あの人と。

Haru.

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「さて、ユキ様もお目覚めになられたことですし、夕食にいたしましょう」

「もうそんな時間なの?」

 あの竜人たちが来たのって昼過ぎだったよね。3時間は寝てた感じ?? あの騒動も2時間そこそこのものだった気がするし。

「ええ。いつもと同じお時間ですよ」

「そうなんだ。うーん、でも僕なんだか食欲ないや。それよりもダグのとこいきたい」

 いくら無事って聞いてても心配。自分の目で確かめたい。

「いけませんよ。少しでもよろしいですから食事を摂ってください。ユキ様がお食事を摂られない限り、ダグラスのもとへは行かせませんよ」

 そんなぁ……!!!

「うぅ……わかったよ、ちゃんと食べるから、食べたらダグのとこ連れてってよ?」

「はい。お食事が終わりましたらお連れいたします。
ではお召し替えをいたしましょう」

「はぁい」

 今の格好はゆったりとした寝る時用の服。多分リディアが着替えさせてくれたんだろう。部屋で夜ご飯を食べるだけで着替えなくてもよくない? とは思うけど、そこはリディアが許さない。
 まぁ僕は動かなくてもリディアが全部やってくれるから別にどっちでもいいんだけどね。

 ……あれ、こっちに来たばっかの時は着替えさせられるのも恥ずかしかったのに、もう着替えさせてもらって当たり前、になってる……全身マッサージももうなれたし……
 いつのまにか今の生活に馴染んでたんだなぁ……


「さあ、隣でお食事にいたしましょうね」

 考えているうちに着替えが終わってて、そのまま隣の部屋へ促される。
 隣へ行くともう食事が乗ったワゴンがテーブルの近くにあった。

 金属でできた……フードカバーっていうのかな? あれに状態維持の魔法が付与されてて、ある程度の時間なら作りたてのままにできるらしい。
 多分リディアが寝室に来る前にワゴンを持ってきて置いておいたんだろうな。

 リディアがフードカバーをはずして一品ずつ給仕してくれる食事をいつもより急いで食べる。あ、でも習ったマナーはちゃんと守ってるよ?! なるべく綺麗に見えるように最大限のスピードで食べる。

 リディアが微妙に呆れたような目で見て来るけど気にしない!! 気にしたら負け!!!




「ごちそうさまでした」

 よし! いつもよりはやく食べれた!!

「はい、では食後のお茶をどうぞ」

 さあ行くぞ! と思ったのにさっとお茶を出された。

 ええ?! お茶いらない!!

「消化を助ける働きと気持ちを落ち着かせる働きがございますのでお飲みくださいね?」

 これを飲むまで部屋から出さないっていう心の声が聞こえてくるような視線を向けてくる。
 でも、自分でも落ち着いていないのは自覚してるからここはおとなしく飲もう……

「うぅ……はぁい……これ飲んだら今度こそ連れていってよ?」

 あ、美味しい……うん、ちょっと落ち着いたかな。

「ええ、もちろんですよ。ふふ、やはりダグラスは特別なのですね?」

 う、確かにダグのことはそういう意味で好きだけども……

「確かにダグのこと好きだよ。そういう意味で。でもね、僕はリディアが同じようなことになっても、今ぐらい落ち着きなくなると思うよ? 僕はリディアだって大好きなんだからね?
リディアが傷付けばダグが傷付くのと同じくらい悲しいし苦しい。それが僕を庇って、とかなら尚更、ね」

「ユキ様……では私どもはもっと精進して此度の侵入者などにも無傷で対応できるようにしなければなりませんね」

「ふふ、確かに無傷でいてくれるのが嬉しいけど、今日みたいなことはもう起きて欲しくないなぁ」

「そうですね。ほぼ確実に第3王子の派閥は処罰されますでしょうし、竜人からの脅威はもうないと考えてもよろしいでしょう」

「そっかぁ……あとは人間なら騎士さんたちも対応できる、かな? そういえば今日は騎士さんたちいきなり倒れちゃってたけど大丈夫なの?」

 第3王子が何かしたんだろうってのはわかったけど僕には何をしたのかわからなかった。

「ああ、あの者たちは第3王子の威圧を受けたのですよ。竜人の威圧は殆どの者が耐えられず気絶してしまうのです。ユキ様が起きられる前に全員目が覚めたと報告が上がっておりましたし、大丈夫でしょう。
それよりもユキ様に威圧が効いていなかったのは流石といいますか何といいますか……」

「なんで僕に効かなかったの?」

 僕明らかに誰よりも弱いよね。1番弱い僕に効かなくて騎士さんに効くとはなにごと。

「ユキ様には状態異常が効かなくなっているのですよ。
……過去の神子様に毒を盛られ、危うく命を落とすところだった方がいらっしゃいまして……それ以降の神子様には神より状態異常無効の特典がつけられているのです」

「そんなことが……でも、状態異常無効はありがたいね。眠り薬嗅がされて誘拐、なんてことも起きなさそう」

「そうですね。いくら護衛や私が付くとはいえ、万が一がないとも限りませんし大変良いお力だと思います。いざという時にユキ様だけでもお逃げいただけるのは大変良いことです」

「そんな状況になったら僕1人で逃げれないよ……みんなを見捨てれない」

 万が一そんなことがおきたら僕は絶対残るよ。

「しかし、ユキ様はご無事でなければ……」

「うーん、でもね、僕だけが逃げて、もしもリディア達が人質になんてされたら結局僕は捕まるしかなくなるよ? 僕にとってリディア達はそれくらい大事で、掛け替えのない存在なんだから」

「そんな……! 私どものことなど見捨ててください!」

「ごめんね、それだけは無理だよ。
……だからね、僕も力をつける。自分を守った上でみんなも守れるくらいの力をつける。幸い神子は魔力が高いみたいだしね」

 第3王子の攻撃が目の前に迫った時、悔しかった。
 みんな僕を守ろうとしてくれているのに、僕にできることが何もないことが、悔しかった……

 もう、あんな思いはしたくない。目の前で大事な人が傷付けられる絶望はもう味わいたくない。

 強くリディアを見据えると、リディアは少し驚いた様子を見せ、数秒後にはふっと表情を和らげた。

「ユキ様には敵いませんね……私もお手伝いいたします」

「ふふ、僕だって男だからね。大事な人達を守りたいって思うんだよ」

 守られるだけなんて僕のなけなしのプライドが許さないのだ!

「しかし、ご無理をなさるのは……」

「またそれ? 大丈夫、僕よりも僕の体調に詳しいお世話係と護衛がいるからね!」

 リディアもダグも僕より先に僕の体調に気付くんだよ。まぁ僕が鈍いのもあるだろうけどさぁ……

「ふふ、そうでございました。では私もご主人様のご様子を今まで以上に注意していかねばなりませんね?」

 キラーンと光ったリディアの目に少し寒いものが走る。
 
「うっ……お手柔らかにおねがいシマス……」

 気づいたら監禁されてましたなんてシャレにならない……! リディアならあり得そうで怖い……!!


 魔法は頑張るけど倒れないようにはしよう……!
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