角持ち奴隷少女の使用人。

２１９、電話の内容。

ある日の夕方に、屋敷に余り聞き慣れない音楽が何処からか響いて来た。
発信源は何処だろうと少女がキョロキョロしていると、携帯端末を握る複眼の姿が。
鳴っているのは複眼の端末らしいが、複眼はいぶかしげな表情で端末を眺めて動く様子が無い。

少し心配になった少女はトテトテと近づくと、複眼のスカートを小さく握ってくいっと引いた。
複眼はその事に気が付くと少女に目を向け、少女は心配そうな顔で首を傾げて見つめる。
大丈夫？と言いたげな顔に複眼は苦笑し、溜め息を吐いてから携帯端末を操作して耳に当てた。

すると複眼が口を開こうとした瞬間、端末の向こうから怒鳴り声の様な物が響いて来る。
少女はビクッとしてしまったが、複眼は驚かなかった代わりに大きな溜め息を吐いていた。
その間も怒鳴り声は止まる事なく、途中から複眼は端末を耳から離して少女の頭を撫でている。
少女は複眼の様子と端末の怒鳴り声に、え？え？と良く解らない感じにオロオロしていた。

暫くすると端末の向こうの声が小さくなり、そこでやっと複眼は端末を耳に戻す。
相変わらず片手は少女の頭を撫でているが、複眼の嫌そうな顔に少女は不安げになっている。

「言いたい事は終わった？　じゃあ切るから」

少女が驚く程に冷たい声で複眼がそう言うと、また端末の向こうから怒鳴り声が聞こえて来る。
またも少女はビクッとしてしまい、複眼は申し訳なさそうに少女の頭を撫でていた。
だが途中から複眼の顏がみるみる内に不機嫌な物になって行き、端末からミシッという音が聞こえた様な気がする少女は、複眼のスカートを両手で握って心配そうに見上げている。

「いい加減にしろ！　大体二度と連絡してくるなって言ったでしょうが！　あんたが自分で縁を切るって言ったのに、態々人の電話借りて迄都合の良い事をぬかすな！」

少女の撫でる手も止まり、完全に頭にきた様子で怒鳴る複眼。
一度見た覚えのある表情だと気が付きつつも、いつも静かで優しい複眼のとは大違いの様子に、ちょっと怖くて縮こまってしまう。
それでもやっぱり複眼の事が心配で、スカートを手放さない辺りが少女らしい。
複眼はそんな少女の様子に気が付き、何をやっているんだ自分はと思いながら大きく溜め息を吐いていた。

「じゃ、そういう事で。切る・・・は？　なにいっ、あっ・・・切りやがった、あいつ！」

端末に向かって叫ぶも通話は切れており、苛々した様子で端末を睨む複眼。
ただ少女がキュッとスカートを握りながら上目遣いで見ている事に気がついて、深く溜め息を吐いてから力の無い笑顔を返していた。

「ごめんね、怖がらせて」

複眼はしゃがみ込んで少女に視線を合わせて笑顔で謝るも、少女は悲しそうな顔を見せる。
そして少し悩んでからおずおずと複眼の頭に手を伸ばし、よしよしと慰めるように撫で始めた。
複眼は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに優しい笑みを少女に向ける。

「ん、ありがとう。大丈夫。うん・・・本当に優しくて良い子だね、ちみっこは」

少女の優しい手に、複眼は自分の中の苛々が消え去って行くのを感じていた。
だからこその感謝を込めて礼を口にし、その様子を見た少女はにこっと笑って返している。
少女も複眼が機嫌を直したので満足な様だ。







「とはいえ、後で先輩と旦那様に言わないとな・・・」

複眼は少女のおかげで機嫌は直ったが、問題自体は解決していない。
少女は通話相手の言葉が聞き取れていなかったが、内容は屋敷に問題が生まれる物だったのだ。
複眼はその事に頭を抱えつつも、今後の対策の為に男の部屋へと向かうのであった。