角持ち奴隷少女の使用人。

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228、長雨。

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屋敷の周囲は長雨が続いていた。
もう十日以上にもなる珍しい長雨を、困った様子で窓から見上げている少女。
何故なら長雨によって地盤がぬかるみ、山に行くのは危険だと行かせて貰えていないのだ。

最初の内はまだそこまで激しい雨では無かったのだが、最近は雨脚が強い日が有る。
少女の事なので滅多な事は無いとは思うが、万が一が無いとは言えない。
なので屋敷裏の小さな畑だけならともかく、山の畑に行くのは禁止になっている。

当然老爺の足も危険だし、だからと言って他の使用人達にも危険だ。
現状畑がどうなっているのか、少女は遠目で心配な目を向ける事しか出来ていない。
しかもその遠目から解る範囲で、既に一部の土が崩れてしまっている。
その事に不安になりながら、悲し気に空を見上げている少女という訳だ。

「最近良く降るなぁ・・・この辺りじゃ珍しいんだけどな」

少女の隣に立って外を見つめ、続く長雨にうんざりした様子の男。
因みにこの場は男の私室で、今はボードゲームの休憩中である。

男達の住む地域は季節は有るが、雨が続く日は少ない。
多きな災害が頻繁にくる地域でも無いし、基本的には住みやすい土地だ。
だからこそ畑に水害対策がなされていないのだが。

「外に出れないのは不満だろうが、もう少し辛抱しような」

不安気な顔を向ける少女の頭にポンと手をのせ、そのまま優しく撫でる男。
少女は猫の様に男にすり寄ると機嫌を直し、えへへーと男の手を取ってきゅっと握った。
握った手を嬉しそうににぎにぎしながら見つめ、時々チラチラと男を見上げる少女。
単純でありがたいね、などと少々失礼な事を考える男だが、これは相手が男だからこそだ。

男自身は相変わらず、その辺りの自覚が余り無いせいでの考えだろう。
懐かれているとは思っているが、何でこんなに懐かれているんだろう、という認識である。
実際の所、少女が男に懐く要素は普通に考えれば少なくない。

やっと奴隷として買って貰えた事で、当たり前の生活を送れるようになった。
しかもその後に自分が問題有る奴隷と知り、それでも面倒を見てくれている人。
この辺りの時点で懐くのは普通で、更には男は普段からも少女をそれなりに構っている。
適度に構ってくれて、優しくしてくれて、でも構い過ぎない距離を持っていて、それなりに一緒に遊んでくれて、良く褒めてくれる人。

理由を上げ連ねて行けば子供が懐く要素が結構あるのだが、男本人は無自覚である。
故に女に「都合の良い時だけ」と苛つかれるのだ。
女の場合は構い方がへたくそなので、それはそれで自業自得なのだが。
ただし女は少女が生きる為の術を教えた人なので、尊敬の気持ちと共に格別の懐き方をしているのだが、女自身もそれに気が付いてない辺り男と同類である。

「それにあんまり不安な顔してると、虎の兄ちゃんが心配するぞ?」

男の言葉にハッっとして、きりっとした顔を見せる少女。ただし手は相変わらず握ったままだ。
いや、口元が若干にやけたままなので、きりっとした顔にはなっていないかもしれない。
そして視線が手に戻るとニマニマが結局抑えられずと、きりっとした顔は保てない様である。

「そうだ、この前やってたゲームの新作買ったんだった。人数居るんだし皆でやろうぜ」

男はそう言うとまだ袋から出していないソフトを棚から取り出し、本体を少女に手渡す。
そして空いた手を繋いで、虎少年や手の空いている使用人を拉致しに向かう。
男の楽しそうな様子に少女が否というはずも無く、自分より大きな手をきゅっと握ってご機嫌について行くのであった。








男と少女がご機嫌に屋敷を歩くさなか、老爺と女は裏の畑を眺めていた。

「・・・これは、駄目かもしれませんなぁ」
「ビニールハウスの方もか?」
「あちらはかろうじて、という所かと。とはいえまだ雨が続くと根が腐る可能性は否めません」
「そうか、こればかりは致し方ないな」
「ええ、あの子は悲しむでしょうが、流石にこればかりは」

何の話かと言えば、当然畑の事である。
今回の長雨は、老爺にとってもかなり予想外な出来事らしい。
畑は今迄の経験を基に、普段通りの気候で育つように考えていた。
なので今回の水害に対応する術が老爺には無いのだ。

「一応対応策が無い訳では無いですが・・・今から設備をそろえていては手遅れですし、今から近づくのは危険でしょう。今回は、運が無かったと思うしか」
「流石に、私も殆ど経験した事が無い雨の為に設備を揃えるのは・・・少し難しいな」

あくまで畑は趣味である。趣味と言って良いレベルかどうかは別として、商売はしていない。
なので農具の類も、ビニールハウスが有る時点で何を言っていると言われそうだが、そこまで道具が充実している訳では無い。

基本的には少女が人力で耕し、全て人力で整えた畑だ。
なので素人の知識と人力で対処できない範囲はどうにもならない。
せめて続く雨がただ長々と続く弱い雨だったならば良かったのだろうが。

「泣く、だろうな」
「泣くでしょうねぇ・・・」

少女はきっと大泣きはしないだろう。
だけど無残な畑を見て、うりゅっと涙を溜める様は簡単に想像できる。
そして慰められると泣くのを堪え、頑張って畑を取り戻そうとするだろう。

だけどそれは完全に吹っ切った訳では無く、悲しみはきっと抱えたままの行為だ。
今の少女ならば、我慢した分をどこかで人知れず静かに泣き出す可能性も無くはない。
その場合は目の前で泣かれた方がよっぽど良いと、女は今から頭を悩ませている。

「・・・気が重いな」
「ですなぁ」

二人は長く続く雨と、それが晴れた時の出来事の両方に気分を重くさせているのであった。
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