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第九話 すれ違う二人

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 ーー翌朝。ガタガタと揺れる馬車の中、ナキアとサイラスは向かい合って席に腰掛けていた。

 これから向かうのは、山麓のウォルター伯爵領。

 ウォルター伯爵は王への叛逆を企み、武器を密輸入しているという噂がある。

 その噂の真偽を確かめるべくナキアが調査に向かうこととなったのだが・・・・・・。

(ーークソッ、こいつの顔直視できない・・・・・・)

 昨夜、サイラスで抜いてしまったナキアは、彼とまともに視線を合わせることが出来なくなってしまった。

「・・・・・・ナキア様? 体調が優れないのですか?」

 様子のおかしいナキアに、サイラスは優しく声をかけてくる。

「べ、別に・・・・・・ちょっと、馬車に酔っただけだ」

 放っておいてくれ、と素っ気なく突き放すナキア。

 するとサイラスは、あろうことかナキアの隣の席に腰掛け、背中をさすってきたではないか。

 サイラスの手に優しく背筋を撫でられて、ナキアはゾクゾクッと震える。

「お、おいサイラス‼︎」

「気持ち悪くなったらいつでも馬車を止めますから」

 介抱しようとしてくるサイラスの手を、バッと払い除ける。

 あんまり触れられると、サイラスと口付けたり、胸を愛撫されたりしたこの数日間の記憶が蘇ってきてたまらない。

「・・・・・・いい‼︎ 俺に構うな‼︎」

 つい過剰にきつい態度で突き放してしまい、ナキアはズキ、と胸が痛んだ。

(・・・・・・別に、気にするほどのことじゃないだろ。俺の不機嫌な時って、いつもこれくらいの態度なんだから)

 しかし、ナキアのサイラスを恋思う気持ちは、ここ数日の件でさらに深く熱を増していた。

 自分の一挙一動にサイラスがどう思うか、いちいち気になって仕方がないのだ。

(こんな・・・・・・俺みたいな奴のこと、サイラスは好きになんてならないんだろうな)

 サイラスからそっぽを向いていたナキアは、密かに目に涙を浮かべた。

(サイラスが好きなのは、幼い男だけだ。俺をあんな風に可愛がるのも、幼い姿になった時だけ・・・・・・)

 唇を噛み締め、辛い気持ちをぐっと抑え込む。

 これからの伯爵領での仕事は、二泊三日を想定しているのだがーー初日の移動でこんな調子では、先が思いやられた。
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