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最終話

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「ーーというわけで、俺たち、その、“そういう関係”になったんだ」

 レスターと一線を越えてから半月が経ち、伯爵邸の客室にて。

 ディーは、遊びに来たオースティンにレスターと恋仲になったことを打ち明けていた。

 頬を染めたディーが恥じらうようにした報告を聞くや否や、楽しげにニヤニヤと笑いながら酒を煽るオースティン。あまり驚かない彼に、ディーは怪訝な顔をした。

「・・・・・・なぁ、驚かないのか? まるで既に知ってたみたいに落ち着いてるけど」

 ディーの訝しむような科白に、オースティンは悪戯な笑みを浮かべる。

「あぁ。いずれこうなるって思ってたよ。・・・・・・なにせレスターにはお前がいない時何度も聞かれたからな。ディーのことをどう思ってるのか、とか」

 恋のライバルとでも思っていたのかもな? 俺に男を抱く趣味なんてないのに。なんて言いながら、ナッツを齧るオースティン。

「だから、発破をかける意味であいつに売ってやったんだ、初夜でも痛い思いをせずに快くなれる潤滑液・・・・・・」

「ーーお前だったのかッ‼︎」

 衝撃の事実に、ディーは思わず大きな声をあげてしまう。

 不思議に思っていたのだ。ほとんど外との関わりがないレスターが、どうやって“あんなもの”を購入したのか。

「あと、男同士の性技について書かれた本もあいつにやった。多分部屋に隠し持ってるんじゃないかな」

「お前よくもッ・・・・・・‼︎」

 面白がるオースティンを、ディーは涙目でキッと睨みつけた。

 初めてのはずのレスターがやたら慣れていた風だったのも、全部この悪友の入れ知恵だったのだ。

 当然、ディーが抱かれる側だというのもオースティンは分かっているのだろう。恥ずかしいやら恨めしいやらで情緒がぐちゃぐちゃになる。

「うちの可愛いレスターに・・・・・・破廉恥なこと吹き込みやがってッ・・・・・・」

 ぷるぷる震えながらやけになって酒を煽るディー。

 するとオースティンは、少し呆れたように微苦笑して。

「・・・・・・きっかけを与えたのは確かに俺だけどな。その知識を得るかどうかを決めたのはレスター自身なんだぞ? もうあいつはただの可愛い子供じゃないんだってこと、いい加減分かってやれよ」

 諭すようにそう言うと、ぽんぽん、とディーの肩を軽く叩いて立ち上がり、「便所借りるわ」と言って部屋から出ていってしまった。

 一人になった部屋で、ちびちびと酒を飲む。

(・・・・・・いつまでもただの可愛い子供じゃない、本当にそうだよな)

 ぐっとグラスを握る手に力を込めたその時、ガチャ・・・・・・と部屋のドアノブが回る音が響いて、レスターが入ってきた。

 右腕にワインボトルを抱きながら、「あれ? オースティンさんは?」と言って首を傾げるレスターを、ディーは自分の隣の席に誘導する。

「お酒、足りないかなと思って。食糧庫から持ってきた」

 レスターがにこにこ微笑みながら手渡してくるそれを受け取ると、ディーはテーブル上に伏せてあった予備のグラスをそっと手に取った。

「・・・・・・レスターも、飲んでみるか?」

 ディーがそう聞くのに、レスターはぱあっと表情を明るくして目を輝かせる。

「いいの⁉︎」

 ぴこぴこと耳を動かし、尻尾を振るレスターの可愛らしさが微笑ましくて、ディーはすっと目を細めた。

 レスターを拾った時の幼く小さな姿のイメージが抜けないディーは、今までずっとレスターの飲酒を禁止していたのだ。

 しかし、もうレスターの体格はディーよりずっと立派に育っている。いい加減子供扱いし続けるのも可哀想だ。

「あぁ。・・・・・・もうレスターも“大人”だもんな」

「・・・・・・ッ、大人・・・・・・」

 ディーの口にした“大人”という言葉を、レスターはしっかりと噛み締めるように繰り返す。

 嬉しそうに頬を緩ませる彼にグラスを持たせると、ディーはそこに半分ほどワインを注いでやった。

 レスターはその深い赤紫色をした半透明の液体を、息を呑んで見つめる。

「・・・・・・ずっと、憧れてたんだ。ディーと一緒に、お酒を飲みたいなって」

「ははっ・・・・・・別に、そんな憧れるほど大層なもんじゃないぞ、酒なんて」

 大袈裟だなと笑うディー。しかしレスターは、「これで大人の仲間入り、だね?」と確かめるように言うと、緊張の面持ちでグラスに口をつけ、その中身をごくりと喉を鳴らして飲み込んだ。

 しばらく口の中に残った風味を味わっていたレスターだったが、だんだんと眉間に皺を寄せて。

「・・・・・・ちょっと、苦い、かも。大人の味っていうか・・・・・・」

 震える声で言いながら口元を押さえて肩を落とすと、少し目を潤ませてしょんぼりとした。

 酒を美味しく思えなかったのが余程残念だったのだろうか。ディーはあからさまに落ち込むレスターが可愛くて堪らず、励ますように明るく笑い飛ばしてやる。

「はは、確かにこれは初めて飲むには渋すぎるかもな。そんなに落ち込むなよ、今度もう少し甘いやつを買ってくるからさ」

 よしよしとその耳をぺしゃりと垂れさせた頭を撫でてやるディー。

 しかし、レスターの機嫌はなかなか治らない。可愛がるようにくしゃくしゃと頭を撫でれば撫でるほど、レスターは頬を赤く染めて俯いてしまう。

 ーー自分はまた、彼を子供扱いしてしまっているのだ。やがてハッと気がついたディーが慌てて手を引っ込めようとしたその手を、レスターが掴んで引き留めた。

「・・・・・・甘いお酒もいいけど、僕、ディーが好きなお酒を好きになりたいんだよ」

「・・・・・・ッ、レスター」

 レスターは熱っぽく囁くと、ディーの手の甲にちゅ、と口付ける。

 その頬はほんのりと赤くなっていて、とろんとした目はディーを捉えたまま全く逸れない。

(レスター、もう酔ってるのか? もしかしてめちゃくちゃ酒に弱いんじゃ・・・・・・)

 既にやや酔いが回り出した様子のレスターが、ぐいっとディーの腰を抱き寄せる。

「ディー、好き・・・・・・大好き」

「あ、ちょ、待ってくれッ‼︎」

「・・・・・・ちゅー、したい・・・・・・♡」

 制止するディー。熱に浮かされたようにレスターが顔を近づけてくる。

 二人の唇が重なる寸前ーー突如として開かれた部屋のドアに、二人はビクッと肩を震わせて仰け反った。

「おぉっと、邪魔しちゃったかな? こんな真昼間からお盛んだなぁ」

 ニヤニヤ笑うオースティンが、邪魔者はそろそろお暇しようかな、なんて戯けて言うのに、ディーは耳まで真っ赤にする。

「このッ・・・・・・待てオースティン‼︎ 何ニヤニヤ笑ってるんだッ‼︎」

「ま、待ってよディー、置いてかないで‼︎」

 廊下をケラケラと笑いながら駆けていくオースティン、それを追いかけるディー。

 酔ったせいでふらふらになった脚でなんとかディーの後ろをついていくレスター。

 数年前までは静まり返っていた伯爵邸に、賑やかな声が響き渡る。

 オースティンが帰ったのち、ディーは酔っ払ったレスターによってベッドの上で散々甘やかされた。

 ーーもう、ディーは孤独な嫌われ者では無い。レスターという可愛らしい恋人に、この先の生涯ずっと愛され続けることとなるのだった。
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みんなの感想(2件)

かんぱん
2024.05.06 かんぱん

レスターの重めの愛が最高でした…!!!
レスターから見た可愛いディーをぜひ読ませていただきたいのでもしお時間あればレスター視点をお願いしたいです…!
攻めの愛にほだされる(攻めの愛強め)話が大好きなのでどんぴしゃでした!ありがとうございました(o^^o)
百日紅様が書かれている他の作品も読ませていただきます!

百日紅
2024.05.06 百日紅

お読みいただきありがとうございます🥰
攻めの愛がめちゃくちゃデカい!もはや重い!そしてほだされちゃう受け・・・・・・みたいな関係性がすごく好きで書いたので嬉しいです・・・・・・!!✨
番外編もいつか書けたらなと思います💕

解除
あーーー
2024.04.25 あーーー

最高です、、、!!!

百日紅
2024.04.25 百日紅

ありがとうございます🥰

解除
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