角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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160、チケット。

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「くうっ・・・!」

男はある日、自室で静かに涙を流していた。
号泣する様な様子ではなく、だからといって悲し気に泣く様子でもない。
顔を上げ、前を見て、何かに打ち震える様に拳を握りながら一筋頬に落ちる涙。

「旦那さ・・・うわ、何泣いてるんですか気持ち悪い」

いつも通りノックをせずに部屋に入り、開口一番に罵倒をする女。
だが男は普段と違い反論もせず、食い入る様に視線を動かさない。
その膝の上には首を傾げる少女が座っており、隣には少し困惑した様子の虎少年も居る。

男が泣きながらも嬉しそうな様子に、少女は不思議に思いながら同じ物を見ている。
最初は心配そうにしていたのだが、顔が笑っている事にはすぐに気が付いた。
だがどうしても男がこんな風になっているのか解らず、目をぱちくりさせながら、うにゅー?と唸りつつ首を傾げている様だ。

虎少年も同じく良く解らない様子で、部屋に入って来た女に向けて小さく首を傾げて見せる。
それが少し可愛いと思ったのか、女は鋭い眼光で返しつつ視線を男と同じ方向に向けた。
当然虎少年はびくっとしたが、何も言わずに成り行きを眺める。

「・・・まったく、この男は」

女は視線の先にある物を見て、呆れた様に溜め息を吐く。
一体何を見ているのかと思ったら、それは新作ゲームのPVだった。
ただ画面に映るキャラにはとても見覚えが有り、流れる歌声にも聞き覚えが有る。
どちらも幼い頃に見聞きした懐かしい物だと、女はすぐに気が付いた。

要は昔のキャラクターとその主題歌を歌っていた歌手で、新しい作品の映像が流れている。
内容は女自身も見て懐かしいという感情が芽生える物ではあった。
ただし女は泣き出しなどしないし、むしろ阿呆かこいつはという感情で埋め尽くされている。

「旦那様、貴方は幾つですか。ゲームの映像ごときで・・・」
「い、いや、お前も最初から見ろって、あれは長年やってればくるものが有るって」

よく見ると三人の傍にはゲーム機の本体が有り、コントローラーも人数分有る。
恐らく三人で遊んでいて、休憩か何かの合間に動画を見ていたのだろう。
そしてその最中に見つけた動画に、男が釘付けになってこうなった。
女は状況からそう判断し、心の底から呆れかえっている。

「本当に貴方は・・・私生活ではポンコツの極みですね。感情は幼児並みですか」
「感情と顔が直結してない、おかしな女に言われたくねえ」
「感情が直結し過ぎて阿呆な貴方よりはマシだと思いますよ」

女に応えている内に普段通りに戻り始めたのか、いつもの様に言い合いを始める男。
だが今日はいつもの様に殴り合う事は出来ない。
何故なら膝の上に少女が居て、にゅむ~?と変な声を出しながら映像を眺めているのだから。

未だに何故男が打ち震える程の物が有るのか良く解っていない様だが、それは当然だろう。
少なくとも男の歳に近しくないと、今回の感情の理解に至るのは難しい。
だがそれでも大好きな主人を理解しようと、一生懸命映像を見つめている。

その様子に女は文句を言う気も無くなり、大きな溜め息を吐いてからまた画面を見る。
男にはああ言ったものの、流れる映像は確かに懐かしいと女も思う。
当然泣きだし打ち震える程では無いが、幼い頃を十分思い出す懐かしさを含んでいた。

「しかし、確かに懐かしいというか・・・まるでこのキャラクターの作品の新作の様ですね」
「実際は違うけどな。でもそう思えるというか、それで許せる」
「まあこのキャラクター、何度も宇宙救ってますしね」
「普通に演出も良いし、懐かしさも相まってかなり良いと思うぞ」

その作品は、長年ゲームが生まれ続けた事で出来た、良くあるキャラ総集合系のゲーム。
そして映像ではとあるキャラクターが、他のどのキャラクターよりも映えていた。
キャラクターと演出のかみ合いがとてもよく、更に子供の頃の感情を揺さぶられるような演出も含まれており、懐かしさも相まって男は打ち震えていたらしい。
要は「ゲーマーなオッサンの涙腺に弱い映像」というだけだが。

「で、何か用だったのか?」
「ええ。正確には貴方の隣に居る方にだったのですが」

男は取り敢えず普段通りの様子に戻してから問うと、女は頷きつつ封筒を差し出す。
ただし差し出した相手は男ではなく、言葉通り隣に居る虎少年にだ。

「チケットの手配が済みました。ご確認ください」
「ありがとうございます」

虎少年は礼を言って受け取り、中身を確認する。それは航空機のチケット。
書かれている予定日は数日後であり、行き先は虎少年の住む国。
つまりは虎少年の帰る日が、本当に近づいて来たのだ。

「・・・帰らないと、な」

首を傾げてうにうにゃ唸っている少女を見つめながら、虎少年は寂しそうに呟いていた。
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