あの人と。

Haru.

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After Story

大好きな○○

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 訓練所から部屋へ戻ると、やはり疲れていたようで眠くなってきた。目の前のカウチに飛び込みたい。

「少し眠られますか?」

「うー……先に手洗ってくる……」

 訓練所に行ったからか埃っぽくなってるんだよね。気持ち悪いから洗いたいや。

「上着も脱ぎましょうね」

「ん、ありがと」

「毛布とお飲み物を出しておきますので手を洗ってきてくださいね」

「はぁい」

 リディアに上着を脱がせてもらってからとてとてとひとり脱衣室にある洗面台へ向かい、じゃぶじゃぶと手を洗う。浄化でもよかったんだけど魔法を使うのが面倒なくらい疲れてるんだよ……アルバスさんが相手だったってことで気を張ったのもあるのかなぁ。

 きっちり手を洗い、タオルで拭いているとチラリと洗濯物の籠が見えた。

「……!」

 思わず見えたものを手に取り変態臭くすんすんと匂いを嗅いでしまった。

「やっぱり、ダグのシャツ。夜に着てたやつだ」

 大きなシャツから香ってきたのは覚えのありすぎる大好きな匂いだった。

 ダグは部屋が出来てからそっちで着替えるけれど、洗濯物はこっちに持ってくるようにしてる。掃除は魔法でリディアかダグがパパッとやっちゃうんだけど、洗濯物はリディアが回収してお城の洗濯物を管理してるところへまわすから、一箇所にまとめるようにしてるの。

 珍しいな、ここにあるの。いつもなら朝のうちに回収されてるんだけど。しかもいくらか皺が寄っているとはいえちゃんと畳まれてる……ダグも僕も洗濯物をわざわざ畳んで出したりしないのに。

 ……リディア、わざと残したな。多分、今日の流れをまるっきり予測していたんだろう。これをお昼寝のお供にしようとしてるのもお見通しってわけだ。むぅ、予測されすぎて逆に怖いよリディア。

 まぁいいや、これがあるのとないのとで僕の精神的な回復度合いが全く違うからありがたく使おう。ダグには許可を取ってないけどきっとダグなら許してくれる。僕にデロデロに甘いし。


 ぎゅうっと大きなシャツを抱きしめて部屋に戻ったらリディアにふふって笑われた。やっぱり全部予想してたよこの人。もう何を予測されても驚くまい。これがリディアだ。

「甘いホットココアをお入れしておりますよ」

「ん、ありがとう」

 美味しいやつだぁ。クリーミーなココアに僕の気分に合わせて何かを浮かべてくれるんだよ。

 今日は……甘いクリームだ! その時によって甘さ控えめのクリームだったりマシュマロだったりするんだ。スペシャルに甘かったのは甘いクリームにチョコソースがかかってたやつかなぁ。すっごく美味しかったけどそれはたまにしか出ないよ。カロリーがものすごいもん……

 今日のはチョコソースかかってないけど十分美味しい。じんわりとお腹もあったかくなって気分もふわふわしてくる。

「あー……美味しい……」

「ふふ、よろしゅうございました」

 思わずため息出ちゃうくらい美味しい。ずっと飲んでいたいけれど眠いのも確かなのでゴクゴクと飲み干して……おやすみなさい。リディアがかけてくれた毛布の中でもぞもぞとクマと一緒に大きなシャツに包まれば、とろとろといい感じの眠りがやってきた。




「……キ、ユキ。夜だぞ、食事にしよう」

「んぅ……」

 あれ……? なんだかものすごく大好きな声が聞こえる……

 声がした方を見てみると、キラキラ光る銀色が見えた。ピントが合わないままぼうっと見つめていると温かい体温が頬に触れて、思わずきゅっと握って擦り付いた。

 なんだろ、これ……大好きなものな気がするなぁ……温かくて、ゴツゴツしているのに優しくて……

「ふふ……だいすきぃ……」

「っ……ユキ、寝ぼけているな。可愛いが襲うぞ?」

「うー……?」

 おそう……? 僕おそわれる……? 誰に?

 キラキラの銀色で温かくて優しいのは……ダグ。ダグは僕の大好きな人。大好きな旦那様。そのダグにおそわれるなら……

「いーよ? だぐなら、いーよ」

「……ユキ、頼むから起きてくれ。俺はユキに嫌われたくない」

「きらわないもん……」

「だがユキはちゃんと起きてる時じゃないと嫌なんだろう? ユキの嫌なことはしたくない。起きてくれ」

 うー? 変なこと言うなぁ……ぼくは最初から起きて……

 ……ん? あれ、僕そういえば寝てたな。訓練所に行って手合わせして疲れて寝たんだった。それで今ダグの声が聞こえるのは……

 なんて言って起こされたっけ。たしか……ご飯? もうそんな時間? ダグの口調からするにダグのお仕事は終わったのか……そんでもってご飯時ならリディアが用意して……

「はっ……?!」

 思わず飛び起きて部屋を確認するとリディアがげんなりした様子でご飯の用意をしてくれていた。

「ようやく起きたか。おはよう、ユキ。今日はいつもに増して寝ぼけていたな?」

「あ、う……わ、忘れて!!」

 ダグなら襲われてもいいなんて……! 事実だけどリディアがいる場所で言うなんて!! 本人に聞かれたのも恥ずかしい!! 恥ずかしすぎて死ねる!!

「夜は覚悟しておけよ」

「ひぅ……」

 リディアに聞こえないように耳元で囁かれ、思わずビクリと身体が跳ねた。顔も真っ赤だろうし絶対何言われたかバレてるよ……! そして野生的なダグの目からするに今夜は確実に食べられる!!

「はは、真っ赤だな。さぁ、食事にしよう。冷めてしまうぞ。体力もつけなくてはな」

「うぅ……」

 絶対味わかんないよぅ……




「お、お仕事は終わったの……?」

 案の定味のわからないご飯を無理やり流し込みながら聞いてみる。沈黙の方が辛いもん……!

「ああ、今日は訓練だけだったからな。差し入れありがとうな。お陰でいつもより気合が入った」

「そ、そっか、よかった……えと、その……ダグ、かっこよかった」

「ふ、それは良かった。怖くはなかったか?」

「怖くなかったよ? 鋭い視線も、声も、全部かっこよかった……」

 騎士さんの賭けの話を聞いて怖がってたらダグが甘々に慰めてくれてたのかなぁってちょっと思ったけども。それもそれでよかったなぁって……でも、僕が怖がってたらダグは少なからず傷ついてたかな? それはだめだめ! まぁ、実際怖くなくてただただかっこよかったからいっかぁ。僕がダグを怖がるとしたら、本気の殺気を向けられたときくらいじゃないかな? それってどんな状況って感じだからありえないと思うのです。

「そうか。ユキも格好よかったぞ。団長もそうだが、隊員もあの後ユキを褒めていた」

「ほ、ほんと?! 僕、かっこよかった?」

 かっこいいなんて言われたの初めてな気がする!

「ああ、格好よかった。誇らしかったよ」

「そっかぁ……えへへ、僕もっと頑張って強くなるね」

 ちょっとは胸を張ってダグの横に立てるようになれたかな。いつかダグが背中を預けられるくらいになりたいな、なんて。

「無理はするなよ」

「うん!」

 もっとうまく魔法を使えるようにしよう。ただただ放っても通用するわけがないから、ちゃんといつどんな状況でどの魔法を使うべきかを瞬時に判断できるようにならないと。僕はどうしても頭の中で流れを作ってしまって、その流れになんとしてでも持って行きたくなっちゃうんだよね。臨機応変に戦い方を変えれるようにならなくちゃ。

 ……できたら動きながら魔法を使えるようになれたらいいんだけど、ね。なにかいい方法ないかなぁ。



「ユキ様、考え事は後になさいませ。お食事中ですよ」

「はっ! ごめんなさい!」

 危ない危ない、考え込みすぎて手が止まってた。た、体力つけないとだからちゃんと食べないと、ね……?
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