて信じられないと思います。でも、この空間だけでも4人も獣人だからと差別しない人間がいることを知っておいて下さい」

 僕もダグもリディアもアルバスさんも、種族なんて気にしない。僕なんて、獣人ってむしろ可愛いと思ってるよ。だって筋肉ムキムキの騎士さんがフサフサの耳と尻尾を生やしてるんだよ……! 可愛すぎる!! つい触りたくなるけどそんな失礼なことはしません。……ラギアスの頭を撫でる時にどさくさに紛れてちょっと耳触ったけど。ごめんなさい。でももふもふで気持ちよかったです。

「さて、あなたはワムロさんでしたっけ?」

「は、はい」

「あなたはなぜ、獣人が嫌いなんですか?」

「っ……」

「おい、答えろ」

「ひっ……じ、獣人は野蛮で……獣臭くて……そ、それに奴隷から上がってきただけの本当は人間に仕える存在でっ……」

 ものすごく不快です。今すぐ何か魔法を使って黙らせたくなったけど、魔法は使わない約束なので我慢我慢……ひくひくと痙攣するこめかみはとりあえず無視です。

「ふぅん……リディア、人間ってどうやって生まれたか知ってる?」

「え? ……そういえば、人間そのものがどう生まれたかは知りませんね……神が世界に命を与えたとは神話に書いておりますが、人間を創ったとは記されていません」

「そっか。獣人は確か、動物が進化したんだよね?」

「ええ、それで間違いありません」

「だよねぇ。……ねぇ、僕のいた世界では人間はどうやって生まれたと言われていると思います?」

「わ、分かりません……」

「猿から進化したと言われているんです。その考えで行くと僕たちみーんな猿獣人ですね?」

 狼から進化したら狼の獣人、虎なら虎の獣人、豹なら豹の獣人。ならば猿から進化してきた僕達は猿の獣人。そうなるんじゃないの?

 途端に部屋の中はシンと静まり返った。そんな沈黙を破ったのはアルバスさんの豪快な笑い声でした。

「……ぶっふ……あっはっはっは!! そうか、俺たちはみんな猿獣人か!! そりゃいい! いいぞおもしれぇ!!」

「……ふ、ふふっ……」

「……っ……くく……」

 続いてリディアとダグの堪えきれなかった笑い声が微かに響くと、次いで笑ったのはビルマさんとグルドさんだった。

「あっはっはっは!!」

「ふっ……くはっ!! っひ、人間が、猿獣人……っ!」

 一頻り笑った2人はどこかスッキリした様子だった。表情が随分と柔らかくなった。

「っはぁ……あー、久しぶりに笑った」

「俺もだ。それも嫌いだったはずの人間に笑わされるなんてな……」

「でも、嫌な気分じゃねぇ」

「奇遇だな、俺もそう思っていた」

「……なぁ、神子様、俺たちはあんたを信じていいのか? あんたは本当に、獣人を嫌わずにいてくれるのか?」

「僕を信じるかは、あなたが決めることです。でも、信じていただけるならば僕はそれを裏切ることはありません。神子、ユキヒトの名のもとに誓いましょう」

 別に誓ったからといって何か拘束力があるわけではない。これは僕への戒めだ。この2人の獣人を忘れないための。種族による差別を、この世界からなくすための。

「……そうか。なら俺たちはあんたを信じる。信じたことなんてなかった人間を、信じさせてくれ」

「はい!」

 輝きを取り戻した2対の瞳から再び光が失われることがないように、僕は頑張らなくては。まだまだ無力だけれど、きっとどこかに出来ることはあるはず。獣人と人間が笑い合う世の中になるまで、僕は諦めないよ。


「さて! ここからはお説教タイムです!」

「……は?」

「当たり前ですよね? ラギアスを傷つけたのはただの逆恨みでしょう? ラギアスは何も悪いことしていないですし。だからお説教です」

 ニッコリと笑って目の前の3人にそう言えば、そろってヒクリと顔を引きつらせた。失礼だよ、人の笑顔を見て顔を引きつらせるなんて! 僕は笑ってるじゃないか!

 さぁ楽しい楽しいお説教タイムの始まりです!


 僕を怒らせては駄目、絶対。が部屋の中にいた全員の共通認識になったことは僕は知りません。



 お説教も終わり、今回の件は終了いたしました。3人は他の騎士さんに任せてまたアルバスさんの部屋に戻ってきた。放心したように騎士さんに連れていかれた3人は免職になるらしい。でも、獣人の2人も働き口はあるんだって。たしかに差別は多いけど受け入れてくれるところも中にはあるし、なんなら冒険者って手もあるんだって。魔獣の討伐と素材の収拾がお仕事で危険も多いけれど、騎士として鍛えてきた2人ならやっていけるはずだって聞いて安心した。人間は知りません。ご実家に帰るなり他にお仕事探すなりしてください。結局最後まで獣人が嫌いって態度が見え見えだったあの人は僕は好きじゃありません。

「ふいー……一件落着っと。ユキ、いつでもいいからちゃんと菓子持って来いよー」

「了解です! ご協力ありがとうございました!」

「おう。またなんかあったら聞くからな。ラギアスも次になんかあったら黙ってるんじゃなくてちゃんと言えよ。……ユキが暴走する前にな」

 ちょっと、ボソって呟いた最後の一言聞こえましたよ。僕はちゃんと約束を守って魔法は使わなかったじゃんか。

「はい、そうします。今回はありがとうございました」

「おう。お前も可愛い俺の部下だからな。お前が騎士の誇りを忘れない限り守ってやる」

「ありがとうございます」

 おお、アルバスさんが団長っぽい……上に立つ存在なんだなぁって思いました。いや、今までも思わなかったわけじゃないけど、なんか頼れる団長! って感じで改めていい人だなぁって思ったんだよ。

「それにしても、人間が猿獣人って考え方はおもしれぇな」

「そうですか?」

「おうよ。だって考えてみろよ。獣人が嫌いだっつってる奴も結局獣人ってことだろ? 勝手に自分で自分を罵ってるんじゃねぇか。俺はこの先そんな奴を見たら笑っちまうぞ」

 まぁたしかにそう考えたらちょっと面白いかも? 全部自分に返っていってるんだもんね。罵れば罵るほど自分を罵ってることになる。こっちにはそう見えちゃうんだから笑っちゃうかもね。

「んー、次に舞踏会で獣人を悪く言われたら一芝居打とうかな?」

「どうやってだ?」

「ダグ……僕の故郷じゃ人間って猿から進化したって言われてるの……ちゃんとね、根拠を元に言われてることなんだ……獣人って動物から進化したんでしょう? なら、猿から進化した僕も、同じ獣人だよね……僕、酷いこといっぱい言われちゃった……」

「……それを言われた俺は相手を不敬だと斬りつけたらいいのか?」

「……駄目だね。ボツにしよう」

 いきなり神子に何を言う! とか言ってズシャッとやられたら僕怖いよ。目の前が血で真っ赤になるんだよ。無理無理。やめておきます。効果的そうだったけどさすがに舞踏会を血で染めることはしたくないです。他の方法を探します。

「……ユキの演技力はどっからきてんだ?」

「一回スイッチが入ると違和感がありませんもんね。もちろん我々は違いがわかりますが、他から見たら気付かれないだろうという完成度ですよね」

 まぁリディア達を騙せるとは思わないよね。だって僕が気付いてないほんの小さな不調も真っ先に気付くくらいだもん。

「あくまでも自然に! を意識してるだけだよ。悲しい時って僕はどう動いてたかな、怒ってた時はどうだったかなって考えながらその通りに動くの。自分の動きから変わっちゃったら怪しいからね」

 声も変えないように気をつけてるんだよ。

「……恐ろしい奴だな」

「あ、酷い。僕頑張ってるのに」

 信じてもらえる演技するのって結構神経使うんだからね。

「ダグラスのことが嫌いって演技はできるのか?」

 いきなり思いついたように言ったアルバスさんをギロリと睨みつけるダグ。演技とはいえ嫌い、なんて言われたくないからだと思うけども。

「無理! 絶対無理です!! 無理無理無理!!」

 ダグを嫌いなふりなんて出来ない!! だってこんなに好きなんだよ?! 演技だってわかっててもダグを傷つけるかもしれないし、僕も嘘でもそんなこと言いたくない! てか言えない!

「アルバスさんはリディアを嫌いだって冗談でも言えます?!」

「……無理だな!」

 でしょ?! そういうことですよ!

 ふんっと腕を組む僕を後ろからぎゅっと抱きしめる大好きな腕。僕も振り向いてぎゅっと抱きしめ返します。

「ユキ、愛している」

「ふふー、僕もダグが大好き。愛してるよ」

 満足そうなダグにちゅっとキスをされてニマニマと笑ってしまう。うん、演技なんて無理無理。出来たとしてもしないけど! だって僕がダグにされたらもう泣いて泣いて泣き腫らすもん。僕がされたら泣くことを最愛のダグになんてしません!

 さて、ラギアスのことも解決したし、明日はラスの相談に乗る日だ! 年上なんだって思わせるのが目標です!
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