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1巻
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しおりを挟む「そうですか。ではもし北海道を旅行することがあれば、ご相談させていただきます」
加藤室長は、仕事の時よりもいくぶん柔らかい口調でそう言った。
二時間の歓迎会を終えて自宅に帰宅した私は、洗面台の前に立ち、メイクを落とした。今日は、みなさんと色んな話ができて楽しかったなぁ。戸惑うこともあったけど、加藤室長が助けてくれたし……室長は仕事ができるだけじゃなくて、部下を気遣ってくれる人なんだ。
改めて加藤室長のすごさを感じていた、その時。
『――ぁっ、あっん。あっ……』
今日もお隣さんから声が聞こえてきた。女性の声は、数日前に隣から聞こえてきたものとは違う。
色んな女性の声が聞こえてくるたびに、私は浮気をされた経験を思い出し、色々と考えてしまう。遊ばれた人がどんなに傷ついて悲しむのか、女性を取っ替え引っ替えするような男性にはわからないのだ。
そこまで考えると、余計に苛々する。他人の事情だから気にしちゃいけないんだろうけど、なんせ壁が薄い。
次の日の朝、出勤するために部屋から出ると、ちょうど隣の部屋からも女の人が出てきた。
一度見かけたことがある、細くて眼鏡をかけている可愛らしい子だった。
「お、おはようございます」
私と目が合うと、女の子は恥ずかしそうに挨拶をしてくれた。
あんなピュアっぽい子が、遊ばれて悲しむ姿を想像すると切なくなってくる。
ピュア子ちゃん、頑張れ、と私は勝手に彼女にあだ名をつけてエールを送った。
歓迎会を開いてもらってから、職場のメンバーと距離が近づいたように思える。あれから一週間が過ぎ、相変わらず私は忙しい毎日を送っていた。
職場に到着すると、最初に確認するのはみなさんのスケジュール。
今日は、板尾リーダーも安藤マネージャーも瀬川マネージャーも外勤でいない。
加藤室長は会議があるらしく、出たり入ったりする予定になっている。一人で電話番をするのは自信がなく、緊張しながら過ごしていたら、あっという間に昼休憩になった。
節約のために作ってきたお弁当をロッカーから取り出して、デスクの上で広げると経営会議から加藤室長が戻ってきた。
「星園さん、お疲れ様です。お留守番ありがとうございました。何もありませんでしたか?」
「はい。特に何もありませんでした」
私が答えると、加藤室長は頷いて、目を細めて微笑んでくれる。
「今日はお弁当なんですね」
加藤室長はそう言って、私のお弁当を覗き込んだ。
「美味しそうですね。手作りですか?」
「はい。簡単な物しか入っていませんけど」
「実は自分も弁当なんです」
「そうなんですね! では、一緒に食べませんか?」
予想外の誘いだったのか、加藤室長は驚いた表情をしている。
急に不躾だったかな、と慌てると、彼は優しい瞳になって言った。
「ゆっくり話す機会もなかったですしね。しかし、こんなおじさん上司と一緒に食べるなんて、嫌じゃありませんか?」
「加藤室長は、おじさんなんかじゃありません」
私はやや強い口調で否定した。すると、加藤室長は自分のロッカーからお弁当袋を取り出し、私の隣に座る。
「ではお言葉に甘えて、ご一緒させていただきます」
どんなお弁当なのだろう。気になって、つい彼のお弁当を見つめてしまう。
シルバーのお弁当箱の蓋を開けると、色鮮やかな野菜が入っていた。
冷凍食品を詰めただけではないということがすぐわかった。これは間違いなく手作り弁当だ。
……誰に作ってもらったんだろう。彼女がいないという噂だけど、本当はいるのかもしれない。
私があまりにも凝視しすぎたので、加藤室長が不思議そうに首を傾げる。
「何か?」
「いえっ、美味しそうなお弁当ですね」
「ありがとうございます」
加藤室長は嬉しげに頬を緩めた。
彼女の手作り弁当を褒められて、いい気分なのかもしれない。
「星園さんは、料理は好きですか?」
「嫌いではありませんが、私の場合、節約するために作っているので」
「そうですか。でも、色のバランスもいいですし、美味しそうですよ」
「そう言っていただけると嬉しいです」
加藤室長とは、意外にも会話が続いた。
とても仕事ができる人なので、話が合わないかもと勝手に決めつけていたが、案外、波長が合う気がする。
加藤室長が大人だから、話を合わせてくれたのかもしれないけれど……
「午後からも不在にしてしまいますが、留守をよろしくお願いします」
「わかりました。お任せください」
食事を終えると、加藤室長はまた出かけてしまった。
経営管理チームには、私ひとりぼっちだ。静かな空間の中パソコンに向かっていた。集中していると、気がつけば時間が経過しもう夕方だ。
加藤室長は会議で遅くなるため、定時になったら上がっていいと言われている。今日やらなければいけない仕事はほとんど終わっているから、このまま定時で退社しよう。
しかし、あともう少しで帰れるという時に電話が鳴った。
「経営管理チーム、星園です」
「Hello……」
突然、電話の相手が英語でペラペラと話し始めたので、固まってしまう。
何を言っているのかはなんとなくわかるが、どう答えたらいいのか咄嗟に出てこない。
「ソーリー、あ……えっと」
私がちゃんと対応できないせいで、通話相手がどんどんヒートアップしていく。
「ソーリー……、プリーズ……。コールバックオッケー?」
自分のわかる単語を並べて話すが、相手はかなり急いでいる様子で、イライラしているのが伝わってくる。専門用語らしき英語を並べられて、動揺して心臓の鼓動が速くなる。
……ど、どうしよう。
その時、タイミングよく加藤室長が戻ってきた。助けを求めて視線を向けると、彼は異変に気がついて、すぐに電話を代わってくれた。
流暢な英語で対応する姿に、安堵を覚え体の力が抜けていく。
電話を終えると、加藤室長が安心させるように頷いた。そんな彼に、私は素早く頭を下げる。
「申し訳ありません。ちゃんと私が対応することができなかったので、怒らせてしまいました」
「いえ、一人にさせて申し訳なかったです。それに相手が怒っていたのは、あなたのせいではありません」
加藤室長はいつもと変わらずクールだ。
「本日届いていなければいけない大事な資料を、送信していなかったらしい。それで激怒していたようです。申し訳ないですが、残業して資料作りを手伝ってもらえませんか?」
「は、はい!」
こんな私でも役に立てるのなら、残業なんてお安い御用だ。加藤室長が私の席の隣に立ち、指示をする。
「共有フォルダーを開いてください」
「はい」
「この資料のA列とC列に数字を打ち込んでいってほしい。五千列ほどあります。これを入れ終えたら、表を作ります」
「わかりました」
「お客様はとにかく急いでいるので、二人で力を合わせてなるべく早く送信しましょう」
「はい」
「自分はもう一つのファイルから始めます」
加藤室長はテキパキと作業に取りかかる。
私も、眠気も時間も忘れて一心不乱に打ち込んでいく。
メイクが落ちてボロボロの顔になっているだろうけれど、そんなこと気にしていられなかった。
「終わりました。ダブルチェック、お願いします」
「では、星園さんはこちらのファイルの確認を頼みます」
やっと提出できる状態になった時、空はもう明るくなっていた。
会社に泊まって残業したのは初体験だ。
加藤室長が資料をチェックしてくれる横で、達成感と安堵でうとうととしてしまう。
……あぁ、もう限界。
まぶたが下りて、頭がカクンと落ちる。
はっと気がついた時、加藤室長がコーヒーを差し出してくれた。
「すみません、眠ってしまいました」
「朝まで付き合わせてしまって、申し訳なかったです」
ブラックコーヒーの湯気が上がっていて、いい匂いがする。
砂糖が二本置かれたので、弾かれたように顔を上げた。
「君は甘いのが好きそうだから」
「大当たりです。大好物はチョコレートです。いただきます」
砂糖をたっぷり入れた甘いコーヒーを飲んで、ほっとした気持ちになる。
「相手とも連絡が取れて、怒りが収まっていたようです。星園さんがいてくれて本当に助かりました」
彼は、席に戻ると椅子に少し深く座った。
銀縁の眼鏡を外して、眉間にしわを寄せている。目が疲れているのかもしれない。
それはさておき……加藤室長は眼鏡を外してもイケメンだ。
朝起きて、こんな美しい顔が間近にあったら朝からとろけてしまいそう。
「一度家に帰って仮眠を取ってきてもいいですよ」
「お風呂に入らないと、ちょっと臭いですかね」
「え?」
思いもよらぬ反応だったのか、加藤室長がクスッと笑った。
「面白いことを言いますね」
「……そうですか?」
きょとんとして見ると、加藤室長は頬を少し緩めたまま、スマホを取り出した。
「近くに入浴施設があるかもしれないので、調べてみます」
長い時間二人きりで仕事をしていたためか、なんとなく距離が縮まったような気がする。
真面目で、優しくて、冷静で……もし加藤室長みたいな人が彼氏だったら、穏やかな時間が過ごせそうだ。
ついそんなことを考えていると、私の視線に気がついた加藤室長が首を傾げる。
「何か?」
「い、いえ」
何考えてるの、私! 加藤室長には、手作り弁当を作ってくれる彼女さんがいるじゃない。
どんな人とお付き合いしているのだろうと想像し、ちくんと胸が痛む。
私は加藤室長に近づいて、いつも携帯しているチョコレートを一つ、彼のデスクの上に置いた。
すると彼は、不思議そうに私を見つめた。
「加藤室長も疲れていると思うので、休憩してくださいね。ではちょっと外出してきます」
加藤室長が、ふわりと優しい笑みを浮かべ頷く。
「ああ、ありがとう」
部署から出て廊下へ出ると、心臓がトクトクと鼓動を打っていた。
いつも厳しい顔をしている人がたまに見せる笑顔って、破壊力がある。加藤室長の彼女は、彼のそんなギャップに惚れたのだろうか。
また痛みだす胸に気づかない振りをして、私はスマホでシャワーを浴びられるところを探す。近くにシャワー室のあるネットカフェがあり、急いで向かった。
始業時間に間に合うように会社に戻ると、加藤室長が板尾リーダーに昨日あったことを報告している。どうやら板尾リーダーの担当しているお客様だったらしい。
自分の席に座った板尾リーダーが、申し訳なさそうに両手を合わせてきた。
「鈴奈ちゃん、残業してくれたんだってね。迷惑をかけちゃって本当にごめん」
突然下の名前で呼ばれたのは驚いたが、そこはどうでもいい。
いつも元気な板尾リーダーが困った顔をしている。
「いえ、お役に立ててよかったです。元気出してください」
私はチョコレートを一つ、板尾リーダーのデスクの上に置く。ミスは誰にでもあることだし、あまり気を遣ってほしくなかった。
「ありがとう。鈴奈ちゃんっていい子だなぁ」
感激といった様子の彼に苦笑いをして、私はパソコンに向かった。
仕事をしながら、昨夜のことを思い出す。
私の英語能力がもっと高ければ、電話の相手を早く落ち着かせることができたかもしれない。最近は忙しい日々を送っていて、英語の勉強から遠ざかっていた。これを機にもう一度、本腰を入れて勉強するべきかもしれない。
早速週末にテキストを買い、休憩時間や仕事帰りを使って少しずつだが勉強を始めた。
今日のお昼休憩は自分のデスクで過ごし、テキストを開いていた。そこへ板尾リーダーが戻ってきて、私に話しかけた。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
ホワイトボードに書かれていた休憩という文字を消すと、板尾リーダーがテキストを覗き込んでくる。
「英語の勉強をしているの? 鈴奈ちゃんは偉いね」
「この前のことがあったので、しっかり学び直そうと思いまして」
「偉い」
板尾リーダーが柔和な笑みを浮かべて、私の頭をポンポンと撫でる。その時、加藤室長が入ってきた。
「加藤室長お疲れ様です。鈴奈ちゃん、英語の勉強してるんですよ」
「そうですか。頑張っていますね」
加藤室長と目が合い、咄嗟に目をそらしてしまう。
頭を撫でられたところを見られてしまった。なんだか、気まずい……
しかし、加藤室長は大して気にしていない様子で、さっさと室長室に入っていく。そんな彼の姿に、私は何故か落ち込んでしまうのだった。
その日、仕事を終えたのは夜二十一時。
経営企画室はほとんどの社員が帰っていて、フロアが暗くなっている。だが、室長室の明かりは煌々と輝いていた。
経営管理チームでは、私が最後だ。
帰る準備をしてから室長室のドアをノックし、応答の後、扉をそっと開く。中には、眉間にしわを寄せて難しい表情をしている加藤室長がいた。
加藤室長は、元々鋭い瞳をしているので、余計に怖い顔に見えてしまう。
「お疲れ様です。そろそろ退社しようと思いますが、他にやることはありませんか?」
「ありがとうございます。本日やっていただくことはもうありませんので、気をつけて帰ってください」
「はい。失礼します」
私は扉を閉めると廊下に出たが、数歩進んで立ち止まる。
加藤室長って、いつも一番早く来て一番遅くに帰っている。
いつ休んでいるのだろう。ちゃんと休息をして、癒しの時間はあるのだろうか?
無性に心配になってしまい、再び室長室へ向かう。もう一度ドアを叩いて、中に入った。
「どうかしましたか?」
不思議そうな加藤室長に近づき、鞄からチョコレートを取り出す。
「難しそうな表情をなさっていたので、気になってしまって……。私には想像ができないほど大変な仕事をされていると思いますが、少しだけでもいいので休憩してください」
言い終えた後、私は顔がだんだん熱くなるのを感じた。
私ったら、上司に対してなんてことを言っているのだろう。失礼すぎる!
加藤室長はしばらく無言で私を見つめると、小さく笑った。
「星園さんは優しいんですね」
「あ、あの、とてもお疲れだったように見えたので……。余計なことをしてしまい、申し訳ありません」
消えそうな声で呟く。すると、加藤室長はおもむろに口を開いた。
「先日、板尾リーダーにもチョコレートを渡していましたよね」
とても落ち込んでいたから渡したのだけど、まさかそこも見られていたと思わなかった。
「チョコレートなんかで元気になってもらおうと考えるなんて、幼稚ですよね」
苦笑いしながら私が言うと、部屋の空気が一瞬変わった気がした。
「男は優しくされると弱い。チョコレートでも他のものでも関係なく、気にかけてくれると心が奪われてしまうことがあるのですよ。板尾リーダーがえらく星園さんを気に入っているようなので……すみません。余計なことを言ってしまって」
加藤室長が、私と板尾リーダーのことをそんなふうに見ていたとは意外だった。驚いて目を瞬かせると、加藤室長は耳を真っ赤にして眼鏡を中指で上げる。
「星園さんは純粋で無邪気なところがあるので、親心で心配してしまいました」
「えっ?」
……親心って。なにそれ、変なの。
私はおかしくなって笑ってしまう。
クールな加藤室長と言われているけれど、今の発言、お母さんみたい。
「加藤室長って、いい人ですね」
「はい?」
「あまり無理しないでください。糖分を取ると少し体が楽になるので、もしよければどうぞ。では、失礼します」
明るく挨拶して、私は室長室を後にした。
家に帰る途中、私はずっと加藤室長のことを思い浮かべていた。
いつもはクールで冷静な加藤室長だけど、時々優しい笑みを見せてくれたり、さっきみたいに少し変なことを言ったりする。毎日、彼の新たな一面を発見できるのは、正直かなり嬉しい。
九歳も年下だと恋愛対象外だろうか。……いや、そもそも、加藤室長は部下をどうにかしようなんてきっと考えないと思う。
どうして自分の心は、こんなにも加藤室長に支配されてしまっているのだろう。
帰り道、ビルの間から見える狭い夜空を眺めながら、私はまた小さな胸の痛みを覚えるのだった。
次の日は休日だったので、私は朝から出かけることにした。
おしゃれな街並みを歩いたり、ネットで評判のカフェでお茶をしたり。
ほとんどの友人が札幌にいるため、一人で出かけなければいけないのがちょっと寂しいけれど、東京には楽しいものがいっぱいある。
今度、東京タワーを見たい。展望台に行って東京の景色を眺めたいな……
それに、古い商店街にも行ってみたい。
慣れたら新幹線で愛知とか大阪とかへプチ旅行したい。
次から次へとやりたいことが溢れてくる。
仕事は大変だけど、楽しみが多いので張り合いがあるのだ。
すっかりリフレッシュした私は、アパートの近くのスーパーで一週間分の食材を買って、家に戻ることにした。
平日は忙しくてなかなか料理をする時間がないので、作り置きできるものは作って冷凍しておこう。そうすると温めるだけで食べられるから便利なのだ。
特売品を選びながら材料を購入して、エコバッグに詰めてスーパーを出た。
もう少しで家に到着するという時、私の隣の部屋のドアが開き、反射的に隠れた。引っ越してから大分経ったが、未だに例の隣人の姿を目にしたことはない。
どんな人が出てくるのだろうと、私はゴクリと唾を呑み込みながらこっそり盗み見る。
「……どういうこと?」
心臓が止まるかと思った。驚きのあまり呼吸することを忘れてしまう。
隣の部屋から出てきたのは――加藤室長だった。
見間違えていないかと何度も瞬きするが、間違いない。
グレーのロングコートを着ていて、いつもと同じ銀縁の眼鏡をしている。
駅のほうに向かって歩いていく加藤室長の背中を、物陰に隠れたまま見送った。
夢であってほしい。
女の人を取っ替え引っ替えしていた隣の人が、加藤室長だったなんて信じられない。
夜を共にする大勢の女性の中にも、本気で加藤室長のことを愛している人もいるだろう。きっと、以前挨拶してくれたピュア子ちゃんがそうだ。真面目な雰囲気で、男遊びをするタイプには見えなかった。
私は思わず自分とピュア子ちゃんを重ね、胸が痛くなる。
加藤室長は会社ではパーフェクトな上司だ。けれど、女性を悲しませるなんて絶対にやってはいけないこと。彼の悪い側面を知ってしまった私が正さなければ、負の連鎖が続き、悲しむ人が増えてしまう。
私は加藤室長を懲らしめることを誓った。
第三章 人には言えない秘密がある
――加藤室長が隣の部屋の住人だった。
一昨日見た光景が信じられないまま、月曜日の朝になってしまった。
憂鬱な気持ちで鏡を覗き込み、メイクをする間も私の頭の中は加藤室長のことでいっぱいである。
お隣さんは、二日に一回程度の頻度で情事を重ねている。特に真夜中に声が聞こえてくることが多い。
加藤室長は私よりも遅く退社している。なので、遅い時間になってしまうのだろう。
自宅から会社まで三十分あれば出社できるので、ボロボロなアパートだが便利ではある。
でも、加藤室長クラスの人がわざわざこんなところに住まないと思う。
……セカンドハウス?
ああ、どんな顔をして加藤室長と会えばいいのだろう。
彼は日頃ストイックに仕事に取り組んでいるから、どこかで発散しないとバランスが保てないのかもしれない。そうだとしても、彼は人としてやってはいけないことをしている。
なんであの加藤室長がそんな最低な行為を……
私は、絶望的な気持ちのまま家を出た。
会社に到着して部署に入ると、加藤室長と目が合い、私は思わず後ずさりした。加藤室長は不思議そうな表情で近づいてきて、私の顔を覗き込む。
頬が熱くなり、心臓がドクンと動く。
「お、おおお……、おはようございます」
「おはようございます。顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
「ちょっと寝不足でして」
まさか、加藤室長のことを考えていたなんて言えない。
「そうですか。だんだんと冷え込んできましたので、風邪を引かないようにしてください」
「ありがとうございます」
加藤室長は心配そうに私を見つめると、眼鏡を中指でクイッと上げて室長室へ消えていく。
彼とちょっとでも会話するのが密かな楽しみだったけれど、職場にいる加藤室長は仮面を被っているのだ。真面目な姿に騙されてはいけない。
女の人を悲しませている男の人には、痛い目を見せて学習させないと。何様って思う人もいるかもしれないが、傷つく女性をもう増やしたくない。
でも、どうやって加藤室長を懲らしめたらいいの?
考えても、いいアイディアが浮かばない。
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