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第五話
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きらびやかな内装に、ふかふかのベッド。意識がとろけるようなさわり心地のシルクのシーツの上で居心地悪く縮こまりながら、俺はいろんな事がありすぎた転生初日を振り返り深くため息をついた。
思った以上にキツすぎた継母と姉妹からの虐め。何故かオメガバースの世界に改変されたシンデレラの世界。
そしてその“シンデレラ”に転生した俺は男Ωになっていて、暴漢に襲われたあげく危うくレイプされかけるところをギリギリで救い出されたのだ。
――第一王子、メイナード=ヴィルヘルム……俺の、運命の番であるαの男に。
王子によって首につけられた貞操帯を、そっと指先でなぞる。これを着けていれば、さっきのように襲われた際、無理矢理に噛まれ番契約させられることを防げるという物で、発情期の来たΩは着用するのが常識らしい。
『貞操帯も抑制剤も与えられないような環境に、君を帰すわけには行かないな』
王子相手に隠し事をすることなど出来ず、子爵家の荒れた家族関係について洗いざらい話すと、メイナードは俺を保護すると言って、ここ、王城に連れ帰ったのだった。
今頃は王家の使者が子爵家に赴き、俺……“シェリル=ラミアース”が王子の運命の相手だったこと、虐待の事実からシェリルは王家で保護することになったことを伝えているのだという。
あの高飛車姉妹と継母は、どんな顔をして驚くだろうか。俺を憎むだろうか、悔やむだろうか。まあ、もう俺には関係ないが。
(……原作改変もいいところだ、まさか、こんなに早く王子様に出会うなんてな)
本当なら、シンデレラと王子様が出会うのはもっと先。舞踏会の夜、妖精の魔法使いによって美しく変身したシンデレラが王子に見初められるのが物語の流れだったはずだ。
それが、あんな形で出会うことになって、その日のうちに城で住むことになるなんて。
衝撃の連鎖で精神的な興奮が収まらず、なかなか俺が寝付けないでいると……唐突に、部屋の扉をノックする音が響いた。
「……まだ起きてる? 入っても、良いかな」
静かに聞こえてきたメイナードの声。それだけで、俺の胸は急速に高鳴り、白い頬は林檎のように真っ赤に染まった。
―――――
真っ白なティーカップに、温かい紅茶が注がれていく。柔らかに香るハーブの香りに、緊張が和らぐような心地がした。
(ハーブティー、安眠効果があるとか聞いたことがあるけど……一度も飲んだことないな。前世では意識高い系の人々が飲むものだと思ってた)
メイナードは部屋に入ってくると、眠れない俺にハーブティーを淹れてくれた。さすが中世西洋世界が舞台のシンデレラなだけある、前世の独身時代、眠れないと酒を飲んでいた俺からしてみるとめちゃめちゃお洒落な習慣だ。
「……熱いから、火傷に気をつけて」
「あ、ありがとうございます、殿下」
俺が恐る恐るカップを受け取ると、メイナードはそっとベッドの縁に腰掛ける。彼に近寄られるだけで、身体が欲するように熱を帯びて堪らない。
身を強張らせる俺に、メイナードは優しく微笑みかけた。
「安心してくれ、何もしないから……ただ少し、君と話してみたくなっただけなんだ」
そんな柔らかな表情で、囁かれるように美声で言われると、俺は同じ男なのについ胸がキュンとしてしまった。襲われているところを助けてくれた、あの時の強く凜々しい姿を見たときから、自分は運命の番関係なく彼に魅了されていたのかも知れない……そんなことまで、考えてしまう。
気持ちを紛らわすように紅茶を口にする、そんな俺にメイナードはただ優しい眼差しを注いで。
「――ずっと待っていたんだ、運命の番と出逢える日を……だから、君のことは大切にしたい。ゆっくり、お互いのことについて知るところから仲を深めていきたいと思っている」
そんな口説き文句を囁いてくるものだから、俺はすっかり紅茶の味も香りも分からなくなってしまった。
思った以上にキツすぎた継母と姉妹からの虐め。何故かオメガバースの世界に改変されたシンデレラの世界。
そしてその“シンデレラ”に転生した俺は男Ωになっていて、暴漢に襲われたあげく危うくレイプされかけるところをギリギリで救い出されたのだ。
――第一王子、メイナード=ヴィルヘルム……俺の、運命の番であるαの男に。
王子によって首につけられた貞操帯を、そっと指先でなぞる。これを着けていれば、さっきのように襲われた際、無理矢理に噛まれ番契約させられることを防げるという物で、発情期の来たΩは着用するのが常識らしい。
『貞操帯も抑制剤も与えられないような環境に、君を帰すわけには行かないな』
王子相手に隠し事をすることなど出来ず、子爵家の荒れた家族関係について洗いざらい話すと、メイナードは俺を保護すると言って、ここ、王城に連れ帰ったのだった。
今頃は王家の使者が子爵家に赴き、俺……“シェリル=ラミアース”が王子の運命の相手だったこと、虐待の事実からシェリルは王家で保護することになったことを伝えているのだという。
あの高飛車姉妹と継母は、どんな顔をして驚くだろうか。俺を憎むだろうか、悔やむだろうか。まあ、もう俺には関係ないが。
(……原作改変もいいところだ、まさか、こんなに早く王子様に出会うなんてな)
本当なら、シンデレラと王子様が出会うのはもっと先。舞踏会の夜、妖精の魔法使いによって美しく変身したシンデレラが王子に見初められるのが物語の流れだったはずだ。
それが、あんな形で出会うことになって、その日のうちに城で住むことになるなんて。
衝撃の連鎖で精神的な興奮が収まらず、なかなか俺が寝付けないでいると……唐突に、部屋の扉をノックする音が響いた。
「……まだ起きてる? 入っても、良いかな」
静かに聞こえてきたメイナードの声。それだけで、俺の胸は急速に高鳴り、白い頬は林檎のように真っ赤に染まった。
―――――
真っ白なティーカップに、温かい紅茶が注がれていく。柔らかに香るハーブの香りに、緊張が和らぐような心地がした。
(ハーブティー、安眠効果があるとか聞いたことがあるけど……一度も飲んだことないな。前世では意識高い系の人々が飲むものだと思ってた)
メイナードは部屋に入ってくると、眠れない俺にハーブティーを淹れてくれた。さすが中世西洋世界が舞台のシンデレラなだけある、前世の独身時代、眠れないと酒を飲んでいた俺からしてみるとめちゃめちゃお洒落な習慣だ。
「……熱いから、火傷に気をつけて」
「あ、ありがとうございます、殿下」
俺が恐る恐るカップを受け取ると、メイナードはそっとベッドの縁に腰掛ける。彼に近寄られるだけで、身体が欲するように熱を帯びて堪らない。
身を強張らせる俺に、メイナードは優しく微笑みかけた。
「安心してくれ、何もしないから……ただ少し、君と話してみたくなっただけなんだ」
そんな柔らかな表情で、囁かれるように美声で言われると、俺は同じ男なのについ胸がキュンとしてしまった。襲われているところを助けてくれた、あの時の強く凜々しい姿を見たときから、自分は運命の番関係なく彼に魅了されていたのかも知れない……そんなことまで、考えてしまう。
気持ちを紛らわすように紅茶を口にする、そんな俺にメイナードはただ優しい眼差しを注いで。
「――ずっと待っていたんだ、運命の番と出逢える日を……だから、君のことは大切にしたい。ゆっくり、お互いのことについて知るところから仲を深めていきたいと思っている」
そんな口説き文句を囁いてくるものだから、俺はすっかり紅茶の味も香りも分からなくなってしまった。
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