あの人と。

Haru.

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本編

94 波乱か

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 今日はリディアがお休みの日。こんな日は神官の中から誰かが派遣され、お世話をしてくれる。いつもは大体同じ人なんだけど今日は見たことない人だった。

 ……どこか違和感のある人だけれど、にこやかにお世話してくれるから気のせいかな?

「神子様、本日の昼食です」

「ありがとう。すごく美味しそうだね」

 今日は風が気持ちいいから庭の四阿でランチ。神官さんが用意してくれた色とりどりの昼食に心が躍る。
 綺麗な所作になるように気を付けつつ、目の前の料理に手を伸ばす。

 サラダもスープも美味しくて、次にメインのパスタを口に運ぶと違和感が。

 ……あれ、なんか変な味……?

「どうなさいました、ユキ様」

 口が止まった僕を訝しんだのか護衛してくれてたダグが声をかけて来たけれど、口にまだパスタが入っているから答えられない。

「? ……! ユキ様、口のものをすぐに吐き出してください!! ラギアス、神官を捕らえろ!!!」

 えっ、なになに?! え、神官さんなんでそんな遠くに? あ、ラギアスに捕まった。なにごと。

「ユキ様、はやく出してください!!!!」

 わわっ、ダグがすごい剣幕で吐き出すように言ってくる。

 一度口に入れたものを吐き出すなんてしたくないけど、きっと何か意味があるんだよね。大人しくテーブルの上にあったナプキンの中に吐き出した。

「全て出されましたか? 飲み込んではいませんね?!」

「う、うん。全部出したよ」

「こちらで口をすすいでください!」

 ダグが魔法収納から水袋を出して差し出してきた。未だに現状がわかっていないけど大人しく口をすすぐ。

「え、と……いきなり、どうしたの?」

「お話は後で。お部屋に戻りましょう」

「わっ?!」

 ダグに抱えられてそのまま部屋へ連れて行かれる。ラギアスは応援を呼んだのか何人もの騎士さん達とあの神官さんを囲んでるし……あ、神官さんが引きずってどこかに連れて行かれた。






 部屋についてカウチに降ろされるとダグが心配げに僕の顔を覗いてきた。

「ユキ、どこかおかしいところはないか?」

 あれ、敬語じゃない。完全に2人きりだから?

「ないよ? 何があったの?」

「……おそらくユキの食事に何か混ぜられていた。今ラギアスが調べさせているだろう」

「何かって……毒、とか……?」

「そうだ」

 だから変な味が……? え、と……神子には状態異常無効だから何も異変はないけど、それがなかったら……

 途端に身体が震え出した。

 日本に生きていた頃は毒なんて身近なものじゃなかった。たまにニュースで流れた時は怖いものもあるものだと、ただただ無関係なものとして見ていた。それが、まさか自分に……

 舞踏会の時は万が一毒を口にしても状態異常無効なんだから大丈夫だと思っていたけど、今はそんな風に思えない。“毒を盛る”という、明確な敵意を向けられたことが怖い。

「すまない、まさかこんなことになるとは……無事で、よかった……」

 きつく抱きしめられ、その締め付けに安堵する。

「ありがと、ダグ……はやく声かけてもらえてよかった」

「ああ……すまない、腹も空いているだろう。今は外の者に持ってこさせたものは不安だから俺の魔法収納に入れてある軽食でよければ食べるか?」

「……ううん、いらない。流石に食欲なくなっちゃった」

「そうか……腹が減ったら言うんだぞ」

「ん、ありがと」

 今は少し何も口にしたくない。流石にダグが持っている物に何か混ざってるとは思わないけど、さっきの今で何か食べようとは思えない。




「……すまない、少し陛下方のところで待っていてもらえるか」

「え……?」

「不安だろうが陛下方のところならば安全と言えるだろう。俺は少し指揮にまわらなければ……」

「……ん、わかった。お仕事なら仕方ないよ。でも……戻ってきたらまた甘やかしてね」

 寂しいけれど仕方ない。離れたくないけど、少し我慢する。

「ああ、もちろんだ。ありがとうな、ユキ。ラギアスと合流したらユキの方へ向かわせる。そのあとは俺が迎えに行くまで決して陛下から離れるな」

「わかった」

 またぎゅっと抱きしめられ、そのまま抱き上げると部屋を出てロイ達の部屋へと連れて行かれた。


 ロイの部屋へ入るとロイと宰相のオリバーさんが大量の書類と戦っていた。

「ユキ? どうしたんだ?」

 まだあの話はいってないのか……今さっきあったことだからそれもそうか。

「ユキ様のお食事になんらかの毒物が混ぜられていた可能性がございます。私はそれに際して部下の指揮にまわらねばなりませんので、その間ユキ様をお願いしたく……」

「なに?! わかった、ユキのことは任せよ。なんとしてでも犯人、首謀者を見つけるのだ」

「かしこまりました。ではユキ様、たとえ誰かが私が呼んでるなどと伝えに来ても陛下から離れないようにしてください。私が必ずお迎えにあがります」

「わかった。気をつけてね」

「はい、お気遣い感謝します。では陛下、ユキ様のことよろしくお願いいたします」

 ダグが出て行き、やはり少し不安になる。

 ロイがソファに座らせてくれてお茶をと出してくれたけど、やはり少し口にする気にはなれずそっと様子を窺ってしまう。

「ああ……ユキ、不安だろうがここの飲み物や食べ物は大丈夫だ。ちゃんと私の目の前で毒味された物だけだ。ユキの食事も毒味されるはずだが……口に入れるまでに混入されたか……」

 毒味済み……なら大丈夫、かな……? 恐る恐るちびりと口に入れてみると、変な味もせずちゃんと美味しい紅茶だった。

 思わずほっと息を吐き出し、そのまま少しずつお茶を飲む。

 
「ユキ、何があったか説明できるか?」

 ロイに説明を求められ、今日のお世話をしてくれた神官さんのことも含め、さっきあったことを一から説明するとロイとオリバーさんはどんどん難しい顔になっていった。

「その神官は黒だな」

「十中八九そうでしょうね。しかし大変なことになりましたね……」

「ああ。まさか直接手を出そうとするとは……ユキに状態異常無効の加護がかかっていたのが不幸中の幸い、か」

「そうですね。本当にユキ様のお身体に何もなくて良かったです」

「ユキ、本当に身体には何もないか?」

「う、うん。それは大丈夫……」

「ふむ……念のため治癒師を呼ぼう」

 そう言って僕が体調を崩した時にいつも診てくれる治癒師さんを呼んでくれて一通り検査をされた。といっても魔法でできるから血液を抜かれたりはしなかったけど。

「大丈夫です。神子様のお身体に毒物の反応はございません。おそらく護衛騎士の対応が良かったのでしょう。いくら加護があっても毒物が残っては不安ですからね」

「そうか、ご苦労だった。戻ってよい」

「はい、何かございましたらまたお呼びください」

 治癒師さんは出て行き、それと入れ違いにラギアスが入ってきた。

「失礼します。ダグラス隊長よりこちらでユキ様の護衛をと命じられましたので待機の許可を頂きたく」

「構わぬ。現在の状況は?」

「は、ユキ様のお食事に混入されていたものはトピティアと判明。現在給仕した神官を尋問中。毒物の入手経路及び首謀者について調査中です」

「なっトピティアだと?!!」

「なんですって?!」

 トピティアってなんだろう? そんなに危険なものなのかな? 毒物系は習ってないからわからない。

「トピティアって……?」









「……暗殺に使われる毒物だ」
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