角持ち奴隷少女の使用人。

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232、土砂の除去。

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雨で流された土が乾き、そこそこの日数が経った。
異常な長雨だった反動なのか、あれから一度も雨は降っていない。
という訳で少女は監督付きで、本格的な整備を始める事を許可された。

今日の監督は老爺と単眼であり、二人は作業に参加せずに少女の安全確認だけが仕事となる。
何時もは手伝っている虎少年もそちら側で、今日は大人しく見守る事になっていた。

「無理はしないようにねぇ」

老爺の言葉にコクコクと頷き、ふんすと気合いを入れ、胸元で手をぎゅっと手を握る少女。
そして大きいショベルを手に持ち、一輪車を押してパタパタと積もった土砂へと駆けて行く。
取り敢えず耕す前に土が積もり過ぎているので、一旦別の場所にどける作業から始める様だ。

「おチビちゃん、大丈夫でしょうか」
「危険だったら逃げる様に叫んであげておくれ。私じゃ声が届かないかもしれないから。傍に居ても、むしろあの子の足手まといになるかもしれないしねぇ」

単眼は少し不安になりながら問うが、老爺はのんびりと答えて動く様子を見せない。
実際老爺の言う通り、土が崩れて来たら傍に誰が居てもどうにもならないだろう。
危ないと誰かが伝え、気が付いた少女が走って逃げる方が確実に速い。
むしろ埋もれても、少女なら自力ではい出て来る可能性が高い。

何時もは手伝っている少年と虎少年が傍に居ないのもその為だ。
少女ならともかく、常人が土砂崩れに見舞われれば殆ど助からないだろう。

「まあまあ、取り敢えず座ってお茶でも飲んで、のんびり見守ってあげようか」

単眼と虎少年は言われた通り老爺の横に座り、一緒にお茶を飲みながら少女の作業を眺める。
少女はやっと作業が出来るからなのか、満面の笑みでえっほえっほと土を掘っている。
先ずはビニールハウスが有った所と、元々やっていた裏の畑の分を確保しようとしている様だ。

まるで重機が如く勢いで土を掘って行き、一か所に固めてペタペタと叩く少女。
畑の為の場所を確保している筈だが、それはそれで楽しそうに遊んでいる様に見える。
放っておくとこのまま土でお城でも作りそうに見えるが、ちゃんと主目的は忘れずに一輪車を往復させて土を運んでいるので大丈夫だろう。

それに固めるのも理由が有り、ただ集めておくだけじゃまた雨が降った時に崩れてしまう。
パタパタと持って行ってはペタペタと土遊びをする子供の様に見えるが、実際はそうではない。
たとえその作業自体がとても楽しそうでもきっと違うのだ。

ただ時折動きが止まるのは、育てた作物のなれの果てが目に留まるからだろう。
それでもすぐに顔を上げ、ムンと両手を握って気合いを入れる少女。
おーっとショベルを掲げ、一輪車も掲げて走る気合いの入りっぷりである。

でもバランスが上手く取れずにこけそうになったので、一輪車を持ち上げるのはすぐに止めた。
ワタワタと慌てながら置き、ふぅーと一息つく様はまるで危険を乗り越えたかのようだ。
実際は勝手に危険になっただけなのだが。

「彼女、全部自力で戻す気なんですよね・・・」
「みたいだねぇ。元々あの子が自力でやってた事だし、やりたいようにさせてあげるのが一番なのかもしれないねぇ」

虎少年の呟きに、老爺がのんびりと応える。
単眼もそうだが、やはり虎少年も不安げな表情で見つめていた。
それは単純に作業が危険というだけではなく、この畑を取り戻す為の心の疲労を心配して。
あれだけ立派な畑を一瞬で失い、それを取り戻そうとする作業は、幾ら少女でも辛いだろうと。

「そう、ですね・・・」

虎少年は一応納得はしたものの、少女の傍に居られない事に居心地の悪い物がある様だ。
とはいえ自分が傍に行っては迷惑になる可能性がある。
いや、確実に迷惑になる。少なくとも監督役の二人は確実に注意を受ける。
それが解っているだけに、虎少年は大人しく座っているしかない。

雨が上がって乾燥したとはいえ、それは表面上の物。
土が崩れた物が止まっているのは、単純に今の状態だから安定している可能性もある。
少女の行為はそれを崩すもので、少女も危険をちゃんと女に伝えられてから作業している。

「行かないのかい?」
「―――え?」

老爺はニマッとした笑顔を向けながら虎少年い問いかけ、虎少年は何を言われたのか解らないという顔を向ける。
単眼も一体何をと一瞬目を見開いていたが、それは本当に一瞬の事だった。
老爺と同じ様にニマリと笑うと、虎少年に顔を向けて口を開く。

「虎ちゃんは客人だからね。強制力はないよ。私達と違ってね」
「で、でもそれだと、ご主人の面子を潰す事に。貴方達も叱られるでしょう」
「お爺さん、私達はおチビちゃんに危険が及んだ時の為に、と言われてるだけでしたよね?」
「そうだねぇ、彼女を手伝う子を止める様に、とは言われて無いねぇ」

それは明らかに意味を捻じ曲げた言葉だ。
この二人が男や女の言葉の真意を理解出来ないはずがない。
そんな二人にそこまで言われては、聡い虎少年が理解出来ないはずがないだろう。
虎少年は気遣いに感謝し、そして危険に踏み入れる覚悟も決めて立ち上がる。

「ありがとうございます。行ってきます」
「はい、気を付けてね、虎ちゃん」
「危なそうだったら呼ぶから、ちゃんと意識をこっちに向けておくんだよぉ」

虎少年は二人に礼を言うと、予備のショベルをもって全力で少女の元へ向かう。
少女は虎少年が手伝ってはいけないと言われていたのを知っていたのでワタワタと慌てていたが、危険は承知で手伝いたいという虎少年に何とも言えない笑顔を返していた。
困るけど、嬉しい。駄目なんだけど、嬉しい。そんな複雑な笑顔を。

そうして感極まってしまったのか、ショベルを手放してぎゅーっと抱きつく少女。
少女は頑張ろうと気合いを入れていた。だけどそれでも、やっぱりちょっとだけ辛かったのだ。
作業をすればする程、ここに畑が有ったのにという思いが胸に溢れてきて。

虎少年はそんな少女を優しく抱き返すと、やっぱり手伝いに来て良かったと笑顔を見せていた。

「私達、大人失格ですねぇー。本当は止めないといけないんですけど」
「はっはっは、そういう事ならこのジジイが一番社会人失格ですなぁ。まあ私が許可したと旦那様には伝えておきますので、安心して下さいな」
「いえ、ちゃんと報告はしますよ。叱られる時は一緒です」
「ふふっ、君も良い子ですねぇ」
「良い子は上司の言葉を捻じ曲げたりしないと思いますよ?」
「ははっ、確かに」

単眼と老爺はそんな少女を見て、行かせて良かったと感じていた。
勿論まだまだ土砂崩れの危険はある。だから本当は行かせないのが正解だ。
だけど、それでも、行かせることが正解だと、二人はそう感じていた。








「全く、あの二人は」

女はその様子を見て小さく溜め息を吐いている。
とはいえ暫く日数が経てばそうなる気がしていたので、時間の問題だと思っていた。
虎少年の覚悟と想いは、そんな物で押し留められる様な可愛い物ではない。
一人の人生を背負う覚悟で、この屋敷にやって来た人間なのだからと。

「・・・一人だけなら、傍に居れば守れるか」

女は甘いと思いつつ、そんな言葉を吐いていた。
少女の力であれば、手の届く範囲なら大丈夫かと。
本当なら「駄目だと言っただろう」と叱るべきなのだが、少女にちゃんと無事に逃げるようにと言い聞かせる方に決めたらしい。

「はぁ・・・甘いな」

自分の甘さに頭を抱えながら、女は少女の作業が終わるまで陰で見守っていた。
いざとなれば角を使って飛び出す気満々で。
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