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172、危険性。
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「旦那様、少しお話が」
何時も通りノックなどせず、男の部屋に入っていく女。
その上主人に対する第一声が本題なのは如何なものだろう。
とはいえこの屋敷ではそれが日常なので、男も特に気にしないのだが。
「んー・・・どうした、何か有ったのか」
男もいつもの様にゆるっと応えようとしていたが、女の表情を見て気を引き締める。
基本的に女の表情は仏頂面なので解り難くは有るが、真剣な表情をしていたからだ。
とはいえ男も気が付くのに一瞬時間がかかったのだが。
「最近、少々調子が良すぎるのです」
「・・・ん?」
だが女が口にした内容に、男は首を傾げる。
別にそれは良い事なのでは、と。
「私はあれだけ全力で、自分の意思で力を使った。にも拘らず体が相変わらず軽い」
「んー、そりゃあ、前に話したじゃん。あの子のおかげなんじゃないかって」
蝙蝠男との一戦の時、女は力の呑まれずに戦った。
だがそれでも角の力を使った事は間違いなく、翌日の不調は覚悟していた。
実際は不調どころか、かなり調子のいい状態で目を覚ます事になったのだが。
その事を話し合い、単眼の怪我を治した件も考えて、少女のおかげではという思考に行きつく。
なので男にしてみれば、何で今更そんな話を、という感じの様だ。
「それは解っています。ただ、何時までも調子が良すぎるんですよ」
「どういうこった?」
「端的に言えば、角の不快感が無い、という所でしょうか。長年抑えていた物が、最近抑えるという意識すら要らない様になっています」
「それは・・・別に良い事なんじゃないか?」
「以前と違い一時も、ですよ。流石にこれはおかしい」
「おかしい、っつてもな・・・やっぱり俺には良い事だと思うが」
男にしてみれば、女の言葉からは良い情報しか読み取れない。
常に体の調子が良く、昔から悩まされていた事を気にしなくて良いのだから。
「私は、あの子が、そうしているのではと思っています」
「ああ、可能性は有るな」
「・・・少し、怖くありませんか?」
「ん、怖い? 何が?」
「・・・このままでは、あの子が、どうなるのか。私はそれが少し怖い」
女は前に組んだ手をキュッと握り、眉間に皺を寄せる。
だが男には女の言いたい事がまだ理解出来ておらす、静かに話の続きに耳を傾けた。
「過去二回の事件から、あの子がおそらく特別なのだという事は解っています。ですがあの子は無意識に力を使っている。安定しているとはいえ、私の為に力を使い続けて大丈夫なのかと」
「要は、お前みたいに暴走する可能性、って話か」
「はい。実際あの子は暴れる際には意識が無い。元の意識が多少反映されているとはいえ、蝙蝠男には一切容赦しなかった。普段のあの子とは思えない攻撃性です」
「・・・言われてみりゃ、確かに」
少女は二回とも、最終的には人を救う為に行動していた。
だから男は余り深く考えていなかったのだが、言われてみて気が付いた。
少女は女の腕を何度か吹き飛ばしている。あれだけ大好きと懐いている女の腕を。
たとえ力を消費させる為だったとしても、少女の行動にしては余りに激しい。
もし当時の記憶が有れば、泣いて謝りそうなものだ。
蝙蝠男の件も、一切の躊躇なく吹き飛ばしていた。
相手がたとえ怖い友人であろうと、酷い目にあっていると心配する少女がだ。
少女の角は他と違い特別だと思っていたが、危険性という点は変わらないのかもしれない。
いやむしろ、少女の力が強すぎる事を考えれば、誰よりも危険と判断しておかしくない。
「無意識でも人を助けようとする所は、私とは違うのだとは思います。それに私には人を治す事は出来ない。でも、だからこそ、最近心配になっています。あの子自身は大丈夫なのかと」
「成程、本人が意識してないだけで、角の負荷が蓄積してる可能性か」
「当然、杞憂の可能性は有ります。ですが、心に留めておいて下さい」
「・・・解った。一応気にしておく」
誰よりも角の危険を理解している女の言葉だからこそ、男はしっかりと頷いた。
出来ればそんな事は、杞憂であってほしいと願ってはいるが。
「今日はプリンだよー、生クリームも乗っけちゃうよー。カラメルも大奮発だー」
当の本人は彼女の用意したおやつを目の前にして、わーいと二人で無邪気に喜んでいた。
あむあむと口に含み、んーっと目を瞑って幸せそうに体全部で喜びを表現している少女。
少なくとも今の少女には、男達の心配は関係のない話の様にみえた。
「美味しいねぇ」
隣で食べる彼女の言葉にコクコクと頷きながら、幸せなおやつを噛みしめる少女であった。
何時も通りノックなどせず、男の部屋に入っていく女。
その上主人に対する第一声が本題なのは如何なものだろう。
とはいえこの屋敷ではそれが日常なので、男も特に気にしないのだが。
「んー・・・どうした、何か有ったのか」
男もいつもの様にゆるっと応えようとしていたが、女の表情を見て気を引き締める。
基本的に女の表情は仏頂面なので解り難くは有るが、真剣な表情をしていたからだ。
とはいえ男も気が付くのに一瞬時間がかかったのだが。
「最近、少々調子が良すぎるのです」
「・・・ん?」
だが女が口にした内容に、男は首を傾げる。
別にそれは良い事なのでは、と。
「私はあれだけ全力で、自分の意思で力を使った。にも拘らず体が相変わらず軽い」
「んー、そりゃあ、前に話したじゃん。あの子のおかげなんじゃないかって」
蝙蝠男との一戦の時、女は力の呑まれずに戦った。
だがそれでも角の力を使った事は間違いなく、翌日の不調は覚悟していた。
実際は不調どころか、かなり調子のいい状態で目を覚ます事になったのだが。
その事を話し合い、単眼の怪我を治した件も考えて、少女のおかげではという思考に行きつく。
なので男にしてみれば、何で今更そんな話を、という感じの様だ。
「それは解っています。ただ、何時までも調子が良すぎるんですよ」
「どういうこった?」
「端的に言えば、角の不快感が無い、という所でしょうか。長年抑えていた物が、最近抑えるという意識すら要らない様になっています」
「それは・・・別に良い事なんじゃないか?」
「以前と違い一時も、ですよ。流石にこれはおかしい」
「おかしい、っつてもな・・・やっぱり俺には良い事だと思うが」
男にしてみれば、女の言葉からは良い情報しか読み取れない。
常に体の調子が良く、昔から悩まされていた事を気にしなくて良いのだから。
「私は、あの子が、そうしているのではと思っています」
「ああ、可能性は有るな」
「・・・少し、怖くありませんか?」
「ん、怖い? 何が?」
「・・・このままでは、あの子が、どうなるのか。私はそれが少し怖い」
女は前に組んだ手をキュッと握り、眉間に皺を寄せる。
だが男には女の言いたい事がまだ理解出来ておらす、静かに話の続きに耳を傾けた。
「過去二回の事件から、あの子がおそらく特別なのだという事は解っています。ですがあの子は無意識に力を使っている。安定しているとはいえ、私の為に力を使い続けて大丈夫なのかと」
「要は、お前みたいに暴走する可能性、って話か」
「はい。実際あの子は暴れる際には意識が無い。元の意識が多少反映されているとはいえ、蝙蝠男には一切容赦しなかった。普段のあの子とは思えない攻撃性です」
「・・・言われてみりゃ、確かに」
少女は二回とも、最終的には人を救う為に行動していた。
だから男は余り深く考えていなかったのだが、言われてみて気が付いた。
少女は女の腕を何度か吹き飛ばしている。あれだけ大好きと懐いている女の腕を。
たとえ力を消費させる為だったとしても、少女の行動にしては余りに激しい。
もし当時の記憶が有れば、泣いて謝りそうなものだ。
蝙蝠男の件も、一切の躊躇なく吹き飛ばしていた。
相手がたとえ怖い友人であろうと、酷い目にあっていると心配する少女がだ。
少女の角は他と違い特別だと思っていたが、危険性という点は変わらないのかもしれない。
いやむしろ、少女の力が強すぎる事を考えれば、誰よりも危険と判断しておかしくない。
「無意識でも人を助けようとする所は、私とは違うのだとは思います。それに私には人を治す事は出来ない。でも、だからこそ、最近心配になっています。あの子自身は大丈夫なのかと」
「成程、本人が意識してないだけで、角の負荷が蓄積してる可能性か」
「当然、杞憂の可能性は有ります。ですが、心に留めておいて下さい」
「・・・解った。一応気にしておく」
誰よりも角の危険を理解している女の言葉だからこそ、男はしっかりと頷いた。
出来ればそんな事は、杞憂であってほしいと願ってはいるが。
「今日はプリンだよー、生クリームも乗っけちゃうよー。カラメルも大奮発だー」
当の本人は彼女の用意したおやつを目の前にして、わーいと二人で無邪気に喜んでいた。
あむあむと口に含み、んーっと目を瞑って幸せそうに体全部で喜びを表現している少女。
少なくとも今の少女には、男達の心配は関係のない話の様にみえた。
「美味しいねぇ」
隣で食べる彼女の言葉にコクコクと頷きながら、幸せなおやつを噛みしめる少女であった。
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