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239、一人でお散歩。
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屋敷の玄関前で、一人の女性の唸り声が響いていた。
その正体は彼女の物であり、目の前にはフンスフンスと気合を入れている少女が。
胸元で両手を合わせて祈りを捧げる様なポーズで彼女を見上げており、その様子を見た彼女は殊更唸りはじめ、天井を見上げながら眉を顰めている。
「うーん・・・一人で行きたい、かぁ・・・ん゛~~~」
一体何を唸っているかと言うと、少女が犬の散歩を一人で行きたいと言い出したのだ。
因みに犬は隣で大人しくお座りしている。
確かに最近少女に何かを一人でやらせる、という事をしていない。
だが彼女にとって散歩は数少ない少女の占有時間である。
普段から雑用多めで犬の散歩も彼女が行っており、だからこそ少女と良く散歩に行っても大して文句を言われないのだから。
だけど少女は完全にやる気満々でリードを持っており、駄目と言える雰囲気ではない。
そもそも犬の散歩程度なら近辺をちょろちょろと歩くだけである。
危険もそう滅多に無いし、少女ならば万が一でもどうにかしてしまうだろう。
だが、だがだ、たとえそうだとしても認めたくない。
ただでさえ最近は他の皆も良く少女を構うから、前より構えなくなっているのだ。
今は少女が人懐っこい子供だから良い。だが子供の成長はあっという間だ。
懐いてくれる可愛い時期に、少しでも構う機会は逃したくないと、彼女は悩んでいた。
数年経っても大して成長していない気がするが、それは取り敢えず棚上げである。
「どうしても、一人で行くの?」
彼女の問に、気合いを入れてコクコクと頷く少女。
最早頭の中は一人でお仕事したい、という考えでいっぱいである。
犬の散歩程度を仕事とカウントして良いのかは悩みどころではあるが。
とはいえ飼い主である男が自ら散歩に行く事は少ない、どころかここ数年していない。
それを考えれば立派な仕事と言えなくも無いだろう。多分。
「良いぞ、行って来い」
「あ、せ、先輩・・・」
そこに何時の間にか彼女の背後に立っていた女が許可を出し、少女はわーいと嬉しそうに女の腰に抱きつく。
女は眉間に皺を寄せながら、その代わりと一人で出歩く注意事項を伝えていた。
彼女はそれを横で少し悔しそうに見ていたが、しょうがないかと諦めた様だ。
「じゃあ、気を付けて行って来い」
女に見送られ、はーいと手を上げて元気よくパタパタと出て行く少女。
犬もやっとお散歩だと少女の横を跳ねる様に付いて行く。
そのまま何時ものお散歩ルートに向かい、犬とじゃれながらきゃっきゃと歩く少女。
犬も何だか普段と違う感じがして少々テンションが高い様だ。
「あら、こんにちは。今日は一人なのねぇ」
そこに散歩仲間の老婆と小型犬が通りかかり、少女はぺこりと頭を下げて挨拶を返す。
ニパーッと笑顔を見せる少女に老婆もニコニコと笑い、優しく少女の頭を撫でていた。
足元では小型犬が「僕は? ねえ僕は撫でないの?」という様子で待っている。
なので少女はしゃがんで小型犬をわしゃわしゃと撫でると、小型犬はお腹を見せて尻尾を勢い良く降り始めた。
「ふふ、仲良しさんねぇ」
少女は小型犬のお腹をわしゃわしゃと撫でながら、老婆の言葉ににへーと嬉しそうに笑う。
犬も混ざって鼻先で小型犬のお腹を突いており、相変わらずこちらも仲が良い。
暫くわしゃわしゃと撫でた後、また老婆にひと撫でされてから、ばいばーいと手をぶんぶんと降って別れる少女。
そうして散歩を再開し、ぽってぽってとご機嫌に歩みを進める。
暫く歩くと少女はうずうずとした様子を見せ、我慢しきれずにキャーっと走り出した。
当然犬もわーいと横を走ってついて行き、止める者が居らず際限なく走り続ける一人と一匹。
大型犬ならではの脚力と体力で走る犬と、当然の様に同じ速さで走る少女。
キャッキャと可愛らしい様子ではあるが、その速度は決して可愛らしくない。
田舎の見通しの良い道だから良いが、街中なら確実に交通事故に遭っているだろう。
そんなこんなで全力で散歩をし、満足気に屋敷に帰る少女と犬であった。
「ああ、角っこちゃん、前見て前!」
「あ、こけた」
「わ、凄い、途中で跳ね上がって・・・あ、またこけた」
「くう、早すぎて前から撮れない・・・!」
因みにその散歩の様子はドローンで撮影されていた。
実は女が出発を許可する前に、羊角に命じていたのだ。
相変わらず過保護であるが、少女故に致し方ない。
最近しっかりして来たが、それでも時々やらかすのだから。
「皆楽しそうだね」
「ええ、まあ、何時もの事です」
モニター前でわっちゃわっちゃと騒いでいる皆を、少し離れた所で優しい目を向ける虎少年。
ただ少年は少し残念な物を見るような目を向けているが、少年も大体似た様な物である。
その正体は彼女の物であり、目の前にはフンスフンスと気合を入れている少女が。
胸元で両手を合わせて祈りを捧げる様なポーズで彼女を見上げており、その様子を見た彼女は殊更唸りはじめ、天井を見上げながら眉を顰めている。
「うーん・・・一人で行きたい、かぁ・・・ん゛~~~」
一体何を唸っているかと言うと、少女が犬の散歩を一人で行きたいと言い出したのだ。
因みに犬は隣で大人しくお座りしている。
確かに最近少女に何かを一人でやらせる、という事をしていない。
だが彼女にとって散歩は数少ない少女の占有時間である。
普段から雑用多めで犬の散歩も彼女が行っており、だからこそ少女と良く散歩に行っても大して文句を言われないのだから。
だけど少女は完全にやる気満々でリードを持っており、駄目と言える雰囲気ではない。
そもそも犬の散歩程度なら近辺をちょろちょろと歩くだけである。
危険もそう滅多に無いし、少女ならば万が一でもどうにかしてしまうだろう。
だが、だがだ、たとえそうだとしても認めたくない。
ただでさえ最近は他の皆も良く少女を構うから、前より構えなくなっているのだ。
今は少女が人懐っこい子供だから良い。だが子供の成長はあっという間だ。
懐いてくれる可愛い時期に、少しでも構う機会は逃したくないと、彼女は悩んでいた。
数年経っても大して成長していない気がするが、それは取り敢えず棚上げである。
「どうしても、一人で行くの?」
彼女の問に、気合いを入れてコクコクと頷く少女。
最早頭の中は一人でお仕事したい、という考えでいっぱいである。
犬の散歩程度を仕事とカウントして良いのかは悩みどころではあるが。
とはいえ飼い主である男が自ら散歩に行く事は少ない、どころかここ数年していない。
それを考えれば立派な仕事と言えなくも無いだろう。多分。
「良いぞ、行って来い」
「あ、せ、先輩・・・」
そこに何時の間にか彼女の背後に立っていた女が許可を出し、少女はわーいと嬉しそうに女の腰に抱きつく。
女は眉間に皺を寄せながら、その代わりと一人で出歩く注意事項を伝えていた。
彼女はそれを横で少し悔しそうに見ていたが、しょうがないかと諦めた様だ。
「じゃあ、気を付けて行って来い」
女に見送られ、はーいと手を上げて元気よくパタパタと出て行く少女。
犬もやっとお散歩だと少女の横を跳ねる様に付いて行く。
そのまま何時ものお散歩ルートに向かい、犬とじゃれながらきゃっきゃと歩く少女。
犬も何だか普段と違う感じがして少々テンションが高い様だ。
「あら、こんにちは。今日は一人なのねぇ」
そこに散歩仲間の老婆と小型犬が通りかかり、少女はぺこりと頭を下げて挨拶を返す。
ニパーッと笑顔を見せる少女に老婆もニコニコと笑い、優しく少女の頭を撫でていた。
足元では小型犬が「僕は? ねえ僕は撫でないの?」という様子で待っている。
なので少女はしゃがんで小型犬をわしゃわしゃと撫でると、小型犬はお腹を見せて尻尾を勢い良く降り始めた。
「ふふ、仲良しさんねぇ」
少女は小型犬のお腹をわしゃわしゃと撫でながら、老婆の言葉ににへーと嬉しそうに笑う。
犬も混ざって鼻先で小型犬のお腹を突いており、相変わらずこちらも仲が良い。
暫くわしゃわしゃと撫でた後、また老婆にひと撫でされてから、ばいばーいと手をぶんぶんと降って別れる少女。
そうして散歩を再開し、ぽってぽってとご機嫌に歩みを進める。
暫く歩くと少女はうずうずとした様子を見せ、我慢しきれずにキャーっと走り出した。
当然犬もわーいと横を走ってついて行き、止める者が居らず際限なく走り続ける一人と一匹。
大型犬ならではの脚力と体力で走る犬と、当然の様に同じ速さで走る少女。
キャッキャと可愛らしい様子ではあるが、その速度は決して可愛らしくない。
田舎の見通しの良い道だから良いが、街中なら確実に交通事故に遭っているだろう。
そんなこんなで全力で散歩をし、満足気に屋敷に帰る少女と犬であった。
「ああ、角っこちゃん、前見て前!」
「あ、こけた」
「わ、凄い、途中で跳ね上がって・・・あ、またこけた」
「くう、早すぎて前から撮れない・・・!」
因みにその散歩の様子はドローンで撮影されていた。
実は女が出発を許可する前に、羊角に命じていたのだ。
相変わらず過保護であるが、少女故に致し方ない。
最近しっかりして来たが、それでも時々やらかすのだから。
「皆楽しそうだね」
「ええ、まあ、何時もの事です」
モニター前でわっちゃわっちゃと騒いでいる皆を、少し離れた所で優しい目を向ける虎少年。
ただ少年は少し残念な物を見るような目を向けているが、少年も大体似た様な物である。
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