角持ち奴隷少女の使用人。

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214、覚悟の違い。

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「本人が成長を止めている、か」
「はい。確信の在る事では無いですし、オカルトじみている事を言っていると思います。けど、そんな気がするんです」

虎少年は先日思った事を、少女の成長の遅さの原因を男に伝えていた。
鼻で笑われる可能性を考えていた虎少年だが、男は真剣な様子で重く頷く。
何故なら男にとって「オカルト」という単語は馬鹿に出来ない事だからだ。

身内にそうしたオカルトじみた人間が居り、そして少女も同じ様な存在だ。
虎少年が角について知っているのか知らないのかは解らない。
だがそれでも少女にあの角が有る以上、本人の精神に作用している可能性はありそうだと。

「ありがとう。確かに俺達が思いつかなかったかもしれない。ここに来たあの子が全てだから」
「いえ、お礼を言われる事では。単に僕が気になっただけですから」

男の素直な礼の言葉に虎少年は笑顔を見せるが、内心複雑ではあった。
気を遣っている様子も、馬鹿にする様子も無い。本気で信じて本気の礼。
子供の戯言などと言わない男の在り方に、少女がどれだけ思われているのか解る。
解るからこそ、少年は少しだけ疑問に感じている部分が有るのだ。

「・・・なぜ、貴方はそこまで、あの子に構うんでしょうか」

それは今まで男に問いかけなかった素朴な疑問。
少年の少女への執着は、過去に見た英雄への焦がれる想い。
そしてその延長上に有る今の可愛らしい少女自身への想いだ。
だからこそ虎少年は、少女が願うならどんな事でもやって見せようという気概でいる。

「理由が必要かい?」
「出来れば、聞かせて頂きたいと。勿論それで文句を言う気は有りません。彼女が幸せであるならば、どんな理由でも構わない」
「結果的にあの子が不幸になってもかい?」
「―――――その時は、僕が、守ります」

男の言葉に虎少年は挑む様に答える。
だが男がその答えに二ッと笑った所で、自分が誘導されていた事を悟る。
問いかけていたはずなのに、何時の間にか応える側になっていたと。

「意地が悪いですね」
「これでも大人なんでね。少しは経験の差ってのも見せておかないとな。基本的に屋敷ではみっともない姿ばかり見せてるし、そのままだと頼りないだろ?」
「頼りないと言うには、僕には力が無い。その言葉を口にするには子供過ぎます」
「ははっ、大人びてるねぇ」
「子供ですから」

一見すれば皮肉の投げ合いにも見える会話だが、お互い気分悪く口にしている様子は無い。
虎少年は男の事を認めているし、男も虎少年を認めている。
実は二人は出会った後、お互いにお互いがどういう人間なのかを調べ上げていた。
解っていないのは本人の人間性の深い部分。一歩踏み込まなければ知る事の出来ない部分だ。

「家族に、重ねてるんだよ、あの子を」
「ご家族、ですか?」
「ああ・・・大事な、家族、だった」
「だったと、いう事は・・・」
「俺には姉貴が居てな。そりゃもう腹の立つ女でな。事有る毎に俺を殴るわ、逆らっても何やっても勝てねわ・・・ほんと腹が立つぐらい優秀なゴリラ女だったな、あの女は!」
「は、はぁ」

男の語る過去の姉。その内容に虎少年はどう反応して良いのか困っている。
居たという言い方からもう居ないのだと察し、そして重い内容なのだと構えていた。
だが語られる内容は褒めているのか貶しているのか非常に困る物な上、重さの欠片も無い口調とノリで語られてしまった為の困惑だ。

「あの子とは正反対で可愛げも無いし素直でもない。いや暴力的な点ではすげー素直だったけど、とことん可愛げのない不愛想なゴリラだ」

最早女を付ける事すらせずゴリラと断言する男に、虎少年はあははと乾いた笑いを返す。
ただふと、もしかして自分と同じ様な獣人種の、血の繋がらない姉でも居たのかなと思った。
けど取り敢えず最後まで話を聞こうと、男の言葉を静かに聞いている。

「・・・けど、それなりに慕ってたんだ。良い姉貴とはお世辞にも言えなかったけど、姉貴してくれていたしな。助けて貰った事も多いのは、良く解ってる」
「良いお姉さんだったんですね」
「はっ、良くないって言ってるだろ?」

男はふっと笑いながら虎少年に応え、庭に視線を向けながら続ける。
今日は庭には出てないんだな、なんて事を考える自分に更に苦笑しながら。

「姉貴は、とある事が原因で、正気を失った。そして、俺が殺した。一応事故で済んでるけど、俺が殺したんだ」
「―――――、お姉さんを、ですか」
「ああ。この手で殺した」

まさかそんな話を聞かされると思ってなかった虎少年は、頭をフル回転させている。
何故男がこのタイミングでそんな事を、下手をすれば自分の身が危うくなることを語ったのか。
男はそんな虎少年の様子を見て、満足そうに笑みを見せた。
今語っている事を、唐突に無関係な話をしたと判断しないその思慮の深さに。

「まさ、か」

ただそこで虎少年は目を大きく見開き、否定したいと思いながらそう口にしていた。
虎少年が至った結論。それは自分が救われた、少女のあの戦闘の事。
確かに正気とは思えない、異常な戦闘風景だった。
幼い事の事とは言え、美化された記憶とはいえ、その事実はちゃんと覚えている。

「あの子の暴走を君は見た事が有るだろう。あれが家族に向いたのさ。だから殺した。正気を失って父を殺し、俺を殺すのを必死で堪えている姉を、この手で殺した。だから俺は、あの子を殺す前提で引き取った。あの子が正気でなければ、買い取ったその場で殺すつもりで」
「そ、れは、でも、あの子は・・・!」
「勿論正気を保っているなら、その間は面倒を見ようと思った。同情だな。家族に同じ様な人間が居たから、だからあの子の境遇に同情した。それが理由だ」

男の目を見てその覚悟が有る事を、虎少年は感じ取れてしまった。
凄惨な過去を送った自分よりも、更に凄惨な出来事に出会ったと言える男の目に。
自分は当事者だが、結局はただ救われただけの身だ。けど、男はそうではない。
渦中に身を投じ、更にはその手を汚した。その苦しみを察せるなどとは口に出来ない。

「ただ、な。今は単にあの子が可愛い。あの子の成長を見たい。姉と違い、素直に自分の人生を生きる姿を、あの子が望んで生きる姿を見たいと、そう思うんだ」
「それでも、もし、彼女がおかしくなれば、殺すんですか」
「殺す。それが俺の役目だ。あの子を解っていて引き取った以上、最低限の責任だと思っている。たとえそれで死ぬ様な目に遭っても、屋敷の者達に恨まれても、それが俺の責任だ」

男ははっきりとそう口にし、虎少年は言葉が出ずに俯いてしまった。
武装した犯罪集団を皆殺しに出来る少女の力を良く知っているが故に。
虎少年は見ているのだから。少女に重火器が通用しなかったその戦闘を。

「・・・きっと、貴方の邪魔をします。僕は、彼女を守ります」

だけど、それでも、虎少年は男の言葉を肯定する気にはなれなかった。
少女を殺す事なんて、絶対に許容出来ないと。
まっすぐな目で、男に負けない程に力の有る眼で、虎少年はそう言い切った。

「ああ、それで構わない。君はそれで良い。君は・・・俺みたいになるな」

だが男は虎少年にふっと優しい笑みを向け、むしろ嬉しそうな様子を見せる。
まるで懐かしい物でも見るかのように。

「ま、それにあの子は良い子だからさ。姉貴は暴力女だったせいじゃねえかなと思うし。多分へーきへーき」
「へ、は、はあ」

先程の重苦しい様子も憂いた様子も完全に消え、おどけた様に語る男。
虎少年はまたも面食らい、今日は完全に手のひらで踊らされている。
ただそこで男の端末がなり、用事が出来たと話が終わってしまった。

「・・・これは、彼には話せないな。申し訳ないけど」

友人であり競争相手に話せない秘密が出来てしまったと、男の背中を見ながら呟く虎少年。
ただその胸の内には、今まで以上に強い決意が宿っていた。
自分は少女の為に、少女が幸せな人生を歩める手助けをするのだと。







「気のせいか、愚弟に悪口を言われたような気がした。後で殴ろう」

その頃女は何故かそんな事を感じ取り、男の用事が終わる頃に殴りに行くのであった。
どう考えても理不尽なのだが、実際に口にしたので何とも言えない男である。
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