70 / 396
本編
68 辟易
しおりを挟む
「さてそろそろ開会を宣言するとしようか。ユキとダグラスに飲み物を」
あ、開会の宣言なんてあるんだ。そしてこのタイミングなんだね。僕こういう初めてだからどんなタイミングが正解なのかわからないや。
「ユキ様、ダグラス、こちらを」
「ありがと」
渡されたのは果実水。爽やかな口当たりで飲みやすいもので僕も夜ご飯の時とかによく飲む。
「ユキ、今のはリディアが渡したものだから構わんが、他の者から勧められた食事や飲み物は口にするなよ。何か混ぜられてる可能性もあるからな」
「僕状態異常無効だよ?」
「それとこれとは別だ。ユキの身体に毒が入ると思うだけで腑が煮え繰り返りそうだ」
「ふふ、わかった。じゃあリディアが持ってきてくれた物しか口にしないことにする」
「ああ、そうしてくれ」
僕も好き好んで毒を口にしたいわけじゃないからダグの言うことはちゃんと聞きます!
「酒もまだ飲んだことがないだろうから、また今度にしよう」
「わかった」
そっか、僕この世界じゃ成人してるんだもんね、お酒も飲めるのか……なんか違和感あるなぁ。
「うむ、私もダグラスの言葉には賛成だ。
さあ! 皆にグラスは行き渡ったかな? 今日という良き日に集えたこと、真に嬉しく思う。皆も今宵は楽しんでいって欲しい。思い思いの時間を過ごしてくれ」
ロイが会場に向けて言った言葉で舞踏会は始まったようだ。再びザワザワと会場は騒がしくなった。
「さぁユキ、私たちはもう行くとしよう。無理だけはするでないぞ」
「うん、ありがと」
ロイ達が離れていった途端に結構な人がこっちに向かってきた。確かこういうのって身分で順番決まるから他国の王族か公爵か……ってとこかな……
あ、1人見覚えのある人がいる。
と思ったら1番にその人がこっちへ来た。
「お初にお目にかかります、神子様。私はドラゴスニア王太子、ローレンツ・アレイスト・ドラゴスニアと申します。以後お見知り置きを」
「初めまして。ローレンツさんとお呼びしてもよろしいでしょうか? どうぞ僕のことはユキ、と。ローレンツさんはレイと仲が良いと聞いています。是非に僕とも仲良くしてください。敬語も敬称も必要ありませんから」
あの事件は無かったことになっているから僕とローレンツさんが既に顔を合わせているというのはおかしい。お披露目がまだだからって謁見も拒否してたらしいし。
だから僕たちは今初めて会った。
「ではユキも敬語や敬称を外してくれ。レイナードと同じように接してほしい」
「わかった。またレイも交えて食事でも」
「ああ、是非に。後が支えているようだから私は失礼するとしよう」
その後も色んな人が僕の元へきた。下心満載すぎてちょっと、いやかなり辟易した。わかってはいたけど疲れるね。ダグが横にいなかったらとっくに逃げ出してたよ。
そして15人目くらいかな? 問題が起きた。相手はこの国の侯爵。30代後半くらいの人。
「お近づきの印にこちらを。我が領土自慢のワインです」
「申し訳ありませんが、贈り物は受け取らないとご招待の際にも申しているはずです」
「まぁまぁ良いではありませんか。おおそうだ、そちらの獣にでも差し上げたらどうです? なかなかこのようなものも口には出来ませんでしょうしなぁ」
……あからさまにラギアスのこと貶してるよね。
「獣? なんのことでしょう。僕の目には知性をもった人しか目に入りませんよ」
ラギアスだって人だもん。獣じゃないよ。
「おやおや、神子様もお人が悪い。獣人の差別を反対しておきながらご自身は獣人なんかは目に入らない、と。くっははは! まぁ、気持ちは分かりますよ。私も卑しい獣など目にしたくはありませぬからなぁ!」
「騎士を。この方をすぐに城から追い出して」
そう言えばリディアが近くの騎士に目配せをして呼んだ。何人かの騎士が向かってくるのを見て目の前の侯爵は焦ったように尚も続ける。
「何故です? 私は何も間違っておらぬでしょう? 先に獣を貶めたのは神子様ではございませんか」
「僕がいつ彼を獣だと言いましたか。彼は僕の大切な騎士です。貴方よりよほど心も美しく、誇り高い人です。僕には非のない彼を貶める貴方こそ人には見えません。さぁ、お引き取りを」
「なっ、離せ! 私は侯爵だぞ?!」
追い出そうと腕を掴んだ騎士にそう叫ぶ侯爵。だけど身分でいったら、ねぇ?
「そうですか、僕は神子です。神子が騎士に命じます。この方を城から追い出してください」
「「神子様の御心のままに」」
ちょっと悪ノリしながら命令したのがバレたのかおどけたように返してきた騎士さん達。よく見たら僕の護衛にも結構きてる騎士さんだね。僕の性格をよくわかっているようだ。
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら騎士に引っ張られていく侯爵をダグと見送る。
「うーん、あんな人もいるんだねぇ」
「残念なことに、な……実際この会場にも口には出さないがさっきの侯爵のように獣人を嫌う人間は多くいるだろう。何かいい方法はないものか……」
獣人の差別をなくす方法、だね。うーん、意識改革ってかなり難しいからなぁ……そうそう簡単には人の心はかわらないんだよね。
「んー、差別思考を持った人たちを悔しがらせる方法、なら1つあるんだけど……」
「なんだ?」
「僕がラギアスとダンスを踊る。でも他の人は断る」
「なるほど、たしかに自分が下に見ている獣人がユキと踊れているのに自分は断られたとなれば悔しいだろうな」
「でも逆上させちゃう可能性だってあるよね。ほら、まだ奴隷制度が残ってる国からもきてるでしょ。国に帰ってから自国の獣人に手を出さないかが心配」
この国だって裏ではまだ奴隷にされてる獣人もいそうだし……
「ふむ、その問題があるか……下手に動かん方が良さそうだな。ま、さっきの侯爵のおかげでどうやらユキが本当に差別を嫌っていることが会場に知れたようだし今はそれだけにしておこう」
会場を見回して見たらかすかにだけどやばいって顔をした人が多数。ふむ、ちょっといい傾向、かな?
「……そうだね。ラギアスごめんね、出来ることが何もなくて……」
「いえ、お気持ちだけで十分です」
そう言ったラギアスは少し嬉しそうに見えて。早く獣人が肩身の狭い思いをしなくていい世界にしたいと思った。ラギアス達が堂々と笑える、そんな世の中になってほしい。
もう一度会場に目をやると途切れていたのにまた挨拶にとこっちに向かって来る人達が見えて辟易した。
あ、開会の宣言なんてあるんだ。そしてこのタイミングなんだね。僕こういう初めてだからどんなタイミングが正解なのかわからないや。
「ユキ様、ダグラス、こちらを」
「ありがと」
渡されたのは果実水。爽やかな口当たりで飲みやすいもので僕も夜ご飯の時とかによく飲む。
「ユキ、今のはリディアが渡したものだから構わんが、他の者から勧められた食事や飲み物は口にするなよ。何か混ぜられてる可能性もあるからな」
「僕状態異常無効だよ?」
「それとこれとは別だ。ユキの身体に毒が入ると思うだけで腑が煮え繰り返りそうだ」
「ふふ、わかった。じゃあリディアが持ってきてくれた物しか口にしないことにする」
「ああ、そうしてくれ」
僕も好き好んで毒を口にしたいわけじゃないからダグの言うことはちゃんと聞きます!
「酒もまだ飲んだことがないだろうから、また今度にしよう」
「わかった」
そっか、僕この世界じゃ成人してるんだもんね、お酒も飲めるのか……なんか違和感あるなぁ。
「うむ、私もダグラスの言葉には賛成だ。
さあ! 皆にグラスは行き渡ったかな? 今日という良き日に集えたこと、真に嬉しく思う。皆も今宵は楽しんでいって欲しい。思い思いの時間を過ごしてくれ」
ロイが会場に向けて言った言葉で舞踏会は始まったようだ。再びザワザワと会場は騒がしくなった。
「さぁユキ、私たちはもう行くとしよう。無理だけはするでないぞ」
「うん、ありがと」
ロイ達が離れていった途端に結構な人がこっちに向かってきた。確かこういうのって身分で順番決まるから他国の王族か公爵か……ってとこかな……
あ、1人見覚えのある人がいる。
と思ったら1番にその人がこっちへ来た。
「お初にお目にかかります、神子様。私はドラゴスニア王太子、ローレンツ・アレイスト・ドラゴスニアと申します。以後お見知り置きを」
「初めまして。ローレンツさんとお呼びしてもよろしいでしょうか? どうぞ僕のことはユキ、と。ローレンツさんはレイと仲が良いと聞いています。是非に僕とも仲良くしてください。敬語も敬称も必要ありませんから」
あの事件は無かったことになっているから僕とローレンツさんが既に顔を合わせているというのはおかしい。お披露目がまだだからって謁見も拒否してたらしいし。
だから僕たちは今初めて会った。
「ではユキも敬語や敬称を外してくれ。レイナードと同じように接してほしい」
「わかった。またレイも交えて食事でも」
「ああ、是非に。後が支えているようだから私は失礼するとしよう」
その後も色んな人が僕の元へきた。下心満載すぎてちょっと、いやかなり辟易した。わかってはいたけど疲れるね。ダグが横にいなかったらとっくに逃げ出してたよ。
そして15人目くらいかな? 問題が起きた。相手はこの国の侯爵。30代後半くらいの人。
「お近づきの印にこちらを。我が領土自慢のワインです」
「申し訳ありませんが、贈り物は受け取らないとご招待の際にも申しているはずです」
「まぁまぁ良いではありませんか。おおそうだ、そちらの獣にでも差し上げたらどうです? なかなかこのようなものも口には出来ませんでしょうしなぁ」
……あからさまにラギアスのこと貶してるよね。
「獣? なんのことでしょう。僕の目には知性をもった人しか目に入りませんよ」
ラギアスだって人だもん。獣じゃないよ。
「おやおや、神子様もお人が悪い。獣人の差別を反対しておきながらご自身は獣人なんかは目に入らない、と。くっははは! まぁ、気持ちは分かりますよ。私も卑しい獣など目にしたくはありませぬからなぁ!」
「騎士を。この方をすぐに城から追い出して」
そう言えばリディアが近くの騎士に目配せをして呼んだ。何人かの騎士が向かってくるのを見て目の前の侯爵は焦ったように尚も続ける。
「何故です? 私は何も間違っておらぬでしょう? 先に獣を貶めたのは神子様ではございませんか」
「僕がいつ彼を獣だと言いましたか。彼は僕の大切な騎士です。貴方よりよほど心も美しく、誇り高い人です。僕には非のない彼を貶める貴方こそ人には見えません。さぁ、お引き取りを」
「なっ、離せ! 私は侯爵だぞ?!」
追い出そうと腕を掴んだ騎士にそう叫ぶ侯爵。だけど身分でいったら、ねぇ?
「そうですか、僕は神子です。神子が騎士に命じます。この方を城から追い出してください」
「「神子様の御心のままに」」
ちょっと悪ノリしながら命令したのがバレたのかおどけたように返してきた騎士さん達。よく見たら僕の護衛にも結構きてる騎士さんだね。僕の性格をよくわかっているようだ。
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら騎士に引っ張られていく侯爵をダグと見送る。
「うーん、あんな人もいるんだねぇ」
「残念なことに、な……実際この会場にも口には出さないがさっきの侯爵のように獣人を嫌う人間は多くいるだろう。何かいい方法はないものか……」
獣人の差別をなくす方法、だね。うーん、意識改革ってかなり難しいからなぁ……そうそう簡単には人の心はかわらないんだよね。
「んー、差別思考を持った人たちを悔しがらせる方法、なら1つあるんだけど……」
「なんだ?」
「僕がラギアスとダンスを踊る。でも他の人は断る」
「なるほど、たしかに自分が下に見ている獣人がユキと踊れているのに自分は断られたとなれば悔しいだろうな」
「でも逆上させちゃう可能性だってあるよね。ほら、まだ奴隷制度が残ってる国からもきてるでしょ。国に帰ってから自国の獣人に手を出さないかが心配」
この国だって裏ではまだ奴隷にされてる獣人もいそうだし……
「ふむ、その問題があるか……下手に動かん方が良さそうだな。ま、さっきの侯爵のおかげでどうやらユキが本当に差別を嫌っていることが会場に知れたようだし今はそれだけにしておこう」
会場を見回して見たらかすかにだけどやばいって顔をした人が多数。ふむ、ちょっといい傾向、かな?
「……そうだね。ラギアスごめんね、出来ることが何もなくて……」
「いえ、お気持ちだけで十分です」
そう言ったラギアスは少し嬉しそうに見えて。早く獣人が肩身の狭い思いをしなくていい世界にしたいと思った。ラギアス達が堂々と笑える、そんな世の中になってほしい。
もう一度会場に目をやると途切れていたのにまた挨拶にとこっちに向かって来る人達が見えて辟易した。
34
お気に入りに追加
2,138
あなたにおすすめの小説
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
αなのに、αの親友とできてしまった話。
おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。
嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。
魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。
だけれど、春はαだった。
オメガバースです。苦手な人は注意。
α×α
誤字脱字多いかと思われますが、すみません。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる