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第三話・こびとの家

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 城の外まで連れて行かれた俺は、狩人によって焦げ茶色の美しい毛並みをした馬に乗せられた。俺が前、手綱を握る狩人が後ろの二人乗りで、背後から抱きしめられるようなその格好に、俺はどうしようもなくドキドキしてしまう。

 硬い腕や、背中に触れる彼の逞しい胸筋に俺の中の筋肉フェチが黄色い悲鳴を上げている。

「あ、あの、お名前……なんて言うんですか」

 俺がもじもじしながらそう尋ねると、彼は馬をゆっくりと歩かせ始めつつ、少しの間を開けて答えてくれた。

「ダンテだ。ダンテ=エーキル」

「ダンテさん……」

(名前までかっこいい……!!)

 頬を赤く染め、怖がる様子もなく一人でキャッキャしてる俺に、ダンテは怪訝な声音で言う。

「……坊主、怖くないのか? これから俺に殺されて、森に捨てられるんだぞ。あのお妃さんから聞いただろ」

「えっ? あー……」

 この世界が白雪姫の物語通りに進むなら、これから彼は俺を殺さずに逃がしてくれるはず。そう思ってあまり恐れていなかったのだが、そんな俺の様子は転生という事情を知らない者が見るとかなり“異常”なのかもしれない。

「っその……あんまり、実感がわいてないというか。いくら妾の子で憎いからと言っても、一応家族ですし……殺せなんて命令、するはず無いって信じてたので」

 俺がそれらしい理由をつけて言えば、ダンテはグッと手綱を握りしめ、深くため息をついた。

「……っあの魔女。こんな純粋な子供を、殺して捨てろだと」

 悔しそうな、苦しそうなその声に、胸を打たれる。真っ直ぐな正義感が眩しい。

(――どうしよ、物語かなり改変しちゃうけど……俺、まだ見ぬ王子様よりダンテさんが良い!!)


―――――


 空が夕陽に赤く照らされる頃。俺の遺体が捨てられる予定の森に入ると、ダンテは俺と共に馬を下り、綱を近くの木にくくりつけた。

「……ここで、殺すんですか」

 我ながら白々しいと思いながらもそう尋ねると、ダンテは静かに首を横に振った。

「……いや、殺さない。こんな非道な命令、いくら王族の命令だとしても実行してやるつもりなんて端から無かったんだ」

 来い、と手を引かれて、森の中を歩いて行く。夕暮れの森で手つなぎデート、などと浮かれる俺の前にやがて現れたのは、小さな木造の家だった。

(――ここって、もしかして!!)

 俺の予想はすぐに当たった。家の中からひょっこりと出てきたのは、7人のドワーフ――“白雪姫と言えば”のこびと達。

「よう、久しぶり」

 ダンテが微笑んで声をかけると、こびと達はぱぁ、と明るい笑顔を見せた。

「おお、ダンテ殿ではないですか」

「ダンテ殿、夕食を食べていきませんか」

「こちらの綺麗な御人は?」

(ダンテさん、慕われてるんだなぁ……)

 わらわらと寄ってくるこびと達のその可愛らしいサイズ感に、つい頬が緩んでしまう。

「こいつは、スノウ=ヴォルテン。噂は聞いたことあるだろ、“白雪王子”だ」

 ダンテの言に、こびと達は目を丸くして驚く。

「あ、す、スノウです、よろしくお願いします」

 へらりと笑う俺。――次の瞬間、ダンテはこびと達に深く頭を下げていた。

「――いきなりこんなことを頼んで申し訳ない。だが、頼む。この子をここに住まわせてやってくれないか」
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