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7・奏の記憶
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ーー自分が渓のことを邪な目で見ていることに気がついたのは、ちょうど専門学校に進学した年の春・・・・・・渓に身長を越されてしばらく経ってからのことだった。
食器棚の最上段に置かれていたいつかの引き出物の皿が取れず、背伸びし手を伸ばしていた僕の背後に、いつの間にか渓が立っていて。
『・・・・・・俺が取るよ。危なっかしいから』
声変わりしてやや低く、どこか色っぽく変化した渓のその囁き声を聞いた途端、全身がゾクッと震えて。
尾骶骨がきゅんととろけるような感覚に、つい足元がふらついてしまった。
『ーー兄さん‼︎』
刹那、陶器が床に落ちて砕ける鋭い音が響いて、心臓がひゅっと飛び上がる。
・・・・・・ふらついた拍子に、食器棚に並んでいた古い茶碗を落としてしまったのだ。
『・・・・・・動かないで、怪我するから』
鼓動が、高まる。僕の身体を抱き支える渓の、いつのまにか力強くなった男の腕に、どうしようもなく胸がときめく。
耳元に吐息がかかるほど近くに、渓の顔があって。
自分とよく似た顔立ち、しかし僕とは似ても似つかない凛とした静かな表情につい見惚れてしまった。
『一歩も動かないで。・・・・・・今、片付けるから』
少し語気の強い口調で言われて、背筋がゾクゾクする。
思い返せば、ずっとそうだった。外での渓が時折みせる冷たい態度を、言葉を自分に向けてみてほしいと。
渓に支配されて、意地悪に罵られたいなどという欲望を心の奥底で抱いていた。
・・・・・・でも、渓は僕に対してだけ、無愛想ながらも優しい態度で接してくる。
その優しさも愛しく、自分だけがそれを独占していることにいつも優越感を覚えていたが・・・・・・同時に、酷く扱われて、訳がわからなくなるほど滅茶苦茶にして欲しいなどと思ってしまうのだ。
床にしゃがみ込み、割れた皿を片付ける渓。
『ご、ごめん、僕が割ったのにっ・・・・・・自分でやるからいいよ、渓』
慌てて自分もしゃがみ、破片に手を伸ばした・・・・・・その時。
指先を鋭く掠めた痛みに、顔をしかめた。
破片に触れて出来た、小さな切り傷から血の滴が垂れる。
『・・・・・・兄さん、動かないでって言ったのに』
『ごめ、でも、渓っ・・・・・・』
『見せて』
怪我をした方の手の手首を掴まれ、ぐいっと渓の方に引き寄せられる。
手と手の素肌が触れ合う感触に、頬が熱をもち吐息が震える。
『い、いいよ、大丈夫、全然平気だからっ・・・・・・』
触れられた手の皮膚が熱くなり、ドクドクと血が脈打つ。きっとこれは、怪我で出血しているからだけではない。
(おかしい。僕、どうかしてる)
血のつながった兄弟なのに。
この世で唯一の肉親なのに。
こんな風に欲情する自分が信じられない。
ーーしかし、その日を境に僕は渓を想いながら、夜な夜な自分を慰めるようになっていった。
そして、ついには渓が学校に行っている昼間、渓の部屋に忍び込み渓の服を嗅ぎながら自慰に耽るようになり・・・・・・。
『ーー兄さんにこんな変態的な趣味があるなんて、知らなかったよ』
(渓、ごめんね・・・・・・気持ち悪い兄で、ごめん・・・・・・)
ーーーーー
ーーぼんやりと、意識が覚醒していく。
(あれ・・・・・・僕、いつの間に寝て・・・・・・?)
素肌に触れるシーツの感触に、自分が一糸纏わぬ姿で寝ていたことに気がつくと、僕は慌てて跳ね起きた。
近くに、渓の姿は無い。
『ーーぁあぁッ・・・・・・‼︎♡ きも、ち・・・・・・ッ、渓、や、ぁッ‼︎♡♡♡』
『兄さん・・・・・・』
腰の鈍く重い怠さ、鮮明に残っている舌を絡めた深い口付けの感触、渓のモノに何度も突かれた腹の奥の疼き。
全身につけられたキスマークを目にするだけで、背筋がゾクゾクする。
(全部、覚えてる。夢なんかじゃ無い・・・・・・僕は、渓と)
頭の中が真っ白になっていく。越えてはいけない一線を越えてしまった、その罪悪感に襲われて。
(渓っ・・・・・・‼︎)
昨日抱き合った際に脱いだのがそのままになっているのだろう、ベッド脇の床に落ちていた服を適当に着ると、僕は部屋を飛び出した。
食器棚の最上段に置かれていたいつかの引き出物の皿が取れず、背伸びし手を伸ばしていた僕の背後に、いつの間にか渓が立っていて。
『・・・・・・俺が取るよ。危なっかしいから』
声変わりしてやや低く、どこか色っぽく変化した渓のその囁き声を聞いた途端、全身がゾクッと震えて。
尾骶骨がきゅんととろけるような感覚に、つい足元がふらついてしまった。
『ーー兄さん‼︎』
刹那、陶器が床に落ちて砕ける鋭い音が響いて、心臓がひゅっと飛び上がる。
・・・・・・ふらついた拍子に、食器棚に並んでいた古い茶碗を落としてしまったのだ。
『・・・・・・動かないで、怪我するから』
鼓動が、高まる。僕の身体を抱き支える渓の、いつのまにか力強くなった男の腕に、どうしようもなく胸がときめく。
耳元に吐息がかかるほど近くに、渓の顔があって。
自分とよく似た顔立ち、しかし僕とは似ても似つかない凛とした静かな表情につい見惚れてしまった。
『一歩も動かないで。・・・・・・今、片付けるから』
少し語気の強い口調で言われて、背筋がゾクゾクする。
思い返せば、ずっとそうだった。外での渓が時折みせる冷たい態度を、言葉を自分に向けてみてほしいと。
渓に支配されて、意地悪に罵られたいなどという欲望を心の奥底で抱いていた。
・・・・・・でも、渓は僕に対してだけ、無愛想ながらも優しい態度で接してくる。
その優しさも愛しく、自分だけがそれを独占していることにいつも優越感を覚えていたが・・・・・・同時に、酷く扱われて、訳がわからなくなるほど滅茶苦茶にして欲しいなどと思ってしまうのだ。
床にしゃがみ込み、割れた皿を片付ける渓。
『ご、ごめん、僕が割ったのにっ・・・・・・自分でやるからいいよ、渓』
慌てて自分もしゃがみ、破片に手を伸ばした・・・・・・その時。
指先を鋭く掠めた痛みに、顔をしかめた。
破片に触れて出来た、小さな切り傷から血の滴が垂れる。
『・・・・・・兄さん、動かないでって言ったのに』
『ごめ、でも、渓っ・・・・・・』
『見せて』
怪我をした方の手の手首を掴まれ、ぐいっと渓の方に引き寄せられる。
手と手の素肌が触れ合う感触に、頬が熱をもち吐息が震える。
『い、いいよ、大丈夫、全然平気だからっ・・・・・・』
触れられた手の皮膚が熱くなり、ドクドクと血が脈打つ。きっとこれは、怪我で出血しているからだけではない。
(おかしい。僕、どうかしてる)
血のつながった兄弟なのに。
この世で唯一の肉親なのに。
こんな風に欲情する自分が信じられない。
ーーしかし、その日を境に僕は渓を想いながら、夜な夜な自分を慰めるようになっていった。
そして、ついには渓が学校に行っている昼間、渓の部屋に忍び込み渓の服を嗅ぎながら自慰に耽るようになり・・・・・・。
『ーー兄さんにこんな変態的な趣味があるなんて、知らなかったよ』
(渓、ごめんね・・・・・・気持ち悪い兄で、ごめん・・・・・・)
ーーーーー
ーーぼんやりと、意識が覚醒していく。
(あれ・・・・・・僕、いつの間に寝て・・・・・・?)
素肌に触れるシーツの感触に、自分が一糸纏わぬ姿で寝ていたことに気がつくと、僕は慌てて跳ね起きた。
近くに、渓の姿は無い。
『ーーぁあぁッ・・・・・・‼︎♡ きも、ち・・・・・・ッ、渓、や、ぁッ‼︎♡♡♡』
『兄さん・・・・・・』
腰の鈍く重い怠さ、鮮明に残っている舌を絡めた深い口付けの感触、渓のモノに何度も突かれた腹の奥の疼き。
全身につけられたキスマークを目にするだけで、背筋がゾクゾクする。
(全部、覚えてる。夢なんかじゃ無い・・・・・・僕は、渓と)
頭の中が真っ白になっていく。越えてはいけない一線を越えてしまった、その罪悪感に襲われて。
(渓っ・・・・・・‼︎)
昨日抱き合った際に脱いだのがそのままになっているのだろう、ベッド脇の床に落ちていた服を適当に着ると、僕は部屋を飛び出した。
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