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番外編・Birthday(前編)
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キィ、キィ・・・・・・と、石の壁を金属で引っ掻く鋭い音が、地下室にか細く響く。
少年は薄暗い中目を凝らすと、己の手首に嵌められた手枷の金属部分を用いて壁につけ続けてきた×印を丁寧に数えた。
「27、28・・・・・・29」
少年、その名をサレナという。
人間界に落とされた天使、“神の子”であったサレナは、悪魔ハーノインとの淫欲に溺れ汚れたことで、もう二度と天使になることのできない身体になっていた。
しかしサレナは少しも後悔などしていない。
ハーノインのことを、愛しているから。
ハーノインが悪魔として消滅するその瞬間まで共に生きることができる、彼の眷属になれたことはサレナにとって幸せなことなのだ。
「30、31・・・・・・“32”」
サレナは壁の引っ掻き傷を数え終えると、小さく息をつく。
(ーー確かに、今日のはずだ。ハーノイン様の“お誕生日”)
その壁の傷たちは、ハーノインが来る時間や与えられる食事の頻度から導き出した、監禁開始から何日が経ったのかを数える為の印だ。
そして今日が、ハーノインの誕生日であることを確認したサレナは、ひっそりと微笑む。
盗み聞きだが、以前信徒に誕生日を聞かれた彼が今日の日付を答えたのを、サレナは確かに聞いたのだ。
このような監禁状態では贈り物も何も用意出来ないが、せめて今日彼がこの部屋に来た時には、祝う言葉を贈りたい。
今か今かと彼を待ち構えていたその時、ちょうど背後で扉が開く音がした。
「ーーハーノイン様っ・・・・・・‼︎」
ぱぁっと笑顔になってサレナが振り返ると、ハーノインは食事ののったトレーを手に、一瞬怪訝な顔をしてみせる。
「・・・・・・なんですか? 今日はやけに機嫌が良いみたいですね」
すぐにいつもの“司教様らしい”笑顔を取り繕うハーノインに、サレナは精一杯微笑み返すと、ベッド脇に来て座った彼の袖を小さく摘んだ。
「ハーノイン様、お誕生日おめでとうございます」
サレナがそう言うと、彼はわずかに目を見開いて黙り込み、サレナが健気につけ続けてきた壁の引っ掻き傷を一瞥する。
ずっと・・・・・・何のために監禁された日にちなんて数えているのかと、ここから逃げ出す算段でもしているのかと考えていたハーノインは、その意味が己の誕生日を祝うためだったと知ると、可笑しくなって。
肩を揺らしてふふっと笑うハーノインに、サレナは嬉しくなって頬を染めた。
ーーしかし。
「・・・・・・ありがとうございます。まさか、覚えてくれていたとは思いませんでした」
ハーノインはそう言うと、静かにため息をついて笑うのをやめた。
「ですが、残念でしたね。今日は私の誕生日では無いんです」
「・・・・・・えっ」
「悪魔に誕生日なんてありませんよ。あったとしても、もう何百年も生きていて自分の年齢すら把握していないのに・・・・・・覚えているわけありません」
人間界に潜り込むために、偽りの誕生日を適当に設定しておいただけだと語るハーノイン。
せっかく、彼の大切な日を祝えたと思ったのに。
いくら伝えても信じてもらえない自分の愛情を、彼に感じてもらえる機会だと思ったのに。
しょんぼりと肩を落とすサレナ。
用意された食事のパンに手を伸ばそうとしたその時・・・・・・ハーノインの手が、ふとサレナの小ぶりな頭を愛玩するように撫でた。
「ーーですが。また来年も、祝ってください」
低く優しい声音で静かに囁かれたその科白の、意味を図りかねる。
(・・・・・・誕生日じゃ、無いのに?)
小さく首を傾げたサレナは、しかし、ハーノインがそう言うならばその通りにしよう、と思いゆっくりと頷いた。
ーーその日、鎖に繋がれたままのサレナは、いつも通り地下の浴室で身体を清めさせられると、ハーノインによって寝台に押し倒された。
「・・・・・・っ、あぁっ、ハーノイン、さま・・・・・・‼︎」
全身の性感帯を執拗にいじめられ、小柄な身体を無理矢理開かれて。
もう毎日行われていることだ。意地悪く快楽で責め立ててくる彼に、今更抵抗することも、やめて、許してと叫ぶこともしなくなっていたサレナだったが。
・・・・・・その日、ハーノインがサレナを抱く手つきは、いつもよりほんの少し優しかった。
少年は薄暗い中目を凝らすと、己の手首に嵌められた手枷の金属部分を用いて壁につけ続けてきた×印を丁寧に数えた。
「27、28・・・・・・29」
少年、その名をサレナという。
人間界に落とされた天使、“神の子”であったサレナは、悪魔ハーノインとの淫欲に溺れ汚れたことで、もう二度と天使になることのできない身体になっていた。
しかしサレナは少しも後悔などしていない。
ハーノインのことを、愛しているから。
ハーノインが悪魔として消滅するその瞬間まで共に生きることができる、彼の眷属になれたことはサレナにとって幸せなことなのだ。
「30、31・・・・・・“32”」
サレナは壁の引っ掻き傷を数え終えると、小さく息をつく。
(ーー確かに、今日のはずだ。ハーノイン様の“お誕生日”)
その壁の傷たちは、ハーノインが来る時間や与えられる食事の頻度から導き出した、監禁開始から何日が経ったのかを数える為の印だ。
そして今日が、ハーノインの誕生日であることを確認したサレナは、ひっそりと微笑む。
盗み聞きだが、以前信徒に誕生日を聞かれた彼が今日の日付を答えたのを、サレナは確かに聞いたのだ。
このような監禁状態では贈り物も何も用意出来ないが、せめて今日彼がこの部屋に来た時には、祝う言葉を贈りたい。
今か今かと彼を待ち構えていたその時、ちょうど背後で扉が開く音がした。
「ーーハーノイン様っ・・・・・・‼︎」
ぱぁっと笑顔になってサレナが振り返ると、ハーノインは食事ののったトレーを手に、一瞬怪訝な顔をしてみせる。
「・・・・・・なんですか? 今日はやけに機嫌が良いみたいですね」
すぐにいつもの“司教様らしい”笑顔を取り繕うハーノインに、サレナは精一杯微笑み返すと、ベッド脇に来て座った彼の袖を小さく摘んだ。
「ハーノイン様、お誕生日おめでとうございます」
サレナがそう言うと、彼はわずかに目を見開いて黙り込み、サレナが健気につけ続けてきた壁の引っ掻き傷を一瞥する。
ずっと・・・・・・何のために監禁された日にちなんて数えているのかと、ここから逃げ出す算段でもしているのかと考えていたハーノインは、その意味が己の誕生日を祝うためだったと知ると、可笑しくなって。
肩を揺らしてふふっと笑うハーノインに、サレナは嬉しくなって頬を染めた。
ーーしかし。
「・・・・・・ありがとうございます。まさか、覚えてくれていたとは思いませんでした」
ハーノインはそう言うと、静かにため息をついて笑うのをやめた。
「ですが、残念でしたね。今日は私の誕生日では無いんです」
「・・・・・・えっ」
「悪魔に誕生日なんてありませんよ。あったとしても、もう何百年も生きていて自分の年齢すら把握していないのに・・・・・・覚えているわけありません」
人間界に潜り込むために、偽りの誕生日を適当に設定しておいただけだと語るハーノイン。
せっかく、彼の大切な日を祝えたと思ったのに。
いくら伝えても信じてもらえない自分の愛情を、彼に感じてもらえる機会だと思ったのに。
しょんぼりと肩を落とすサレナ。
用意された食事のパンに手を伸ばそうとしたその時・・・・・・ハーノインの手が、ふとサレナの小ぶりな頭を愛玩するように撫でた。
「ーーですが。また来年も、祝ってください」
低く優しい声音で静かに囁かれたその科白の、意味を図りかねる。
(・・・・・・誕生日じゃ、無いのに?)
小さく首を傾げたサレナは、しかし、ハーノインがそう言うならばその通りにしよう、と思いゆっくりと頷いた。
ーーその日、鎖に繋がれたままのサレナは、いつも通り地下の浴室で身体を清めさせられると、ハーノインによって寝台に押し倒された。
「・・・・・・っ、あぁっ、ハーノイン、さま・・・・・・‼︎」
全身の性感帯を執拗にいじめられ、小柄な身体を無理矢理開かれて。
もう毎日行われていることだ。意地悪く快楽で責め立ててくる彼に、今更抵抗することも、やめて、許してと叫ぶこともしなくなっていたサレナだったが。
・・・・・・その日、ハーノインがサレナを抱く手つきは、いつもよりほんの少し優しかった。
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