【完結】偽りの司教は無垢な少年を淫らに堕とす

百日紅

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聖人を恋う

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 ――あれから、九年の歳月が経った。司教、ハーノインに拾われた少年はサレナと名付けられ、教会で暮らしている。

「司教様っ、ただいま戻りました‼」

 サレナがおつかいを済ませて教会に帰ると、ハーノインは優しく微笑んでサレナを出迎えた。

「おかえりなさい、サレナ。早かったですね」

 ハーノインに暖かなまなざしを向けられて、サレナはほんのりと頬を染めた。――優しくて、綺麗で、憧れの人。初めは命の恩人として慕っていたサレナのハーノインに対する気持ちは、歳を重ねるごとに恋情へと変化していった。

(司教様……)

 ハーノインの美しい琥珀の瞳と長いまつげ、筋の通った鼻から形の良い唇まで視線を流す。ただ見つめているだけなのにうっとりした心地になって、胸が甘酸っぱく高鳴った。

「今日はこれから信徒の方々を入れて、祭儀を行います。サレナも、手伝ってくれますね」

「あ、はっ、はい……‼」

 サレナが元気な返事をすると、ハーノインは嬉しげに微笑んだ。初めて会ったときから全く老いぬそのハーノインの優美な容姿に、サレナはほうっと見とれる。

 彼を恋い慕うサレナの過大な評価を差し引いても、ハーノインの容姿は少々浮世離れしていた。そう――言うなれば、“同じ人間とは思えない”ほどの美貌。

(司教様は俺にとっての天使様だ。本当に神や天使が存在するならば、きっと司教様のような姿をしているに違いない)

 祭儀の準備をするハーノインを横目に、サレナは大理石の教壇を拭きながらそんなことを思った。


――――――


 ――大勢の信徒達で、礼拝堂が埋め尽くされる。ハーノインの美声で紡がれる説教の言葉に、皆聴き入った。

 教会のステンドグラス越し、夕陽の光が礼拝堂に優しく降り注ぐ中……ハーノインは静かに微笑む。

「では皆様、ご起立ください。神への祈りを込めて、聖歌を歌いましょう」

 信徒達が立ち上がり、ハーノインが目配せしてくる。サレナはそっとパイプオルガンの鍵盤に触れると、幼い頃から彼に教えられてきた通りに指を動かし、聖歌のメロディを奏でだした。

 ハーノインと信徒達の歌声が、厳かな礼拝堂に染み渡っていく。

(ごめんなさい、司教様……神への祈りなんて、俺、込められない)

 演奏をしながら、サレナは密かに懺悔した。サレナにとって、司教ハーノインこそが神で、天使で、この世界の全てだった。

 ハーノインが恋しくて、愛しくて堪らない。そんな感情だけが胸に渦巻いていて、はじく鍵盤、奏でるメロディに神への祈りを込めることなど一杯一杯のサレナには出来なかった。
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