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175、人生の意味。
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その日は庭に、運動マットが山の形になって、地面にズルズルと後をつけながら動いていた。
大きさは少女がうーんと両手を上げたのと同じぐらいの高さ。
それは庭の真ん中辺りで止まると、マットは地面にばーんと平べったく寝そべった。
まあ当然ながらマットが勝手に動いていた訳ではなく、中に少女が居たのだが。
マットを置いた少女は、けふっけふっと少しせき込んでいる。
どうやら埃がついていて、運ぶ際に吸い込んでしまった様だ。
そもそも持って来る時に畳めば良かっただけなのだが、何故か倉庫で開いてそのまま持って来てしまっている。
今日はこれを使おうというウキウキ感しか頭に無かった様だ。
最近は以前よりしっかりして来たが、相変わらず所々抜けた少女である。
ただ流石にこのまま使うのはどうなんだろう、と少女は思ったらしい。
なのでマットの端を掴み、シーツをパアンとさせる要領でマットを振った。
すると庭にバアアアアン!と凄まじい音が鳴り、驚いた住人達は皆何事かと慌てて庭に目を向ける事態となる。
窓から庭を見る者。慌てて玄関から飛び出て来た者。裏から走って庭まで回って来た者。
全員が慌てて駆けつけ、そして少女の様子を見て全員が力の抜けた溜め息を吐いた。
「び、びっくりしたぁ。角っこちゃん、驚かせないで・・・うん、自分が一番驚いたんだね」
少女は目を見開いて固まっており、どうやらやった本人にも拘らずかなり驚いていた様だ。
彼女に声をかけられた少女は、困った顔で挙動不審な様子でキョロキョロし始める。
そして皆が自分を見ている事に気が付くとまた少しフリーズした。
少しばかり少女の処理能力を超えてしまった様である。
「あー、うん、大丈夫大丈夫、皆心配しただけだから」
固まる少女を暫く眺めていた彼女であったが、苦笑しながらポンポンと頭を叩いて声をかける。
そのおかげで少女はピャッと声を上げて復帰し、慌ててペコペコと皆に向かって頭を下げた。
住人達は皆それぞれの反応を返して元の場所に戻り、少女はあうーと手で顔を覆ってしまった。
最近は大きな失敗が無かったので、何だかとても恥ずかしい様だ。
「やっぱり忘れた頃に何かしらやるねー、角っこちゃん」
恥ずかしがっている少女を揶揄おうと、ほっぺをプニプニつつく彼女。
アウアウと狼狽える少女にニマニマした顔を向けている。
少女は悲しい様な恥ずかしい様な悔しい様な何とも言えない様子だ。
一頻り少女を揶揄い終わった彼女は手を放してマットに目を向ける。
「今日はこれで運動する気だったの?」
彼女の言葉にショボーンとした様子のままコクンと頷く少女。
特別な事をやるつもりでは無いが、何となく目について持って来たマット。
少女はしゃがむとマットをぺちぺちと叩き、何だか悲しい気分を誤魔化し始める。
ただそこでふと気が付いた。マットの埃が掃われている事に。
もう少しだけ強めにパフパフと叩いてみるが、埃は殆ど舞わない。
どうやらさっきの一回で、殆どの埃は掃われた様だ。
その事に気が付くと少女はちょっと嬉しくなり、にへーっと笑いながらパンパン叩き出した。
「角っこちゃんの喜びポイント、偶に良く解んないなー。可愛いけど」
機嫌の直ったらしい少女に苦笑する彼女。
勿論直った理由は解っているが、それで直る感覚が良く解らないらしい。
とはいえ水を差す気は無いので小さく呟くに留めているが。
その間に少女はマットの上に乗り、くるんとでんぐり返しをした。
角をひっかけずに回ったのは上手いが、真っ直ぐ進めていない。
その上勢いが強かったのか止まる事が出来ず、回った後そのまま前にぺちゃっと倒れこんだ。
起き上がった少女はあれー?と首を傾げてから初期位置に戻り、またコロンと回る。
だが今度はちゃんと止まれたので、ピンと立ち上がって両手を横に開いた。
スポーツ番組で見た選手の締めの様子で立つ少女は、ドヤァとやり切った顔になっている。
「可愛い・・・!」
「うわっ、あんた何時の間に来てたの」
いつの間にか傍まで来て撮影を始めていた羊角は、息を荒くしながら少女を見つめていた。
ついさっきまで居なかった筈なので、彼女は結構本気で驚いている。
少女は羊角の存在に気が付くと、えへーっと笑いながらピースサインを向けた。
そのカメラ目線に羊角は感極まったのか、すっと表情が死んでしまう。
「―――――うん、可愛い」
「・・・あんたほんと人生幸せそうね」
「天使ちゃんが居れば幸せ」
「・・・あんたさ、本当にそっちの気ないよね?」
ただその顔は何故か幸せそうなのだと解り、彼女は呆れた様な心配な様な気分になっている。
とはいえ羊角は何だかんだと「手を出した」事は無いので、きっと大丈夫なのだとは思うが。
多分。おそらく。
因みに少女は気にせず運動を再開して、コロンコロン転がっている。
ただバランス感覚の無さをいかんなく発揮し、基本的に真っ直ぐ動けていない。
だが本人は単純に運動できれば良いので気にしていない様だ。
キャッキャと楽しそうにマットの上で転がり続けている。
「私は天使ちゃんに会う為に生まれて来たんだと思うわ。きっと私の人生はその為のもの」
「重い。めっちゃ重いよそれ」
「いいの、迷惑は絶対にかけないわ。私はこうやって天使の記録をつけるだけで満足なの。もし何処かに嫁ぐ事が有っても、私は撮り続けるだけだから」
「いや、だから、重いし考え方がやばいって・・・ああ、成程、これで振られたのか・・・」
少女を真顔で撮影し続ける羊角の言動に、こいつマジでヤバいと思う彼女。
ただその発言で以前恋人に重いと言われるという理由を察した様だ。
取り敢えず本格的に不味い事にならない様に祈り、後で女に相談するのを決める彼女であった。
大きさは少女がうーんと両手を上げたのと同じぐらいの高さ。
それは庭の真ん中辺りで止まると、マットは地面にばーんと平べったく寝そべった。
まあ当然ながらマットが勝手に動いていた訳ではなく、中に少女が居たのだが。
マットを置いた少女は、けふっけふっと少しせき込んでいる。
どうやら埃がついていて、運ぶ際に吸い込んでしまった様だ。
そもそも持って来る時に畳めば良かっただけなのだが、何故か倉庫で開いてそのまま持って来てしまっている。
今日はこれを使おうというウキウキ感しか頭に無かった様だ。
最近は以前よりしっかりして来たが、相変わらず所々抜けた少女である。
ただ流石にこのまま使うのはどうなんだろう、と少女は思ったらしい。
なのでマットの端を掴み、シーツをパアンとさせる要領でマットを振った。
すると庭にバアアアアン!と凄まじい音が鳴り、驚いた住人達は皆何事かと慌てて庭に目を向ける事態となる。
窓から庭を見る者。慌てて玄関から飛び出て来た者。裏から走って庭まで回って来た者。
全員が慌てて駆けつけ、そして少女の様子を見て全員が力の抜けた溜め息を吐いた。
「び、びっくりしたぁ。角っこちゃん、驚かせないで・・・うん、自分が一番驚いたんだね」
少女は目を見開いて固まっており、どうやらやった本人にも拘らずかなり驚いていた様だ。
彼女に声をかけられた少女は、困った顔で挙動不審な様子でキョロキョロし始める。
そして皆が自分を見ている事に気が付くとまた少しフリーズした。
少しばかり少女の処理能力を超えてしまった様である。
「あー、うん、大丈夫大丈夫、皆心配しただけだから」
固まる少女を暫く眺めていた彼女であったが、苦笑しながらポンポンと頭を叩いて声をかける。
そのおかげで少女はピャッと声を上げて復帰し、慌ててペコペコと皆に向かって頭を下げた。
住人達は皆それぞれの反応を返して元の場所に戻り、少女はあうーと手で顔を覆ってしまった。
最近は大きな失敗が無かったので、何だかとても恥ずかしい様だ。
「やっぱり忘れた頃に何かしらやるねー、角っこちゃん」
恥ずかしがっている少女を揶揄おうと、ほっぺをプニプニつつく彼女。
アウアウと狼狽える少女にニマニマした顔を向けている。
少女は悲しい様な恥ずかしい様な悔しい様な何とも言えない様子だ。
一頻り少女を揶揄い終わった彼女は手を放してマットに目を向ける。
「今日はこれで運動する気だったの?」
彼女の言葉にショボーンとした様子のままコクンと頷く少女。
特別な事をやるつもりでは無いが、何となく目について持って来たマット。
少女はしゃがむとマットをぺちぺちと叩き、何だか悲しい気分を誤魔化し始める。
ただそこでふと気が付いた。マットの埃が掃われている事に。
もう少しだけ強めにパフパフと叩いてみるが、埃は殆ど舞わない。
どうやらさっきの一回で、殆どの埃は掃われた様だ。
その事に気が付くと少女はちょっと嬉しくなり、にへーっと笑いながらパンパン叩き出した。
「角っこちゃんの喜びポイント、偶に良く解んないなー。可愛いけど」
機嫌の直ったらしい少女に苦笑する彼女。
勿論直った理由は解っているが、それで直る感覚が良く解らないらしい。
とはいえ水を差す気は無いので小さく呟くに留めているが。
その間に少女はマットの上に乗り、くるんとでんぐり返しをした。
角をひっかけずに回ったのは上手いが、真っ直ぐ進めていない。
その上勢いが強かったのか止まる事が出来ず、回った後そのまま前にぺちゃっと倒れこんだ。
起き上がった少女はあれー?と首を傾げてから初期位置に戻り、またコロンと回る。
だが今度はちゃんと止まれたので、ピンと立ち上がって両手を横に開いた。
スポーツ番組で見た選手の締めの様子で立つ少女は、ドヤァとやり切った顔になっている。
「可愛い・・・!」
「うわっ、あんた何時の間に来てたの」
いつの間にか傍まで来て撮影を始めていた羊角は、息を荒くしながら少女を見つめていた。
ついさっきまで居なかった筈なので、彼女は結構本気で驚いている。
少女は羊角の存在に気が付くと、えへーっと笑いながらピースサインを向けた。
そのカメラ目線に羊角は感極まったのか、すっと表情が死んでしまう。
「―――――うん、可愛い」
「・・・あんたほんと人生幸せそうね」
「天使ちゃんが居れば幸せ」
「・・・あんたさ、本当にそっちの気ないよね?」
ただその顔は何故か幸せそうなのだと解り、彼女は呆れた様な心配な様な気分になっている。
とはいえ羊角は何だかんだと「手を出した」事は無いので、きっと大丈夫なのだとは思うが。
多分。おそらく。
因みに少女は気にせず運動を再開して、コロンコロン転がっている。
ただバランス感覚の無さをいかんなく発揮し、基本的に真っ直ぐ動けていない。
だが本人は単純に運動できれば良いので気にしていない様だ。
キャッキャと楽しそうにマットの上で転がり続けている。
「私は天使ちゃんに会う為に生まれて来たんだと思うわ。きっと私の人生はその為のもの」
「重い。めっちゃ重いよそれ」
「いいの、迷惑は絶対にかけないわ。私はこうやって天使の記録をつけるだけで満足なの。もし何処かに嫁ぐ事が有っても、私は撮り続けるだけだから」
「いや、だから、重いし考え方がやばいって・・・ああ、成程、これで振られたのか・・・」
少女を真顔で撮影し続ける羊角の言動に、こいつマジでヤバいと思う彼女。
ただその発言で以前恋人に重いと言われるという理由を察した様だ。
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