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5.魔王

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 ーー勇者パーティによる魔王討伐が行われる前夜。

 魔王城の大広間に集められた家臣達は、玉座に腰掛けた魔王が発した科白に驚愕しどよめいた。

「俺は明日、勇者に負ける」

 負ける、という言葉とは裏腹に、不敵な笑みを浮かべて余裕綽々とした様子の魔王に、四天王の一人が困惑の声を上げる。

「ま、魔王様、何故です? 今度の勇者は歴代の中でも最弱です。貴方様が負けるなんてあり得ないでしょう⁉︎」

「落ち着け。あのへなちょこ勇者と戦って負けるなんてことはあり得ない。そんなのは分かりきったことだ。俺は、あえて一度勇者に負け、封印されてやるって言ってるんだよ」

 魔王はそう言うと、ニヤリとその形のいい唇の口角を上げ、長い脚を組んだ。

「お前達も知っているだろう、魔族に代々伝わる秘術のことを」

 魔王の科白に、家臣達がごくりと息を呑む。

 ーー魔族にのみ伝わる秘術。それは、勇者達に敗北することによって一度魔王の力を封印した後、聖者と恋に落ちて身体の関係を持つという手順で行われるもの。

 聖者とことによって、その膨大な聖なる力を取り込み、魔王の力の封印を解くことができる。

 ・・・・・・だけではなく、封印される前よりも遥かに強大な力を手に入れることができるのだ。

 しかし、一度封印されなければならないという危険度の高さや、敵である聖者に恋心を抱かせなければならないという難易度の高さから、歴代の魔王で挑戦した者はいなかった。

 ただ肉体関係を持てばいいというものではない。聖者が心底魔王に惚れ、心も体も開いてくれなければ意味がないのだ。

「俺は歴代の魔王達のように、現状に満足して高みを目指さない臆病者どもとは違う‼︎ 必ず秘術を完了し、魔族を繁栄へと導いてみせる‼︎」

 野望に燃える魔王。そのカリスマに平伏する家臣達。

 ちょうどその頃、魔王サイドから「ポンコツ勇者」「へなちょこ勇者」「歴代最弱」などと散々に言われていることなど全く知らないアンバーが、意気揚々と魔王城の門をくぐっていた。
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