角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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235、来訪予告。

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「肝に銘じておく」
 そうは言いながらも、従兄にいさんの口元には笑みが浮かんでいた。
 もう、余裕そうにしちゃって……悔しい!

 私の両頬がますます膨れ上がる。
「本当に嫌いになりそうっ」
「お前……時々、そうやってかんしゃくを起こすな」
 従兄さんが少し戸惑っているような声を出した。凛々しい眉毛が下がっている。

「かんしゃくなんて起こしてないもん」
「椿の少し怒りっぽいところはお祖父様似かもしれないな」
「一緒に住んでないのに似るわけないじゃない」
「遺伝というやつだ」
「遺伝~? なんか胡散臭い」
 不機嫌を隠しもせずに口をとがらせながら言ったら、従兄さんが突然笑い出した。笑いのツボを刺激してしまったらしい。
「はは。そうか、胡散臭いか」
「そうだよ。だって普通、性格ってそばにいる人の影響を受けるものじゃない?」
「たしかに周囲の人間の影響というのも無関係ではないと思うが、俺は持って生まれた性質というのも馬鹿に出来ないと思うぞ」
「そういうものなのかなぁ。だとしたら、たけし従兄さんは生まれつきエッチだってことになっちゃうよ?」
 意地悪で言った訳じゃなかったその言葉を聞いた途端、従兄さんの表情が固くなった。なんとも言えない表情が浮かんでいる。
「……俺はお前から見て、そんなにいやらしいか?」
「誰が見たって、中学生にいやらしいことをする成人男性はいやらしいと思うけど。人に知れたら色々まずいよ」
「そうだな……たしかにそうだ」
「そうだよ。今さら気が付いたの?」
 少し呆れながら問うと、「でも俺は、お前が好きだから。好きな相手に欲情しない方がおかしい」そんな返事が返ってきた。
 開き直ってない?

「でも私、まだ中学生なんだよ?」
「何度も言わなくても分かってる。……もしかして椿は、今まで俺がしてきたことを恨んでるのか?」
 真剣な声で問われた。もしかしたら、私から遠回しに責められていると解釈したのかもしれない。
 私は太ももの上に置いた右手と左手の指を交差させながら、少しだけ俯いた。
「そうじゃないけど……でも……」
「でも?」
「自覚は持っていてほしいの。私はまだ未成年で、私にその……手を出すってことは……」
「犯罪だと?」
 全て言い終える前に従兄さんの方から言われた。
「う、うん」
 ためらいながらも頷く。でもそれが真実だ。この国に住んでいる以上、無視はできない。

 従兄さんはハンドルを切りながら少し難しい顔をした後、真面目な声音でこう訊ねてきた。
「それは牽制か?」
「牽制?」
『牽制』という言葉は知っているけれど、質問の意味がすぐには理解できなくて思わず聞き返していた。
「『成人するまで私に触るな』……そういう意味かと訊いているんだ」

 道路の前方にある信号機が黄色に変わり、ゆるやかに車が減速し始めた。直後に黄色の電灯は消えて赤色の電灯が光り始める。
 信号の前には一台も他の車は止まっておらず、従兄さんの車が先頭に止まった。

 下に向けていた顔を上げると、従兄さんがこっちを見ていた。少し寂しそうな顔をして、けれど瞳は真剣な光を宿して、私を見ていた。
 視線が絡んだ瞬間、その鋭い焦げ茶色の瞳から目を逸らせなくなっていた。思わず胸の中心を両手でぎゅっと押さえる。鼓動が勝手に早くなっていた。

「違うよ。違うけど……なんのためらいもなく……その、エッチなことをするのは大人としてどうなのかなって」
「ちゃんと悪事を働いている自覚を持て。そう言いたいのか?」
「そういうことに……なるのかな。そうじゃないと、だって、他に人がいる場所でも気がゆるんじゃうことがあるかもしれないでしょ」
 信号を見るために、従兄さんの視線が私から離れていく。
 その後に従兄さんは、
「これでも我慢してるんだが。特に、今日も含めた受験期間中は気を遣っているつもりだ」
 困ったような顔をして、車をゆるやかに発進させた。

 信号はいつの間にか青に変わっていた。
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