角持ち奴隷少女の使用人。

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166、海水浴場。

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暑い日差し。焼けるような砂。不規則に波打つ海。
そしてそこに集まる沢山の人間達と、彼らを相手にする多数の屋台。
少女はとうとう、海水浴場に来ていた。

ただし少女自身が行きたいと言い出したのではなく、彼女が提案した事。
少女の角の事で渋っているのは解っているけれど、それでもきっと子供の時期に行く事は思い出になると、少女の角の事もフォローするので行こうと、女を数日かけて口説き落とした。
態々耐水の大きい帽子なども買って来る熱意に、流石の女も負けてしまったらしい。

半分ぐらいは「今年こそ少女と海に行きたい」という本音が完全に見えていたが。
とはいえ始めての海水浴場に目をキラキラと輝かせている少女を見て、許可して良かったかもしれないなと女も思っている様だ。
活気ある海水浴場を駐車場から見つめ、少女は飛び跳ねながらキャッキャとはしゃいでいる。
そしてテンションが最高潮に達し、キャーっと今すぐにでも行こうと動き出したが、キュッと服の襟首を女に摑まれた。

「はしゃぐのは構わんが少し落ち着け。水着に着替えてからだ」

鋭い眼光を少女に向けながら注意すると、少女はバツの悪そうな顔で顔を俯かせた。
そして御免なさいと目で謝る様に上目遣いで返すと、女の形相は更に酷い物になっていく。
通りがかりにそれを見ていた女性は可哀そうな状況を見る目で眺めていたが、女が凄まじい形相のまま少女を抱きしめたので良く解らない表情になっていた。
相変わらず表情と感情が一致していない女である。

「取り敢えず俺は場所確保しておくから、お前等は着替えてな」
「ではお言葉に甘えて、お願いしますねぇ、旦那様」
「ありがとうございます」
「きゃー、旦那様おっとこまえー」

男は車を降りると荷台からパラソルと鞄を一つ持って先に砂浜に向かおうとし、羊角と複眼は礼を返して見送るが、彼女だけテンションが少しおかしい。
着替えは車で出来る様にと大きい物をレンタルして来たので、少女の角の事も気にせず着替える事が出来る。
要は車で着替えるので、率先して男はその場から去ろうとしているのだ。

どちらが従者なのか良く解らない行動ではあるが、女性比率が高い為致し方ないだろう。
それに今日は仕事ではなくお休みとして来ているので、男としても主人面をする気は無い。
給料外の事で気を揉む様な事は男が嫌いなので、これ位の気軽さが丁度良いのだ。

とはいえ傍から見れば、男は可愛く美人な女性を侍らせているチャラ男に見える。
男にその気は全くないが、知らない者達にそんな事は関係無い。
旦那様などという呼び方も相まって、男性の集団からは殺意の籠った視線すら向けられていた。

「旦那様、クーラーボックスも持って行って下さい。あ、このかばんもお願いします。それと場所は周囲に人が来ても動き安い位置の確保を。浮き輪の類は先に膨らましておいて下さいね」
「ちょ、ま、重っ」

だが女は砂浜に向かおうとする男に荷物をドンドン渡し、そのまま有無を言わせず少女と共に車に戻って、この為に有る様な車内カーテンをジャッと閉じた。
外では男が文句を言っているが一切意に介さず、少女の着替えを真剣に手伝っている。
男は色々と納得いかないが、ぶちぶちと文句を言いつつ場所の確保に向かうのであった。

「何か申し訳ないね、着替えの出来る車を出して貰ったのに、あんな事までさせちゃって」
「良く言う。その為に海に行く事、先輩より先に旦那様に伝えたくせに」
「ほんとほんと。天使ちゃん出汁にしてどの口が言うのやら」

彼女は申し訳なさそうな事を言っているが、態度は一切申し訳なさげではない。
そんな彼女に突っ込む複眼と羊角だが、荷物持ちを手伝ってない辺り余り変わらないだろう。
一番手伝いそうな単眼が居ない為、本日の男は苦労するであろう事が伺える。

因みにその単眼はというと、海水浴場だと巨体が目立つのでお留守番を申し出た。
普段着で目立つ程度なら別に良いが、水着でじろじろ見られるのは少し恥ずかしいらしい。
今は屋敷で犬と猫を相手にのんびりとお茶をしている。

「皆楽しんでるかな~」

留守番な事に特に不満な様子も無く、帰って来た時の少女の土産話を楽しみに思いながら、猫を膝に乗せのんびりとまったりな一日を満喫している。
少年も屋敷に残っているのだが、何となく二人きりが気まずくて細々と雑事をやって誤魔化している様だ。

一応少年も海に誘われたのだが、暫く考え込んだ後に辞退した。理由は語るまでも無いだろう。
付いて行けば良いのにと誰もが思っていたが、少女の行動したいでは海で要救助者になる可能性も考え、無理には連れて行かないという事で落ち着いた。
勿論本人が望めばすぐにでも用意をさせて連れて行ったのだが。

「・・・水着、新しく買ったらしいし、可愛いんだろうな」

作業の手が止まるとポソリと呟いて、すぐにはっとして首を振る少年。
本人も残念な様なほっとしたような複雑な気分であった。
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