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第四話・涙の夜
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こびと達の家の中に入ると、そこは木のぬくもりに包み込まれるような心地良い空間だった。長いテーブルに並べられたパンやスープ、ハムが、すぐにもう一人分用意される。
「スノウ様、ささ、お座りください」
「スープが温かい内にいただきましょう」
こびと達は、ダンテの急な頼みを二つ返事で引き受け、快く俺を歓迎してくれた。
「じゃあ、すまないが、スノウのことは頼んだ。俺はまたすぐに王都に戻らなくちゃならないからな」
入り口から家の中をのぞくようにしてダンテが言うのに、こびと達は胸を張って答える。
「お任せください、ダンテ殿」
「ダンテ殿の頼みとあれば!!」
「あの時の恩を返させていただきますぞ」
「――ありがとな、みんな」
微笑むダンテに、キュンとする。行って欲しくない、引き留めたいという気持ちで一杯になるが、すぐに閉じてしまう扉に、俺はシュンと肩をすぼめた。
――彼はこれから、俺を殺したことにするための工作をするのだ。妃はダンテに命じたらしい、スノウを殺したら、その証拠に心臓を城に持ち帰ってくるようにと。
『俺はこれから、森で獣を狩ってくる。その心臓を……坊主のだってことにして妃に提出するんだ』
そんな簡単な事ではバレるのではないかと一瞬思ったが、この中世世界らしい白雪姫ワールドの医学レベルじゃ、ましてや専門家でもなんでもない妃には、人間と獣の心臓の見分けなんてつかないに違いない。
『か、必ず生きて帰ってきてくださいダンテさん、俺、ダンテさんのこと待ってますから』
俺が心配しダンテに縋り付いてそう言った時、彼はニッと笑って俺の頭を撫でた。
『ははッ、心配しすぎだ。でも、ありがとな。すぐ戻ってくるから、皆と待っててくれ』
(……ダンテさんはああ言ってたけど、やっぱり心配だ。だって、俺が知ってる白雪姫では、姫を逃がした後の狩人がどうなるのか明らかにされていない)
不安で、気分が落ち込む。……すると、こびとの一人がそっと俺の肩をたたいてきた。
「――スノウ様、ダンテ殿が心配なのですね」
「あ……」
皆から優しく温かい眼差しを向けられて、俺ははっとする。
「大丈夫、ダンテ殿は強い方ですからな」
「何事もなく帰ってきてくれますとも」
それぞれに励まされて、うつむいていた顔を上げた。
(……駄目だ俺、皆が危険を冒してまで俺をかくまって、それでいて笑顔で歓迎してくれてるのに、暗い顔ばっかりして)
前世から続く自分の弱気な部分を振り払うように、首を横に振る。心を強く持って、この異世界を生き抜くと己に誓ったのをもう忘れたのかと、自分を窘めた。
「信じます、ダンテさんのこと……必ず、すぐにまた会えるって」
俺が笑みをみせて言うと、こびと達も嬉しそうに微笑み返してくれた。
「さあ、食べましょう食べましょう。おなかがいっぱいになったら、きっと不安な気持ちも薄れて元気になれましょう」
「自慢のカボチャスープ、冷めないうちに召し上がってくだされ」
「このハムは、ダンテ殿がお裾分けしてくれた獲物から作ったものなのですよ」
歓談と共にはじまる暖かな夕食。その和やかな雰囲気に、ふと、前世の食卓風景を思い浮かべてしまった。
『――雪斗、今日は貴方の好きなカレーよ』
『――雪斗も辛口が食べれるようになったのか、なんだか感慨深いな』
(……父さん、母さん)
転生の衝撃、めまぐるしく様々な事件が起こるこの数日の慌ただしさの中で忘れていた、もうきっと会えない両親の顔を思い出し、きゅうと胸が締め付けられる。……今頃、どうしているんだろう。きっと、俺の死にひどく悲しんで、泣いて、傷ついている。
(俺は、生きてるよ。世界線は違うけど……頑張って生きてるんだ、父さん、母さん)
涙がこぼれ落ちそうになって、必死にこらえる。やがて食事が終わり、皆が寝静まった頃になると、俺は用意して貰った布団にくるまり、枕に顔を埋め声を押し殺して号泣した。
――前世は、辛いこともたくさんあったけど、幸せな思い出もたくさんある。
いつも俺を愛してくれた両親。でも、夏樹への失恋も含め……男だけど男が好きな自分のことが苦しくて、女の子が好きだとように振る舞うべきなのかと悩み、窮屈な思いにずっと縛られていた。
(絶対、幸せになってみせるから。俺はもう迷わない。後悔しないように強く生きて、そして……)
今度こそ、今世こそ、自分が夢見るような恋愛をするのだと、再び強く胸に誓い、俺はやがて泣き疲れて眠りに落ちていった。
「スノウ様、ささ、お座りください」
「スープが温かい内にいただきましょう」
こびと達は、ダンテの急な頼みを二つ返事で引き受け、快く俺を歓迎してくれた。
「じゃあ、すまないが、スノウのことは頼んだ。俺はまたすぐに王都に戻らなくちゃならないからな」
入り口から家の中をのぞくようにしてダンテが言うのに、こびと達は胸を張って答える。
「お任せください、ダンテ殿」
「ダンテ殿の頼みとあれば!!」
「あの時の恩を返させていただきますぞ」
「――ありがとな、みんな」
微笑むダンテに、キュンとする。行って欲しくない、引き留めたいという気持ちで一杯になるが、すぐに閉じてしまう扉に、俺はシュンと肩をすぼめた。
――彼はこれから、俺を殺したことにするための工作をするのだ。妃はダンテに命じたらしい、スノウを殺したら、その証拠に心臓を城に持ち帰ってくるようにと。
『俺はこれから、森で獣を狩ってくる。その心臓を……坊主のだってことにして妃に提出するんだ』
そんな簡単な事ではバレるのではないかと一瞬思ったが、この中世世界らしい白雪姫ワールドの医学レベルじゃ、ましてや専門家でもなんでもない妃には、人間と獣の心臓の見分けなんてつかないに違いない。
『か、必ず生きて帰ってきてくださいダンテさん、俺、ダンテさんのこと待ってますから』
俺が心配しダンテに縋り付いてそう言った時、彼はニッと笑って俺の頭を撫でた。
『ははッ、心配しすぎだ。でも、ありがとな。すぐ戻ってくるから、皆と待っててくれ』
(……ダンテさんはああ言ってたけど、やっぱり心配だ。だって、俺が知ってる白雪姫では、姫を逃がした後の狩人がどうなるのか明らかにされていない)
不安で、気分が落ち込む。……すると、こびとの一人がそっと俺の肩をたたいてきた。
「――スノウ様、ダンテ殿が心配なのですね」
「あ……」
皆から優しく温かい眼差しを向けられて、俺ははっとする。
「大丈夫、ダンテ殿は強い方ですからな」
「何事もなく帰ってきてくれますとも」
それぞれに励まされて、うつむいていた顔を上げた。
(……駄目だ俺、皆が危険を冒してまで俺をかくまって、それでいて笑顔で歓迎してくれてるのに、暗い顔ばっかりして)
前世から続く自分の弱気な部分を振り払うように、首を横に振る。心を強く持って、この異世界を生き抜くと己に誓ったのをもう忘れたのかと、自分を窘めた。
「信じます、ダンテさんのこと……必ず、すぐにまた会えるって」
俺が笑みをみせて言うと、こびと達も嬉しそうに微笑み返してくれた。
「さあ、食べましょう食べましょう。おなかがいっぱいになったら、きっと不安な気持ちも薄れて元気になれましょう」
「自慢のカボチャスープ、冷めないうちに召し上がってくだされ」
「このハムは、ダンテ殿がお裾分けしてくれた獲物から作ったものなのですよ」
歓談と共にはじまる暖かな夕食。その和やかな雰囲気に、ふと、前世の食卓風景を思い浮かべてしまった。
『――雪斗、今日は貴方の好きなカレーよ』
『――雪斗も辛口が食べれるようになったのか、なんだか感慨深いな』
(……父さん、母さん)
転生の衝撃、めまぐるしく様々な事件が起こるこの数日の慌ただしさの中で忘れていた、もうきっと会えない両親の顔を思い出し、きゅうと胸が締め付けられる。……今頃、どうしているんだろう。きっと、俺の死にひどく悲しんで、泣いて、傷ついている。
(俺は、生きてるよ。世界線は違うけど……頑張って生きてるんだ、父さん、母さん)
涙がこぼれ落ちそうになって、必死にこらえる。やがて食事が終わり、皆が寝静まった頃になると、俺は用意して貰った布団にくるまり、枕に顔を埋め声を押し殺して号泣した。
――前世は、辛いこともたくさんあったけど、幸せな思い出もたくさんある。
いつも俺を愛してくれた両親。でも、夏樹への失恋も含め……男だけど男が好きな自分のことが苦しくて、女の子が好きだとように振る舞うべきなのかと悩み、窮屈な思いにずっと縛られていた。
(絶対、幸せになってみせるから。俺はもう迷わない。後悔しないように強く生きて、そして……)
今度こそ、今世こそ、自分が夢見るような恋愛をするのだと、再び強く胸に誓い、俺はやがて泣き疲れて眠りに落ちていった。
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