あの人と。

Haru.

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本編

66 お披露目

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 レッスン初日から約2週間。ついにお披露目当日。

 あ、ダンスも魔法も順調です。
 ダンスは初日で奇跡的な方法で覚えたからあとは復習を繰り返した。最初は筋肉痛で大変だったけど今は1時間踊り通しでも筋肉痛にならなくなったよ! やったね!
 魔法は護身魔法は無事クリアしました! 精度も人間の騎士相手なら十分通用するくらいだってさ! でも目標は竜人にも通用するレベルだからもっと頑張ります。


 さて、そんな僕は現在いつもよりうんと綺麗な格好のリディアに着替えさせられているのですが……!!

「待って待って! なんか衣装合わせのときよりヒラッヒラしてる!! 本当にこれなの?! これじゃないとダメ?!!」

 ものすっごいヒラッヒラ!! 衣装合わせのときは普通の白いローブだったのに!! 
 銀糸の刺繍は許すよ、うん。でもね、中のシャツは袖も襟元もレースが何枚も重ねられて、ローブも前の合わせからぐるっとフードまでレースが縫い付けられ。裾はなんだかフリルが付けられ。

 ……着る人間違ってませんか?

「よくお似合いですよ。民は遠目からユキ様を眺めるだけですから、細かいレースはおそらく見えませんよ」

「ほ、ほんと?」

 た、たしかに民衆との間には安全のためにもかなり距離があるって聞いたてるから見えないかも……? レースもローブと同じ色だし……

「ええ。さぁ、次は御髪をセットいたしましょう。お披露目の間は民に黒髪が見えるよう、全てを1つにまとめることはせずハーフアップにいたしましょう」

 ハーフアップはたしか上だけ結ぶんだったっけ。

 わ、いい感じに三つ編みも混ぜ込まれてすごい綺麗な髪型になった。

「わぁ、綺麗! お披露目の間はってことは舞踏会ではまた変えるの?」

「もちろんでございます。ご衣裳も舞踏会用のものがございますので」

 ……ヒラヒラ度アップしてそうで怖いんだけど。

「さて、ご用意も済みましたし、そろそろ向かいましょうか」

 今日のお披露目は国王就任のときとかにも使うお城の外の会場でやる。初めてお城の外に出るんだよ。
 会場までは馬車で向かうらしいんだけど、パレードみたいに行くんじゃなくて顔を見せることもなくただただ向かうだけ。馬車の窓は外から見えないようにマジックミラー仕様。まぁでも会場までの道は交通規制かけて人が入れないようにしてるらしいからそれがなくとも見られることはないらしい。

「僕馬車も外に行くのも初めてだ」

「そうですね……今回はお外でお買い物は出来ませんが、ユキ様は護身魔法も習得されましたし、お外に行ける日はそう遠いことではありませんよ」

「そうだねぇ……今日は馬車の中から建物とかチラッと見るだけにしてまたいつか行ける日を楽しみにしておこう」

「ええ、私も見える範囲でご説明いたしますよ」

「ほんと? 楽しみだなぁ」

 馬車の中での楽しみができた。ただ見るだけもいいけどなんの建物かが分かるときっともっと面白いよね。

「ではご移動を」

「はぁい」

 部屋から出て馬車まで向かう。今日の護衛は1番前にアルバスさんに僕の真後ろにダグとラギアス、そのさらに後ろに見慣れた騎士さん3人。馬車の中にはリディアだけが入ってその周りをダグ達も含めた騎士さんたちが馬で並走するんだって。因みに会場は騎士さんが総出で警備してるらしい。

 神子の影響力たるや、って感じだねぇ。僕がそんなおっかない存在になった、てことはもう大分受け入れたよ。それはリディア達が僕を僕として扱ってくれるから。僕はたまーに神子っていう職業の人になってそれらしく振舞うだけ。

 て言っても、国政だとかお役目だとか任されてるわけでもないし、何かしらの意見を求められるわけでもないからそんなに大変なことことでもないの。まぁお披露目後はそういうことを求められるのかもしれないけど、僕は絶対に国政には関わらない! だって神子の影響力強すぎてなんでも意見通りそうなんだもん。政治に関する知識皆無の僕にそんなことさせちゃダメなのです。







 ついに会場に着きました。馬車の中ではリディアに色々と教えてもらえたよ。1番気になったのは高等学術研究所。お城の文官を目指す人達が通うらしい。日本でいう大学かな? どんな勉強するんだろうね。


「おおユキ、来たか」

「おはよう、ロイ。もう来てたんだね?」

「先に打ち合わせをしていたのだ。まだ式までは時間がある。ゆっくりしていなさい」

「わかった。何かあったら呼んでね」

「ああ」


 まだ忙しそうなロイから離れて控え室みたいなところへ行く。リディアが淹れてくれた緊張を和らげるっていう紅茶をのむとほっと息が出た。

 自分が思っているよりも緊張してるんだなぁ……それもそうか、この国だけじゃなくて他国からも今日のために多くの人が来てるっていうしなぁ……舞踏会には他国の王侯貴族も招待されてるらしいし一般の高校生でしかなかった僕が緊張しないわけないよね。



「神子様、お時間でございます」

「はい」

 神官の人が呼びに来た。立ち上がってもう一度リディアに服装を整えてもらってから部屋を出る。部屋の外にはアルバスさん達がいて馬車に乗る前と同じように僕の周りを固められた。


「こちらにてしばしお待ちください」

 会場の舞台裏、分厚いカーテンが掛けられた場所で出番を待つ。カーテンのすぐ向こうには多くの民衆がいる。なんとなくここからも熱気が伝わってくるようだ。
 アルバスさんは僕の前から移動して後ろへ立ち、リディアは僕にフードを被せてから横にはけた。リディアは舞台には上がらないようだ。


「──紹介しよう。今代の神子、ユキヒト殿だ」

 ロイの声とともにカーテンがバッと上げられ、ゆっくりと前へ進む。舞台中央へ着くとたっぷり数拍を置いてからフードを取り払った。

 途端、割れんばかりの歓声が会場中から上がる。誰もが神子の降臨に手を叩いて喜んでいる。




 ──僕に、ここにいる全員を幸せにする力なんてないのにね……

 少し悲しくなりながらそれを悟られまいと微笑み、ゆっくりと口を開く。










「お疲れ様でございました、ユキ様。大変ご立派でございましたよ」

「ありがとう。少し、疲れたかな……」

 お披露目が終わりすぐに馬車に乗り込みお城へ戻る。

 神子の立場は受け入れたけど、慣れてはなかったんだなぁ……あんな歓声の中で神子として振る舞うのはなんだか窮屈で息苦しかった。

 わかってたけど、求められてるのは神子であって幸仁ではないんだよなぁ……

「では城へ戻りましたらすぐにリラックス効果のあるお茶を淹れましょう。そのあとは舞踏会まで少しお時間がございますので、ごゆっくりお休み下さい」

「うん、そうする……」

「ふふ、神子様としてのユキ様も大変凛々しくて素敵ですが、やはり私はいつものユキ様の方が好きですね」

「……ありがとう」

 リディアの言葉に、すこーしだけ重くなっていた心がすっと軽くなった。

 リディア達がいる限り、僕は僕でいられる。
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