角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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157、三人。

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虎少年が屋敷にやって来てから数日が経った。
蝙蝠男の時と違い善意のみでやって来た人物の騒動は、屋敷に特に影響は与えていない。
何時も通りの日常が――――とは、行かない事は有ったが。

「ふあ・・・んん~」

まだ日が昇って然程立たない早朝、虎少年は屋敷のベッドで目を覚ます。
あの後虎少年は街に戻らずに屋敷で数日過ごしている。

少女との邂逅の後に男が虎少年に泊っていく様に勧めた為だ。
屋敷にやって来た時間はもう昼を過ぎており、色々と話していたら日も暮れ始めていた。
そんな時間から屋敷を追い出す様な形も心苦しいと、何よりも男も当時の状況を詳しく聞きたくて泊って貰う事にしたのだ。

虎少年は最初こそ遠慮したが、男の願いを聞いて素直に頷いた。
ただその翌日に男が「あの子の事、暫く屋敷で過ごして見定めてくれ」と言ったのだ。
要は少女が屋敷で楽しく暮らしているかどうか、その目で確認すると良いと。

それは虎少年にはありがたい提案で、思う所が有れば少女を引き取るぐらいのつもりだった。
そこまで長い日数この国に滞在していられる訳では無いが、それでも今日明日の事ではない。
自分の家に帰らなければいけなくなる期間まで見極めようと、屋敷に滞在する事を決める。

けど、数日過ごす内に解った事は、少女はとても幸せなのだという事だ。
いつも笑顔でピョコピョコと動き回り、毎日を楽しく生きている。
仕事の時間すらも楽しく真剣で、そして何よりも屋敷の住人達を大好きな事が感じ取れた。
見ているこっちが心安らぐような笑顔をする少女に、今はとても安心している。

「もう畑に行ってる頃かな?」

部屋の窓から庭を見ながら虎少年は呟く。
初日こそゆっくり寝ていたのだが、少女の朝が早いのだと知り翌日から同じ時間に起きている。

少女は常に毎朝畑に行く訳では無いが、ほぼ日課の様に畑に向かう。
朝に畑の様子を見ない日は庭で体操をしている事も多いので、結局の所朝は早い。
なので庭に居ない事を確認して、畑に居ると判断した様だ。
虎少年は着替えて部屋を出て畑に向かおうとして、彼女が近づいて来た事に気が付く。

「あ、おはようトラちゃん。朝早いねぇ」
「おはようございます。でも皆さんももう起きてますし、そこまで早くは無いかと」

トラちゃんとは彼女が付けた虎少年のあだ名だ。
若干安直な気はするが、解り易く親しみやすい様子なのが彼女らしくは有る。
最初は「ト、トラちゃん?」と戸惑っていた本人も、ここ数日何回も呼ばれて慣れてしまった。

「あたしはこの時間に起きること滅多に無いよー」
「・・・そういえばこの時間に見かけたのは今日が初めてですね」

彼女も別に寝坊という訳では無いが、少女達の朝が早すぎるのだ。
複眼も朝食の用意で早朝に起きてはいるが、それでももう少し遅い。
仕込みは殆ど前日にやっているので、そこまで張り切って起きる必要も無いだろう。

同じく単眼も基本的にこの時間に起きないし、羊角も起きて来るのは稀だ。
男に限っては起こされない限り絶対に起きて来ない。
この時間に難なく起きて普通に動いているのは女と少女だけだ。
いや、最近はもう一人増えているが。

「それじゃ、僕は畑に向かいますので」
「あ、じゃああたしもー」
「・・・お仕事は大丈夫なんですか?」
「さっき言ったじゃない、普段はこんな時間に起きないって。なーんにも無いでっすよー」
「そ、そうなんですか」

彼女の距離感の近さと気安さにはまだ慣れない様子で、虎少年は少し対応に困っている。
ただ彼女のこの気安さと単眼の心遣い、そして痒い所に手が届く女と複眼の世話。
使用人達それぞれの特質が過ごし易い空気を作り出している事を感じていた。

因みに今回羊角は少々猫を被っているので、虎少年の前では優しいおっとりお姉さんである。
とはいえ相変わらず少女を記録する事はしているので、微妙に被り切れていないが。

二人はそのまま畑に向かうと、畑には二人の人物がちょろちょろと動いていた。
一人は当然少女。そしてもう一人は少年だった。
ここ最近、というか虎少年が畑に向かう様になってから、少年も何故か畑仕事に参加している。

「じゃあ僕も混ざりに行ってきますけど、貴女はどうされますか?」
「あたしはここで可愛い皆を見守っておくよー」
「あはは、じゃあ行ってきます」

彼女に手を振って少女達の下へ行く虎少年。
気が付いた少女がにこーっと満面の笑みで手を振って迎え、虎少年も楽しそうに挨拶を返して優しく頭を撫でる。
虎少年の手は肉球が有るので、独特の感触に少女は楽しげな様子だ。
女性に余り慣れてはいない虎少年だが、少年と違いこの程度なら平気らしい。

少女の見た目は可愛らしい年下の女の子で、何だか妹が出来た様な気分にもなっている。
それは少女も似た様な感じで、少し年上の優しいお兄ちゃんの様に感じていた。
とはいえ流石に抱きつかれるのは慣れない様で、テンションが上がって抱き付いて来た少女には顔を赤くして挙動が少しおかしくなるのだが。

そしてそんな二人を見て、何だか良く解らないが、本当に何故なのか解らないが、言いようの危機感を抱えている少年が一人。
全く理由は解らないが、二人が仲良くしているのを見ると胸の奥がもやもやする。
何よりも少女が虎少年に向ける笑顔は、自分や屋敷の者達に向ける物とは少し違う。
それが尚の事、少年の良く解らない不安を加速させていた。

それ故に最近の少年は何かに囃し立てられる様に、少女との時間を作ろうとしている。
畑仕事を手伝っているのもその一つだ。
とはいえ少女に対する態度は相変わらずなので、関係の変化などは見られないのだが。
いや、多少はきっと有った。少年が少女に良く近づく様になったという変化だけは。

「あははっ、ほーんと、可愛いねぇあの子達」

そんな微妙な関係の三人を彼女は楽し気に笑いながら見つめる。
恋と呼ぶにはまだ少し淡い。愛と呼ぶには余りに遠い。
微妙な生温さの有る空気感を、屋敷の皆は優しく見守るのであった。
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