角持ち奴隷少女の使用人。

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155、思ってたのと違う。

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今日も今日とて少女はご機嫌に犬と散歩に出ていた。
最近はまた毎日お散歩に出れるようになったので、少女も落ち着き始めている。
彼女と少女と犬の何時もお散歩面子に猫を足して、のんびりといつもの散歩道を歩く。

猫は相変わらず彼女か少女の腕の中だが、ぶなーんぶなーんとご機嫌に鳴きながら足をパタパタと動かしている。
のどかな田舎道に不思議な鳴き声を響かせる猫と、鳴くリズムに合わせる様に揺れる犬の尻尾を見て、少女はとても楽しそうにクスクスと笑っていた。

だがそんな散歩の途中、少女は珍しい物を見かける。
少し遠くに虎顔の少年がキョロキョロと周囲を確認しながら歩いているのを見つけた様だ。

何だかんだと田舎の町。周囲に住む人は殆ど顔見知り。
だから知らない顔が街に来ればすぐに解る。それが子供であれば尚更だ。
特に同年代が町に居ない事が、少女の意識を持っていくには十分な存在だった。

「ん、どうしたの角っこちゃん」

少女が足を止め一点を見ている事に気が付き、彼女は問いかけながら同じ方向を見る。
すると虎少年も少女達に気が付き、そして驚いた様子でぼとりと端末を落とした。
だがすぐに慌てて端末を拾うと、嬉しそうな顔で少女の下へ走る虎少年。
その速度はかなりの物で、小柄に見合わぬ速さであっという間に少女の下までやって来た。

「み、見つけた・・・!」

全力疾走だったのか少し息を切らしながら、嬉しそうにそう口にする虎少年。
だがその言葉に彼女が即座に動いた。

「この辺りでは見かけない子だけど、何の用かな?」

少女の壁になる様に立ちながら、警戒しつつ彼女は問いかける。
見つけた。その言葉は屋敷の者達にとって少し嫌な思いのある言葉だ。
見知った相手ならばともかく、初めて見る人間が、それも少女に対して。
まだ蝙蝠男の記憶が新しい彼女にとって、虎少年は警戒する対象でしかない。

虎少年はその警戒を受けて少し怯む様子を見せ、だがすぐに表情を引き締めた。
そして視線を彼女の後ろからチラチラと見える少女に向けたまま口を開く。

「その子を、助けに来ました。解放してあげて下さい。彼女は、彼女が奴隷なんておかしい!」

睨むように、挑むように、彼女に向けて力強く言い放つ虎少年。
その言葉に彼女は細かい事情を知らないままに、何となく状況を察する。
細かいところは解らずとも間違っていないだろうと思い、虎少年への警戒を解いた。

「何だい少年、角っこちゃんに惚れちゃったのかい? うちの可愛い子だからあげないよー?」
「へ・・・え、い、いや、ち、違います、何言ってるんですか!」

そしていつもの調子に戻った彼女は違うと解っていながら揶揄う様に問うと、虎少年は一瞬ポカンとした後に言葉の意味を噛みしめ、アワアワと慌てだした。
顔が毛皮なので種族の違う彼女には表情が上手く読めていないが、確実に照れている事だけは態度から解る。

「可愛いねぇ、少年」
「な、なにを、な、撫でないで下さい!」
「うーん、もふもふで良い手触り」
「は、話を聞いて下さいよ!」

話を真面に取り合ってくれない彼女に抗議をするが、彼女は虎少年を撫でて可愛がる。
虎少年の皮膚は厚く、毛皮はもふもふなので中々に手触りが良いらしい。
彼女には解らないが顔を赤くしながら狼狽える虎少年は、それでも彼女を力づくで払いのけない辺り優しい性格なのが見て取れる。
そして犬や猫とはまた違うもふもふ加減を楽しむ彼女を見て、少女も手をワキワキさせて触りたそうにしていた。

「ちょ、や、止めて下さい」
「角っこちゃんも触らして貰うー?」
「人の話聞いてます!?」

自由人過ぎる彼女に驚きながら、彼女に問いかけられた少女に目を向ける虎少年。
すると少女は手を伸ばそうか伸ばすまいかという中途半端な体勢になっており、駄目?と問う様に首を傾げていた。

虎少年はその仕草に固まり、葛藤し始める。
時間にしてはさしたる長さではなかったが、本人にしてみればかなり葛藤した。
その結果。

「ど、どうぞ・・・」

腕まくりをして腕を差し出す虎少年。押しに弱いようである。
虎少年は腕も毛皮でふかふかで、少女はその手触りにニコーっと笑顔を見せた。
その様子に虎少年は少しほっとした気持ちになり、恥ずかしがりながらもまあ良いかと思い始める。

ただ虎少年の毛皮が気持ち良かったのか、少女は腕に頬を擦り付け始めた。
腕に抱きつくような仕草をする少女に虎少年は驚き、心音が上がるのを感じる。
その上少女は留まる事を知らず、虎少年の肉球もプニプニし始めた。

にっこにこしながら虎少年の腕を満喫する少女に、肉球から伝わって来る柔らかい少女の手の感触と暖かさに、虎少年は完全に顔を真っ赤にして固まっている。
だが悲しいかな虎少年の表情は少女にも伝わりづらく、そもそも今の少女は腕しか見ていない。
皮が厚いのに少々筋肉質な所も含めて、とても珍しいと感じて楽しんでいる様だ。

「角っこちゃん、ステイステイ」

虎少年が固まって動かなくなった所で彼女が待ったをかけ、少女はハッっと正気に戻る。
そして照れ臭そうに離れるとありがとうと頭を下げ、虎少年は思考が上手く復帰しないのか曖昧に頷いて返す。
彼女はそんな虎少年を見て楽しそうにニヘラッと笑っていた。

「じゃあ、いこっか!」
「へ、え、い、行くってどこに?」
「屋敷に。角っこちゃんに会いに来たんでしょ?」

彼女はポンコツになっている虎少年の手を取ると、そのまま屋敷に向かって歩き出した。
虎少年が悪い子ではないのは先の態度で見て取れる。
だけど彼の言う通り少女を開放など、彼女にそんな権限は無いし、したくもない。
彼女はまだまだ少女を可愛がっていたのだから、何処かに行かれるのは嫌に決まっている。

とは言ってもここで虎少年を追い返した所で余計な面倒が起きる気がするし、それならばいっそ連れ帰ってちゃんと話をさせようと思ったらしい。
面倒は全部男に丸投げである。まあ少女の主人は男なので致し方ないのだが。
それにこの子は何だか可愛いし、邪険に扱うのも何だかねーとも思っている様だ。

困惑する虎少年の手を優しく握って微笑みかけ、すると挙動不審になる虎少年。
恥ずかしさと緊張でそうなっているのだが、少女はその様子を見て勘違いをした。
表情が読めない事も要因だろうが、虎少年の耳が垂れている事で怯えていると思ったらしい。
だから少女は大丈夫だよと、空いた手で少年の反対の手を優しく握る。

当然虎少年は驚き、余計に挙動不審になった。
少女は顔を見上げながら優しく力を籠めるが、どう考えても完全に逆効果である。
両手に柔らかい女性と女の子の手で握られて連行されるという、訳の解らない状況に混乱しながら虎少年は素直に付いて行き、ぶなーんぶなーんという鳴き声が屋敷に帰るまで響くのであった。
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