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「ーーだから、彼女は俺の恋人でも何でもない。レスターが年頃に育ったから、“お前の”婚約者候補として連れて来たんだ」

「・・・・・・」

 レスターの部屋にて、ベッドに腰掛け沈黙する彼に、事の詳細を説明するディー。

 ルーシャには申し訳ないが、彼女がいてはレスターの気が落ち着かず、いつまでも事態の収拾がつかないというディーの判断によって今日のところは一旦帰ってもらった。

 ディーはレスターの前に立ち、深くため息をつく。

「・・・・・・ごめんなさい。色々と勘違いしていて。

 ディーをあの娘にとられるって思ったら僕、頭の中が真っ白になって、感情が抑えられなくなって・・・・・・。

 ディーに無理矢理キスしたり、あの娘に“帰って”なんて失礼なことを言ったりしてしまいました」

 しょんぼりと肩を落とすレスター。

 ルーシャに対する失礼な言動については反省しているようだが、しかしその不満げな表情から見るに、まだ今回の件について納得した訳ではないようだった。

「・・・・・・いや、お前の気持ちを確認したり、事前にちゃんと説明したりしなかった俺のせいだ。 

 ディーはあまり外の人と関わりを持たないできたから、いきなり婚約者候補として会わせたら混乱するかと思って・・・・・・。 

 だから最初は、結婚の話は伏せて彼女と友人のような交流から始めてもらおうと考えていたんだ」

 ディーはそう言うと、レスターの隣にそっと腰掛け、しゅんとして丸まった彼の背中を優しく撫でてやる。

(・・・・・・そうだ、俺が間違ってたんだ。あんなに“レスターの精神面もしっかり見てやれ”とオースティンが忠告してくれていたのに、俺はレスターの気持ちを深く考えることなく先走ってしまった)

『ーーいらない‼︎』

 珍しく声を荒げたレスターの、ひどく真っ青な顔を思い出して・・・・・・ディーは胸が苦しくなった。

 あんな風にレスターが取り乱すとは考えもしなかった自分に、腹が立ってくる。

(・・・・・・俺は、レスターの保護者失格だな)

 自分が情けなくなって、つい俯いてしまう。

 レスターがずっとずっと幼い頃から、一番側にいて育ててきたのに。

 レスターのことを全然理解してやれていなかった自分が情けなくて・・・・・・ディーは、膝の上でぐっと拳を握りしめた。

「ーーなぁ、レスター。さっき、キスしてきたのは・・・・・・俺と結婚するって言ってたのは」

 本気なのか? ーーそうディーが尋ねた瞬間、食い気味に頷いたレスターによって、両肩を掴まれ身体ごと引き寄せられる。

 口付けてしまいそうなほど顔を近づけられて、ディーはビクッと身体を震わせた。

「本気だよ。僕、ディーのこと世界で一番愛してるから。・・・・・・僕と結婚して、ディー」

 澄んだ黄金色の瞳で真っ直ぐ見つめられて、その熱い眼差しに囚われてしまったかのようにディーは顔を逸せなくなる。

 ディーにとってレスターは“可愛い息子”のはずだった。それなのに、情熱的な告白にどうしようもなく鼓動が高まって、困惑してしまう。

「れ、レスター、お前ッ・・・・・・」

「・・・・・・信じて、ディー。もう僕のために女の子連れてくるのもやめて欲しい。 僕が好きになるのはこれからもこの先もずっとディーだけだからッ・・・・・・‼︎」

 目に涙を溜めたレスターが、必死になって訴えてくる。

 好き、大好き、愛してる、ディー以外の誰もいらない・・・・・・レスターはディーを真っ直ぐ見つめると、甘ったるい科白を溢れる感情のまま紡ぎ続けた。

 ーー酒に溺れ死んだ残虐な父親、幼い頃に出ていった母親、自分との結婚を嫌がり避けた令嬢達。

 今までほとんど誰にも愛情を向けられてこなかったディーにとって、レスターのいっそ重く感じるほど熱い愛の言葉は麻薬のようだった。

 ぶわっと身体中に熱が広がり、脳内を快楽物質が駆け巡る。

 吐息が震えて、呂律が上手く回らない。

「い、いやでも、好きって・・・・・・結婚とか、お前、どういう意味か分かって」

「ーー分かってるよ‼︎」

 ディーの煮え切らない態度に痺れを切らしたレスターは、ディーをベッドに押し倒すと、その身体の上に覆い被さった。

「・・・・・・もう僕、子供じゃないんだよ、ディー。毎朝毎朝、どういうつもりでディーにキスしてると思ってたの」

 低い声でそう言うレスター。瞳は涙に濡れていたが、その表情は雄らしくディーを求めていて。

 右手で顎を掴まれ、親指の腹で唇をなぞられて、ディーは背筋がゾクゾクッと震えるのを抑えられなかった。

「本当は唇にキスしたい、ディーを・・・・・・抱きたいって、ずっと思ってた」

 レスターの熱い吐息が顔にかかる。硬く勃起した股間を服越しにゴリ、と押し付けられて、彼の言う“好き”が性愛を含むものであることをはっきりとわからされてしまった。

「だ、抱きたいって、お前ッ・・・・・・」

 頬を真っ赤にして狼狽えるディー。

 レスターはディーの首筋に顔を埋めると、ちゅ、ちゅとそこに口づけながら、舌先でつうっ・・・・・・と首筋をくすぐるようになぞる。

「あ、ちょ、や、やめッ・・・・・・♡」

「・・・・・・こうやって、ディーの身体中にキスして、舐めて、可愛がりたいんだ。

 ディーのことを気持ち良くしたい、気持ち良すぎて泣いちゃうところを見てみたい。

 ・・・・・・でも、僕のこんな気持ちを知ったらディーは僕のこと気持ち悪いと思うかもしれない、だから今まで黙ってたのに。

 ディーが女の子連れてきたりするなら、もう、我慢なんてしてられないよ」

 首筋や耳元に何度も何度も口付けられて、ディーは顔中真っ赤にしたまま何も出来ず、されるがままになっていた。

 このまま、全てレスターに捧げて、心も身体も愛されたら・・・・・・きっと、もう戻れなくなるくらいに気持ちいい。

 頑張っているのに、好かれようとしているのに、家族すら自分を愛してくれない、誰か自分を愛して欲しい・・・・・・幼い頃からそんな苦しい思いばかり抱いてきたディーの心に、溢れんばかりの愛をレスターが注いでくるのだ。

(ーー欲しい、愛されたい・・・・・・レスターが俺を愛してくれるなら)

 ディーはドクン、ドクンと自身の胸が鳴る音を聞きながら、緊張に震える手でレスターを抱きしめ返す。

「・・・・・・ディー」

 レスターが耳元で名前を呼ぶ、その甘い響きにディーはひどく感じ入ってしまった。

(義理の親子で、男同士で、異種族で・・・・・・駄目な理由は沢山あるのに、今、レスターの全てを受け入れたくて堪らない)

 ぎゅう、とレスターの逞しい体に抱きつくディー。お互いの高鳴る鼓動が、火照る身体の体温が伝わりあって、うっとりとしてしまう。

「・・・・・・抱きたいなら抱け。一生俺のことを愛して、側にいてくれるって約束してくれるならな」

「ッ・・・・・・‼︎」

 ーーそれは、ずいぶん可愛げのない科白だった。しかしレスターはぶるりと身体を震わせると、「絶対に約束する」と性急に誓い。

 そのまま、噛み付くようにディーの唇を深く奪った。
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